第37話 柱時計は見てきた――秒針の記憶
ボーン ボーン ボーン ボーン
柱時計が ときを 告げています
古く ひっそりとした 屋敷中に
*
この 大きな 柱時計は いつから ここで ときを 刻んで きた のでしょう
おとうさんの代 おじいさんの代 それとも もっと ずっと むかし から……
いまでは だれも 知りません だって だれひとり 気にかけて くれないので
ですから 柱時計は たいそう ふきげんな 表情を して
まるで 千年も 万年も まえから ここに いる ように
家の なかの 風景に ぬりこめられて いる しかなくて
*
――ふああぁ それにしても 退屈で たまらんわい(´Д`)
柱時計が つぶやいたとき ふすまが 開いて 白髪の 老女が あらわれました
90歳を とうに こえて いる 老女は 柱時計と 同じ ゆううつな 表情で
茶の間 から 踏み台を もって くると 「どっこらしょい」と のぼりました
くすんだ 着物の すそが 足首に からみ よろよろ するのは いつものこと
老女は 梅干しの ような 口を むすんで 柱時計の ガラス扉を あけました
そして ぎゅっ ぎゅっ ぎゅっと ちからを こめて ネジを 巻き始めました
柱時計は 歯医者さんの 診察台の 患者の ように かたまって います(笑)
さいご まで 巻き おえた 老女は よろよろ しながら 踏み台を おりると
おもしろく なさそうな 顔のまま ふすまの 向こうへ 行って しまいました
*
のこされた 柱時計は さっき よりも きっちりと ときを 刻み 始めました
――コツ コツ コツ コツ コツ コツ
けど おれ いつまで こうして……
秒針を うごかし ながら 柱時計は またしても 深い ため息を つきました
*
むろん むかしは こうでは なかった のです
はたらき ざかりの ご当主夫妻に ご隠居さん
坊ちゃん 嬢ちゃん 犬 猫 兎 鶏 🐕🐈🐇🐓
そのうちに ひとり 抜け ふたり 抜け して
気づいたら 年老いた 奥さん ひとり だけに
そう 戦争が みんなを 連れ去った のでした
屋敷の 栄枯盛衰を 見て きた 柱時計は おのれの 無力を 嘆き ながら
老いた 奥さんが ネジを 巻いて くれる うちは 元気で いなきゃ……と
*
見知らぬ まちの 古道具屋の 隅っこで わびしく 西日に 照らされ ながら
針の うごかない 柱時計は はるか むかしの 思い出を たどって いました
とそこへ レトロ好きな お客さんが やって 来て 柱時計に 目を とめ……
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