第9話 大接近(心理)
【暮葉side】
私は2年A組の扉と
……そうだよね。
家を出るタイミングが違くても、結局は教室が同じですもんねー。
己の馬鹿さ加減を
「おはよう、暮葉」
「おおおおおおおおおお、おはよう……っ!」
教室内に入るなり、かい君が
ただし、驚いて「お」の数がバグってしまったのはやらかしポイント。
落ち着けぇ。落ち着いていくのよ。
「昨日はよく眠れた?」
「う、う~ん。ちょっとだけ怖い夢を見ちゃった、かな?」
私は
小学校の頃の劇が夢に出てきちゃったから……正直、今でもちょっと怖い。
「そっか……それは辛かったな」
かい君は、優しく私のことを抱きしめてくれた。
あぁ、どこか懐かしい感じがする。
そういえば劇の後に一人で落ち込んでいた私を、こうして抱きしめてくれたのも、かい君だったっけ。
……んーっと、抱きしめてくれてて。
かい君が、抱きしめてくれてて。
かい君が、私のことを、クラスのみんなの目の前で、つまりは
「んっ……? んんん????」
皆がシンと静まる中、私の頭は
「にゅううううううううううううううううっっっっっ──────!?」
『きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!』
なんで!? かい君が私のことを抱きしめてにゅううううううううううううううううう──────!
「どうした? 呼吸が荒いみたいだけど」
「にゅ、にゅう……」
にゅうにゅうと
………………………………。
……いや、今度こそ本当に正気を取り戻しました、はい。
しかし、どうしよう。
この状況で、何を話せば……はわわ。
……いや、違う。今までずっと、深く考えすぎてたんだ。
確かに私は、かい君のことが好き。本当に大好き。
だから「相手からどう思われるか」ばかり気にして、体裁を保つような発言とか、態度とか、そんなことだけ考えてた。
でも、そうじゃない。
どうせ頭も回らないし。
細かいことは考えないで、素直に思ったことだけ口にしよう。
「なんか……久しぶり、だね。こうやってぎゅーするの」
ちょっぴり恥ずかしくて、かい君の胸に顔を埋める。
「いや、あの、かい君は覚えてないかもだけど、昔もこうやってぎゅーしたことあったなぁって……えへへ」
劇の後、絶望してた私のことを支えてくれて、ありがとう。
そんな気持ちを込めて、かい君の顔を見、そして笑って見せた。
すると、かい君は驚いたような表情をして、私を抱く力を緩めた。
あぁ、かい君とこうして触れている夢の時間も、これで終わりか。
きっと、もう二度とこんなチャンスは訪れないんだろうなぁ。
…………。
「だめっ……!」
気付いたら、かい君の背中に手を回している自分がいた。
そして、それを認識したことで──なるほど、私が何をしたいのか、やっと分かった。
「今度は私がぎゅってする番だから、ね?」
かい君が逃げられないように、精一杯の力で、抱き留めた。
どこにも行ってほしくない。
もう少しだけ、こうしていたい。
その気持ち、伝わってるよね……?
* * *
「ねえねえ! 海賀くんに抱きしめられて、どうだった!?」
「やっぱり筋肉質な体だった!?」
「良い匂いした!?」
「おちんちん触った!?」
めちゃめちゃ問い詰められる私。てか誰だどさくさ紛れに下ネタぶっこんできたのは。あの状況でちんこ触るわけないやろがい。
──バカップルもかくやと
よくわかんないけど、先生に現場を目撃されるのはなんか違うと思うし。
……そんなこんなで朝のHRが終わり、今に至る訳だが。
「どうだった!?」
「筋肉質!?」
「匂いは!?」
「おちんちん!?」
「いやぁ、あはは……」
流石にここまでの圧で、自分の主張をする勇気はない。みんなの前でハグする勇気はあるはずなのに。
うぅ、どうしよう……。
誰か助けて……。
ふと辺りを見回すと、偶然にもかい君と目が合った。
にこりと微笑んで、手を振ってくれる。
『きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!』
女子が一斉に声を張り上げた。
かい君! それは、今の状況だと
とうとう耐え切れなくなって、私は席を立ち、保健室に向かって駆け出した!
ごめんなさい! もしかしたら1時間目の授業サボるかもしれません……!
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