第39話 祭りばやし――幻の再会
テンツクテンテン テンツクテン
祭りばやしが 聞こえて きます
戦後 はじめての 秋祭り……
村の 入り口には のぼり旗が 立ち 真新しい しめなわも 張られて います
つらかった 日々が うそのように おだやかな 暮らしが はじまって います
*
従姉の あき子ねえさんに さそって もらった わたしは
暗く しずんで いた きもちを はげます ように して
村はずれの 神社まで 出かけて みる 気に なりました
村から お宮に つづいている ほそい 道には 三三五五
久しぶりの お祭りに 行く ひとたちが あるいています
9月も 20日を 過ぎると 吹く 風も つめたく なり
かあさんが 自分の セーターを ほぐして 編んでくれた
チョッキの あたたかさが じんわり つつんで くれます
*
村の ひとたちが 「石灯籠」と よんでいる 大きな 2基の 石塔の まえを
ぬけると 「小宮」と よばれる 昼もなお うすぐらい ところに いたります
名前の とおり 小さな お宮が まつられて いて その まわりは ちょっと
した 広場に なっており そこを 通る とき わたしの 胸は 高鳴りました
しばらく 行ってから おそるおそる ふりかえって みると 小宮の あたりに
うすい 夕日が さしこんで なにかの 舞台の ように 光って 見えました
*
神社の 境内 には むかしの ように 露店も 出て いて
鼻を つく アセチレンガスの 匂いが ただよって います
社殿では おごそかな 神事が はじまって いる ようです
刻一刻と 人混みが だんだん はげしく なって きました
長い 戦争から ようやく 解放された 安心と よろこびで
村の ひとたちの 足どりも 軽やかに 浮きたって います
おどろいた こと には 戦争の 末期 には 村じゅうから
消えて いた 男衆まで ぞろぞろ いるでは ありませんか
わたしの 背中は ある 期待に ぞくっと ふるえ ました
*
とそのとき なつかしい 顔が 目に とびこんで きました
――あっ そういちさん!
学生服の 横顔も 凛々しい 若者👦は ちらっと こちらを
見た ようでしたが さりげなく 視線を もとに もどすと
なにごとも なかった ように どんどん 歩いて 行きます
――あっ 待って!
わたしは あき子ねえさんを ふりきり あとを 追いました
でも 若者が ふたたび こちらを ふりかえる ことはなく
他人行儀な 背中を 人混みに とけこませて しまいました
*
気づくと 小宮の まえ まで 来て いました
そういちさんが 学徒動員で 出征する まえに
手紙を 交換しあった なつかしい 場所……💌
*
すぐ ちかくに 新幹線の 駅が できた いまは
小宮の あたりは きれいな 公園に なりました
けれど 平和な 暮らしを たのしむ 家族連れや
カップルで にぎわう 公園の 片すみの 古びた
鳥居に 目をとめる ひとは めったに いません
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