見える未来

みなみ

見える未来

僕らは生まれた日に死ぬ日を知る。


僕は後56年後、72歳に死ぬ。

これは推測、予測ではなく確約された未来だ。


20xx年


日本は法律で死ぬ日を知る権利を得て皆が

その権利を行使している


およそ20年前にメイソンという偉大な博士が見つけた

ある細胞の発見から、寿命が視覚化された


いつ死ぬか、自分の寿命が正確に分かるようになったのだ。


人々はそれを奇跡の大発見と歌った


新たに掘り起こされた方程式は、何千年も前から眠っていた理


掘り起こされるまでは、まるで存在してなかったみたい


でも、いざ掘り起こされると、今まで浴びることの出来なかった脚光という光を

これでもかというくらい、全身で浴びている


見えた僕たちの命の限界で


分からなかったことが分かるようになったことで、少し変わった今までの常識


死を知る権利が施行されたばかりの時


この変換にかつての日本国民は


「そりやぁ、大反対をしたんじゃよ」と

僕が小さいころにじいちゃんは言っていた


「人はいつか必ず死ぬじゃん。

なんでそんな当たり前のこと知ってるのに

いつ死ぬのかは知りたくないの?」


今の日本は誰一人例外なく、生まれた日に死ぬ日を知る


出生届を出している子供なら全員が知っている


こんな当たり前なことを


死ぬ日を知りたくない意味が分からなかった


「いいか、死がいつかわからないというのはな

死という逃れられない運命から逃れている錯覚に陥るのじゃ。」


「...どういうこと?」


「ほっほっほっ、見えないことで見えるものがあるんじゃよ。」


「見えなかったら見えないじゃん…」


「いずれ翔貴(ショウキ)もわかる時がくる」


あの時、じぃちゃんは頭を撫でながら言ってた

その時の言葉の意味を僕はまだ分からない。


分かるのは死を知っても生活は大きく変わらないこと


制服のスカートは短い方が可愛くて、夏の日差しは眩しくて


夜中にブランコで食べるアイスはおいしいこと


あいも変わらず、スーパーのおばちゃんは商品の値段を歌って

それに答えるようにピッと高い音を鳴らしてる


今、歩いてる通学路の河川敷だって

小さい時から変わらず果ての海まで泳いでる


そして、この通学路で今日も...


「よ!!」


後ろから柏木真帆がどつく


ドンッ!

その衝撃でよろめくが、びっくりはもうしない


毎朝、登校してるときに、同じクラスの柏木真帆に背中をどつかれるのだ


柏木真帆にどつき休みもどつき定休日もない


そのため、河川敷を歩くときは常に後ろからの衝撃に常に備えてる


しかし、今日の一撃は普段よりも重たい


昨日いいことあったのか。予想より強めの衝撃によろけてしまって、そのまま、坂をコロコロと転がってしまった


そして


朝の眩しい太陽の光をバックに、坂の上で仁王立ちしてる、柏木真帆を眩しさに蓋をするように少し目を細めて、下から見上げた。

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