4話 出発
「ノア頑張ってる?」
「うん」
「そっか! じゃあ私は部屋に戻るけど頑張ってね!」
「おう」
(俺のために見に来てくれたのか)
わかっているようでわかってなかった。護衛として雇われたのは実力があるから...。俺でなくてもいいのかもしれない。そう思っていた。でもルビアが笑顔で見に来てくれて気づく。
小さなころは暗殺者として一人前になるために毎日過酷な練習をしていた。その時は誰かが応援してくれる、そんな人はいなかった。できて当たり前。できなくちゃ存在意義がない、そう思っていた。でも今は違う。俺を応援してくれる人がいる。もしできなくても必要としてくれる人がいる。そう思ってくれる存在ができた。いや、見つけた。
だからこそ期待してくれる人に答えたい。
気付かされた日から一層、毎日執事の練習と護衛の仕事を両立しつつ頑張ることができた。最初こそ背筋を伸ばしつつ何かに取り組むことの難しさに悩まされていたが、次第に慣れてきた。そこで気づく。
(背筋を伸ばすのって本当に大切なんだな)
背筋を伸ばすことによって視野が広がった。まず王室で働いている人が何をしているのかが今までよりはっきりわかるようになった。そして護衛をしている時はルビアは何を見ているのか。何をしたいのか。それが分かるようになってきた。また背筋が伸びていないということは体勢が悪いことを意味する。それは自然に体へ負荷がかかっているということ。でも背筋を伸ばすのを意識し始めてから疲れることが減った。
今まで戦うための基礎ばかり教わってきたけど、日常生活で行っている行動1つ1つを治すことでここまで変わることがわかることがわかった。
そしてあっという間に隣国であるエーディリ王国に向かう日になる。いつもなら普段着で行くのだが、今回は護衛兼執事として向かうため、燕尾服を着ている。ルビアもいつもとは違いドレスを着ている。
(本当に執事として行くんだな...)
練習の時も何度か燕尾服を着たがあまり緊張しなかった。でも今は違う。ルビアや俺を含め、大半の人が正装を着ている。
(緊張してきた)
初めての執事。それに加えて護衛の仕事もある。そう思うと今まで感じなかった不安がこみ上げてきた。ルビアが馬車に入った後、俺も一緒の馬車に入る。
「ノア似合ってるね!」
「ルビア様こそお似合いですよ」
敬語で話すとルビアはしゅんとした顔で俺に
「なんで敬語なの...? ため口でいいのに...」
「今から向かう場所には多数の貴族がいらしておりますので、敬語で話させていただいております」
今敬語で話さなかったら、向こうでもボロを出してため口でルビアに話しかけてしまうかもしれない。それだけはやっちゃいけないこと。俺はローリライ第二王女の執事としていく立場。俺の行動一つ一つがローリライ家と繋がっている。もしミスでもしてしまったらローリライ家の名前に泥を塗ることになってしまう。それだけはだめだ。
「でも...。まだ誰もいないよ?」
今乗っている馬車にはルビアと俺しか乗っていない。だからそんなに早くからやらなくてもいいと言っているのかもしれない。
「だからですよ。誰が見ているかわからない以上、気を引き締めなくてはいけません」
「だからって...」
ますます悲しそうな顔をし始めた。そんな顔するなよ。おれはまだローリライ国内にいることを確認して
「ルビア。俺はお前の幼馴染だ。だから敬語なんて使いたくない。でも今回は別だ。ローリライ家の名前を背負ってるからな。だから今回だけな?」
「わかってるけど」
「じゃあどうすればいい?」
「国に帰ったらノアがなんでも私の願いを1つかなえること!」
え? それ重くない? ルビアの願いなんてかなえられるか? 王女なんだから願いなんて無いと思うんだけど...。まあそれで納得してくれるなら。
「わかった」
「うん。約束だからね! 忘れないでよ!」
「あぁ」
ルビアがご機嫌になったのを見つつエーディリ王国に向かった。
(それにしてもそんなにお願い事でもあったのか?)
この時、ルビアからとんでもない事を言われるのをまだ知らなかった。
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