妹は人気男装ユーチューバー!?

茜カナコ

第1話

ガタゴト、ガタゴト。


俺は深夜、隣の部屋の物音で目を覚ました。

妹の部屋から、何か声が聞こえる。

「いいよ、可愛いね、子猫ちゃん」


何だろうと思って、妹の部屋をノックする。

トントン。

「ちょ、ちょっと待って」

「なんだよ、なんかうるさいぞ?」


俺がドアを開けると、見知らぬ男がこっちを向いた。

「誰だ? お前? さくらはどこだ!?」

俺が男の腕を掴むと、男は聞き慣れた声で言った。


「痛いよ、お兄ちゃん!」

机の上にはヘッドマイクとWEBカメラがセットされていた。

「おまえ、こんな時間にこんな格好で何やってたんだ?」

「・・・・・・動画上げてた」

さくらは、観念したらしくノートPCを差し出した。

「これ、私のチャンネル」

「登録者、一万人超え!? 凄いじゃん」


「うん、男装系ユーチューバーなの、私」

俺はクラクラしながら、さくらの格好を見直した。

黒いブラウスにタイトなクロのパンツ。

化粧が濃く、前髪は垂らしているがかなりの美形になっている。


「お母さん達には言わないで!!」

さくらは懇願してきた。

「そのかわり、お兄ちゃんも素敵な女の子にしてあげる」

「は!?」

さくらはそういうと、自分のクローゼットからフリルのワンピースを取り出した。

「これに着替えて」


「嫌だよ」

「エロ本の隠し場所、お母さんに言うよ?」

「なんでそんなこと知ってるんだよ!?」

俺は好奇心半分、付き合い半分でワンピースに着替えることにした。


ワンピースのサイズは俺が小柄なこともあって、ぴったりだった。

「いいね、似合ってる。そしたらメイクするよ」

「ああ、もうどうにでもしてくれ」

俺はさくらの自由にさせた。

三十分くらい顔に何かを塗ったり、まつげを張られたりウィッグをかぶせられたりした。

「カラコンはちょっと怖いから良いよね」

「やめてくれ」


「もう、できたよ。はい、鏡見て」

俺は目を開けて、姿見で全身と顔を見た。

そこには可愛らしい美少女が立っていた。

「はい、チーズ!」

俺がさくらのほうをむくと、リングライトが光っていて、写真を撮られた。


「じゃあ、WebにUpするよ」

「ええ!?」

ツイッターに朔(さく)というアカウントで、さくらは俺の女装写真をUPした。

美少女と一緒と一言書いてあった。

そしてそれは、すぐに沢山のいいねが付いた。


「お兄ちゃん、やるじゃん!」

「俺を巻き込まないでくれ」

俺は化粧を落としてもらい、ワンピースから元のパジャマに着替えた。

「兄弟共演、けっこう人気出るかも」

「俺はやらないぞ」


さくらはつまらなそうな表情で言った。

「もったいない、可愛かったのに」

俺は部屋に戻ると、さくらの裏垢を見てみた。

もう、3000いいねになっている。

「新しい世界が見えそうで怖いな」


俺はドキドキして、なかなか眠れなかった。

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