一 鏡城
※作者より
拙作において、乞食という言葉が出てきます。もし、ご不快に思われたら、お詫びいたします。
鏡城といい、鏡山城という。
大内家。
義興は日明貿易を己のものとすることに成功するが、だがその代償はあまりにも大きかった。
領国である
その代表格が、雲州の狼・
最終的に、大内義興は周防に戻り、中国の安定に努めることになるのだが、その時点でもう遅く、尼子経久の侵略をとどめることは叶わなかった。
そのような状況下で、九州の方で領土争いが生じ、大内義興は、九州に兵を向けざるを得なくなった……。
*
「安芸を攻める」
大永三年(一五二三年)。
大内家の九州出兵を知り、尼子経久は麾下の将兵に号令をかけた。
なおその際、腹心の亀井秀綱に命じて、安芸における尼子傘下の国人へと招集をかけた。
「毛利家は特に」
書状を
毛利家。
毛利家は、先年、有田合戦において、およそ五倍の安芸武田家の軍を打ち破り、、当時の安芸の国人において、一躍有名な存在となった国人であった。
その有田合戦にて、当主の毛利幸松丸に代わって指揮を執った後見の叔父を、
*
毛利家は、元々、元就の兄である毛利
興元の遺児・幸松丸は当時二歳であり、興元の弟である多治比元就が毛利を仕切ることになった。
元就は当時、弱冠二十歳。
武田元繁はこれを好機と見て、進撃を開始。
元繁は尼子経久の姪を
「
そう言い切ったのは、多治比元就である。
元就は、その居城・多治比猿掛城へ攻めかかってきた安芸武田家の尖兵、
元就の率いる兵は百五十に過ぎなかったが、力戦奮闘と、地の利を生かした戦いによって、猛将の誉れ高い熊谷元直を退けることに成功する。
と同時に、元就は毛利家全軍を招集し、また吉川家への援兵を要請、そのまま熊谷元直の中井手の陣へ攻め入り、討ち取ってしまう。
その報に接した安芸武田家の武田元繁は怒り狂い、毛利と吉川を
又打川という川を挟んで激突する両軍。
だが、数の利がある安芸武田家は押しに押し、ついに総大将の武田元繁が馬上、川を飛び越えようとした。
「あれ射てや、者共」
元繁が川の上を「飛ぶ」最中、毛利の兵は一斉に矢を放つ。
たまらず、元繁は落馬し、そこを毛利家の井上光政に首を取られてしまった。
有田合戦、あるいは有田中井手の戦い。
そう称される、この
そしてこの戦いこそが元就の初陣であり、そのことが元就の名将としての片鱗を感じさせた。
……少なくとも、尼子経久にとっては。
*
「毛利は、危険だ」
尼子経久は、大内家不在の安芸を、武田元繁を煽って荒らさせ、元繁が安芸を取ればそれでよし、それでなくとも、「荒れた」安芸を、悠々と尼子家が侵略するという手筈を目論んでいた。
「それを、あの
この時点で六十近い翁である経久からすると、二十歳を越えたばかりの元就は小童に過ぎない。
だが、その小童が、安芸武田家五千の軍を打ち破ったのだ。千の兵で。
「番狂わせにもほどがある」
経久は元就の勝利を知り、驚愕しつつも、この隙をと思って兵を集めた。ところが、その最中に、元就から尼子への帰順の申し出を受けた。
「次なる尼子の安芸への戦、毛利も力を貸したい」
そういう言い方をして、元就は経久に「すり寄って」来た。
恐るべき政治感覚である。
経久は舌を巻いた。
通常ならば、大内義興に対してますますの忠勤に励むべきだ。だが義興は相変わらずの不在だ。しかも、有田中井手の戦いのあとも、義興は帰って来なかった。
「遠くの主より近くの敵」
そんな表現をした元就は、経久にあっさりと合力すると
「……ならば、加わってもらおうではないか。尼子の安芸への戦に」
そううそぶいた尼子経久は、安芸の東西条・鏡城へと兵を進めた。
そして亀井秀綱に毛利への出兵要請を命じたというわけである。
毛利が尼子にすり寄ってきたにもかかわらず、その実、大内家と手切れをしていないのは知っている。
「二股膏薬である」
経久はそう喝破したが、国人の弱い立場としてはやむを得ないことは承知である。承知であるからこそ、有田中井手の勝者に、敢えて尼子方という旗幟を鮮明にしてもらう
「毛利が、わが尼子に味方すれば、他の安芸の国人も……という寸法ですな」
さすがに腹心である亀井秀綱はわきまえたもので、主君の意図するところを正確に理解していた。
「そうよ」
経久は笑った。大内方として五倍もの敵を撃破した毛利が、その数年後には、尼子方として、経久と
秀綱は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます