第33話 ダダッコ

【暮葉side】



「西條、今日は付き合ってくれてありがとー! KP乾杯ー!」


 目黒さんがメロンソーダの入ったグラスを掲げた。


KP乾杯!」


 続いて、榊くんがコーラのグラスを掲げる。


「け、けぇぴー……?」


 見よう見まねで私も同じ動作をするが……これはもしや、陽キャ式「乾杯」ではなかろうか。都市伝説だと思ってた。


 そう、ここはカラオケボックスの中。

 プレゼント選びが終わった私たちは、打ち上げ(?)ということでやってきたのだが……。

 狭い個室で「陽」と「陽」に挟まれた「陰」の私は、早くも慣れないペースにたじろぐばかり。

 テンションが高すぎて、もはや生きて帰れるかすら怪しくなってきた。


「今日は私の奢りだから、じゃんじゃん歌ってー!」

「何曲歌っても値段一緒だろうがよ」

「てへぺろ☆」


 さいじょう くれは は どうする?


 会話に入らない

 会話に混ざらない

→会話に混ざるコミュ力がない


 ということで、私には無理でした。

 やんないんじゃない、出来ないんだ!(ドヤ顔)


「暮葉ちゃんは好きな曲とかあるの?」


 見かねた榊くんが助け舟を出してくれた。

 ありがたいような、申し訳ないような気持ちになって、どんな顔をしたらいいのか分からなくなってしまう私。


「えぇっと、好きな曲は……」


 ……。

 …………。


 やばい、国歌君が代とボカロしか歌えん。

 国歌君が代は論外として、ボカロはまずいって! 陽キャさん達は絶対知らないもん!


 私には見えるぞ。

 「ふーん、その曲分かんないや」みたいな空気が流れる結果がね!


 一般の人にも分かるボカロってなんだろう。

 『ロストワンの号哭』? それとも『六兆年と一夜物語』?

 色んなの聞きすぎてどれが有名なのか分かんないよ……。


 あ、やめて、その「ゆっくり話していいからね」みたいな目は。

 余計に焦っちゃうやつだから。申し訳なくなってくるから。


「ええ、えっと、あの、『戦闘モード:ダダッコ』って曲、かな!」


 ……うん、なぜこれをチョイスした?

 完全にタイトルがネタ系のボカロだし、私どんだけ焦ってたんだ……。


 確かに好きな曲だけど、TPOに合ってなさ過ぎて自分でも驚いてます。


「え、なんそれ、面白そうじゃん? 暮葉ちゃん歌ってみてよ」

「いいねいいねー、私も西條の歌聞きたーい」


 あれ、なんか乗ってきてくれた?

 ……はっ、そうか。

 これが真の陽キャ。自分が知らない分野の話でも場を盛り上げることができるのが、彼らの彼らたる所以なのだ。


「じゃ、じゃあ、歌おう……かな?」


 人前で歌うのは恥ずかしいけど、私は別に音痴じゃないし、大丈夫なはず。

 そう自分に言い聞かせて、やや緊張しながらも、マイクに手を伸ばした。


「ねーねー、この『きなこティー』って人の曲で合ってる?」


 専用の端末で曲を予約しようとした目黒さんが、入力画面をこちらに見せてきた。


「そうそう、きなこティーPの曲で合ってるよ」


 私が縦に頷くと、目黒さんは画面を一回タッチした。

 ピピッ、という音が鳴り、目の前のテレビ画面に映像が流れだす。


 この曲はイントロがないため、いきなり始まるから気を付けなければ。


 息を吸って、呼吸を整え──



『ヤダ! ムリ! もう、あーイヤイヤなんです!』



 ブフォと2人が吹き出した。


「いや、歌詞のクセが強すぎるわw」

「ウケるんですけどー! あははっ!」


 「ダダッコ」だからね……。駄々っ子っぽい歌詞が結構入ってて、やはりネタ感が拭いきれない。

 でも2人は私を馬鹿にしているわけではなさそうで、少し安心した。



       * * *



 私は『戦闘モード:ダダッコ』をつつがなく歌い終えて、マイクを机に置く。


「ちょー面白かったんですけどー!」

「それな? でも普通に歌うまくてびっくりしたわ」

「あ、ありがとう……」


 榊くんに褒められて、シンプルに照れる私。

 歌った直後で喉が渇いたため、コップのウーロン茶を一気に飲み干す。


「んくっ、んくっ……ぷはぁ」

「おーっ、西條いい飲みっぷり」


 目黒さんがおだててきたが、それがなんだか可笑しくて口角があがってしまう。

 ……カラオケって、意外と楽しい所だったんだなぁ。


 いつかは、かい君ともカラオケに来たい……。


「暮葉ちゃん、飲み物取ってきたら?」

「あ、うん。そうしようかな」


 空になったグラスを手に、ドリンクバーへ向かおうと部屋の扉を開ける。

 ──と。



「たまには男2人でカラオケもええやんな?」

「そうだな、刀矢に歌が上手くなるレクチャーでもしてもらおうか」



 私は開きかけた扉をマッハ20で閉めた。


 ……今の、絶対かい君だったよね? 向こうは気付いてなかったみたいだけど。


 かい君とカラオケに来たいって願いが、変な形で叶ってしまった……!






 ーーーーーーーーーーーーーー

《作者より》


『戦闘モード:ダダッコ』というボカロは、

いま僕が製作途中の曲です。

いつかyoutubeで公開する予定なので、

完成したら、ぜひ聞いてみてくださいね!

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