『趣味?』

「趣味?」


「そう」


「カナデさんは、ゲームですか?」


「見てのとおりよ、VITに誘われる前は、ゲームか読書くらいしか、楽しみが無かったからさ」


 ノゾミはカナデの身の上を思い出す。

 生まれつき両足が無く、苦労をしたという話だ。

 

「どんなゲームするんです?」


「格ゲーとFPSが多いかな? 『ウィルオウィスプ・アペンディッド』とか、『ウォーガーデンⅣ』とか」


 カナデのあげたゲームタイトルはノゾミにはまったく馴染みのないものばかりだった。そもそもノゾミはゲームをほとんどしたことが無い。

個人端末用のパズルゲームくらいだ。



 ちなみに、『ウィルオウィスプ・アペンディッド』は、各属性の精霊たちが戦う格闘ゲームで、属性ごとの個性や、必殺技やスキルを好きにカスタムしたり入れ替えたりできる自由度の高さを売りにしている。『ウォーガーデン』は、広大なマップ内で重火器や戦闘車両を使って殺し合う、一人称視点のゲームだ。主に陣取り合戦モードがメインだそうだ。


 どんなゲームか、カナデが説明してくれるが、それでもノゾミにはピンとこない。


 特にFPSは、軍用兵器の勉強をしていたらいつの間にかハマってたそうだ。


「……ノゾミは、こういうの興味ないのね」

 

 カナデはちょっと残念そうだ。

 ノゾミが、同族とは程遠かったからだろう。


「なんか難しそうだもん……」


「やってりゃうまくなるわよ、そんなもん」

 と、カナデは笑うが、ノゾミにはそうは思えなかった。


「で、あんたはどうなのよ?」


「え?」


「無いの? 趣味」


「……」

 ノゾミは考える。

 思い当たるものがあまりなくて。


「休みの日とか何してんのよ」


「休みの日は……」


 よく、愛海と出かけていた。

 いや、どちらかといえば、あのポジティブさとアグレッシヴさで、引きずり回されていたという感じが強いが。


 そう思えば、なんだか、ノゾミは元気をなくしてしまう。


「――あの子も、きっといつか、ここに来るわよ」

 

「え?」


「帰る場所、無いんでしょ? あの子」


 カナデは察しが良い。

 ノゾミは少し遅れて、愛海のことを言っているのだと理解した。 

 うん、とノゾミは頷く。


「じゃあ、いつかここに来るわ」


「そっか……」


「だからさ……」


 自然とうつむいてしまっていた視線を、上げる。

 ノゾミはカナデと目が合う。

 まっすぐに。


「あんたも、この場所、守ってくれない?」


「私が……?」


「そう。できればでいいからさ。あんたは、もう解るはずよ。大事な物が失われることの辛さが」


 この施設は、帰る場所がない子供たちばかりが居る。

 ここが失われれば、唯一の拠り所が無くなってしまう。


 それに、いつかここは、愛海の居場所になる所だ。


 大事な物……大事な友達や家族を、もう二度と失いたくない。

 そんな気持ち。

 今のノゾミには痛いほどわかる。

 


 だから。


 うん。


 と頷いて。 


「私で役に立つか分からないけど……」


 その消極的な返事を、カナデは笑う。


「レベル・セブンが何言ってんのよ。嫌味?」


「そんなつもりは……」


「そうそう、暇ならここの地下施設で戦闘訓練もしてるから、良かったら来なさい? せめて、自分の武装くらい好きに扱えるようにならないとね」


 

「……うん。そうだね」


 そうして、ノゾミは、暫くして公舎を後にした。

 夜中に戻ってくるはずの、母と姉が心配だったからだ。


 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る