ブラッドシティ2
本間舜久(ほんまシュンジ)
第1話 Japanese Boy
分厚い雲を何時間も眺めていました。
太陽はいつも前方にあって、ぼくたちは轟音に耳も頭もおかしくなりそうな中、東へ向かっていたのです。
小さな傷だらけの窓の向こうは、雲の上の世界でした。
そしてガタガタと震えながら、なにもかもぶっ壊れてしまいそうな、そう、パイナップルの空き缶を遠くへ蹴飛ばして、その中に入れられてしまったような気分のまま、ぼくは落ちていったのです。
このまま落ちるんだ……。
パッと窓の外に見慣れない地表が現われました。やがてそれはたくさんの建物となり、無数のビルや道路が整然と並んでいたのです。
見たこともない世界。見たこともない町。
前日から飾り付けられた街並み。右手の広い道路が緩やかにカーブしています。みんなが「リフレクティング・プール」と呼んでいる装飾のための池。池は二つ並んでいて、どちらも人工的で浅く、ぼくたちのいる灰色のビルを反射していました。
磨かれた分厚いガラス窓の向こうにそんな景色が広がっています。
午前中は雨も降ったので、池のあたりはとてもみずみずしく輝いています。
それにしてもすごくいい天気となりました。
ちょっと風はあるものの。十一月として、気温が華氏六十五度とか七十度といったあたりなので、日の当たるところはやや暑いぐらいなのでしょう。それでなくても、暑がりの人の多い国らしく、上着を脱いでいる人もいました。
ビルの中は静かだし、エアコンディショナーという装置のおかげで、快適でした。窓を開けなくてもそよ風を感じ、室内はヒンヤリしているのです。ここでは、夏でも団扇や扇風機がいらないようです。
左手はメインストリートが真っ直ぐ延びています。パレードはわざわざ、右から左のメインストーリー方向へ絞り込むようにカーブしているエルムストリートを通ることになっていました。テレビ局の車が何台か通過したものの、彼らはこのあたりで撮影する気はないらしく、どこかへ行ってしまいました。
ディーリー・プラザと呼ばれる一角にあるダラスカウンティー・クリミナル・コーツ・ビルディングの八階。ぼくはそこから、真下に左右つまり南北に走るヒューストン・ストリートと、右手の東西に延びるエルム・ストリートをぼんやり眺めていたのです。
シャツ、半ズボン、上着、ベレー帽。脹ら脛を覆う靴下。バックルのついた黒光りする靴。どれもこれも新品です。
周囲にいる人たちは、男はみなスーツ姿で、女性は細いスカートに短い上着を着ていましたので、ぼくの格好はともかく、この場にはふさわしいようでした。
エルムのカーブに沿って滑らかに起伏している緑の丘。反射池から西側に広がっていて、それはまだ午前の光に照らされて、雨に濡れた芝生も乾きはじめ、のんびりそこで足を伸ばして会話をしている人たちもいます。
ちょっとだけ過ごしたアラスカとはまったく違う大都会。ついこの間まで長く過ごしたサンフランシスコのような坂も、ここには見当たりません。どこまでものっぺりと平坦。ここで生まれ育ったら、地球は平らだと思っても不思議ではないでしょう。
ぼくの悩みはまったく晴れていません。
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