短編集 儚き言の葉
SIEN@創作のアナログレーター
1つ目の言の葉
「これで最後だな」
俺は真正面に立つ親友に向けて、そう言い放った。
お互いの手にはしっかりと剣が握られている。相手の心臓に向けられたその切っ先には、微塵の迷いもない。時折雲間から除く陽光が照らしだす断崖絶壁で、微動だにせず牽制しあう二人には、もはや一刻の猶予もないのだった。
「楽しかった……よな?」
にか――っと笑う友。
普段から愛嬌のあるやつで、いつも明るく、周囲を和ませるムードメーカーだった。例外なく俺も、そんなこいつに何度助けられたことか。
俺はその笑顔に、もちろん笑顔で返す。
「……おい……わらってくれよ」
そういって眉を歪ませる友の言葉に促されるかのように、頬に手を触れる。
どうやら俺は、笑えていないらしい。
「不器用だな」
眉を歪ませたまま、今までで一番の笑みを見せる友に対し、おれはこれ以上耐えることなどできなかった。かろうじて握っていた剣を力なく滑落させ、跪き、両手を地につける。
『……俺には……無理だ……』
言葉にならない声が漏れる。嗚咽交じりのその声に群がるのは恐怖。この世のすべてが絶望に変わり、思考を停止した。
ゆっくりと友が近寄ってくる。俺は肩を小刻みに震わせながら、“その瞬間”を待った。
これは恐怖からではない。
解放される。この苦悩から解き放たれる。そう感じたことへの喚起からだった。
友はゆっくりと剣を振り上げる。
もう、怖くはない。
涙を流しながら俺は、この瞬間にやっと笑顔になれた。
◇
「……被検体6084。セクションクリアを確認。また失敗です」
真っ暗な部屋の中で、複数のモニターを凝視する白衣の男女。男は女のセリフを聞き、モニターから離れる。
「また駄目だったか」
ため息交じりに後ろの椅子へと腰かける。
「……お前、第一志望、ここだったんだって?」
男は煙草に火をつけながら尋ねる。『趣味わりいな』と続ける男に、女がゆっくりと向き直る。
「だって……面白いじゃないですか……」
モニターの奥。
ガラス張りになっいる先に見えるのは、腹から下に無数の機具を取り付けられた青年が一人。いたるところに取り付けられたパイプからは常に何かが送り込まれ、穴という穴からは体液が漏れていた。
「……趣味わりいな……」
立ち込める煙。
それに相反するかのように、青年の表情は晴れていた……
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