探し物を頼まれたので、今日も幽霊少女に聞いてみる。
ミイ
第1話 依頼
目を覚ますと目の前に、雨に打たれた後の道端に咲く花を連想させるかのように日に照らされ輝いている白髪、タレ目で目が大きく可愛らしい印象をもつ顔、足首まであり素早く動くとふんわりと風になびく長いワンピースを着た女の子がいた。
いや、正確に言い表すのであれば、宙に浮いていた。
「おはよう」
いつも通り挨拶をしてみるが返事が聞こえたことは一度もない。
僕はそのまま起き上がり、二階の自部屋から一階に降りて冷蔵庫からお茶を取り出そうとする。
冷たっ!?
ヒヤッとした冷たさが手に伝わってきて驚き、手を離した。寝ぼけていたからか、お茶入れを鷲掴みにしてしまった。
次は慎重に、取っ手が冷たくないかを確認して取り出し、机に置いてから食器棚を開けた。
食器棚から適当に円柱の透明なグラスを取ってきてお茶を注いでいく。
コポコポっという音とともにグラスにお茶が注がれていく。
僕はこの音と注がれるときにできる気泡が浮いてくるのがなぜだか心地よく感じる。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッと喉を鳴らしながらコップに注がれたお茶を一気に飲み干す。
これがいつもの習慣で、今では欠かすことができないほど重要なことになっている。
さっきよりも意識がはっきりしてきたので目が覚めてきたことが分かった。
「よしっ!....学校に行こうかな」
鞄に必要なプリントを詰め込み、さっさと身支度を済ませてから家を出た。
今日から高校生になる。高校は家から近いところを選んだので、中学と同じくらいの距離だった。
朝の習慣を変える必要が無くて本当によかった。
なんせ習慣とは怖いもので、いつも通り動かないと気持ち悪くて仕方ないから。
とはいえ、この時期は否が応でも違和感を感じる時期でもあるんだよね。
この時間にいつもと違う道で登校するとなんとも言えない気持ちがこみあげてくる。
新鮮さと言えば聞こえはいいけど....、実際はむず痒いの方があってる気がする。
それでも、この新鮮さは最初だけのものだろうから、人生でそう何回も味わうことのない感覚だと思うとちょっと物寂しくも感じる。
そんなただ過ごしているだけで移り行く日々の中で、僕には高校生になってもというか、小さい頃から今まで変わらないものがある。
それは幽霊と呼ばれる、人間ではないものが見えてしまうこと。
世間一般に言われる、足がないとか、透けているとかでは無いのだけど、オーラというか雰囲気が人とは何か異なるから、それが人間ではない、何かということだけは小さい頃から認識していた。
普通、今どきの学生は他人とは違う何かを持っていることに喜びを感じるものなのだろうけど、本心を言えばこんなものはいらなかった。
最近のテレビでよく、幽霊の魂を体に入れるとか、幽霊の声を聴いて事件を解決するとかが放送されているのを見たりするけど…。
もし仮に、僕にもそんなことが出来れば少しは考えも変わったかもしれない。
けど実際のところ、僕はただ見えるだけで僕から干渉することは出来ないのが現実だった。
だから、ただ街中を歩いているだけでも、サラリーマンの男性にずっとくっついているおばあちゃんの霊とか、ジョギングをしているお姉さんと一緒に走っている犬の霊みたいに、僕の見ているものは人とは少し違っている。
ごく稀に、普通の霊よりも周りに漂わせる空気が黒くて重く、関わってはいけないと感じる霊に会うことはあるけど、その場合の対処は関わらないことで今まで安全に暮らしてこれた。
学校につくと一年生の教室まで上級生が案内を行っており、自分のクラスを確かめてから教室に入った。
「おっ、やっと来たか。ケイ、同じクラスだな!」
僕に向かって右手をまっすぐ挙げて、これでもかと言わんばかりにブンブン振っている男子生徒がいる。
あまり知り合いと思われたくないような行動を避けてほしんだけどな…。
そんな僕の気持ちを知る由もない男子生徒は笑顔でこっちを見つめている。
知らない人のふりをするのはどうもむりそうだね…。
「やあ、健。ところでなんだけど、そのケイって呼びかた恥ずかしいから止めてくれと何度言えばいいのかな?」
「何言ってんだよ。普通に名前を呼ぶよりかっこいいだろ?あと、俺のことは健じゃなくてタケって呼べよー」
この高校生にもなってまだカタカナの名前はかっこいいとか言っているのが、中学時代、僕が唯一本心で話せる同級生だった
僕と同じ百七十ちょっとぐらいの身長にも関わらずひょろっとした見た目からは想像できないほど、スポーツ全般が得意でいつも放課後はどこかの部活の手伝いをしている。
前にどこか一つの部活に入れば忙しく無くなるんじゃないか?と聞いたら、どの部活も楽しいから決められないっという返事が帰ってくるような人物である。
「呼び方を強要されるなら、僕もケイと呼ばれたときには反応しないようにしてもいいってことだよね?」
微笑みながら圧をかけてみると、さすがにまずいと思ったのだろう。
「OK、OK。それなら、俺のことは今まで通り健でいいから。頼むから、その顔を向けるのはやめてくれ!」
顔を九十度横に背けながら、顔の前で僕の視線を遮るように両手でガードするような態勢になっている健から視線を外して、自分の机を探した。
僕が自分の席に着くと同時に、ガラガラっと扉が開き教師が入ってきたので、さっきまで騒がしかった教室が静かになった。
「今日からこの一年一組を担当することになりました、
斎藤先生は体つきは細く、身長が百八十ぐらいで優しい雰囲気に包まれているので話しやすい印象だった。
今日一日の大まかな流れを説明した後、体育館である入学式のために移動した。
ふぁ~、どこからかあくびが聞こえて来た。
入学式が終わると生徒は一年生だけでなく上級生も疲れている様子だった。そうなるのも無理はない、なぜならあの校長の長い長い話をずっと聞いてなくてはならないのだから!!
眠ってしまいたいところではあったけど教師たちの目が光っているので、上級生たちは後で怒られないために、一年生は目を付けられないように必死に睡魔と格闘を繰り返していた。
教室に帰ると、斎藤先生が自己紹介をしようと言い出した。
生徒たちはさっきまでの眠そうな様子から一変し、どんな自己紹介をするか必死に考えだした。
一年生での自己紹介は大きな意味を持っていると言っても過言ではない。
この高校には、別々の中学から多くの学生が入ってくるため、初めて会った人の方が多いのだ。
そうなると、第一印象の次にイメージを作るのが最初の自己紹介である。
しゃべり方、内容などいろいろな工夫をして、クラスでの自分の立ち位置を形成していくのだ。ボケ役、突っ込み役、いじられ役等々のキャラづくりをして出席番号が早い方から自己紹介が進んだ。
僕の番になってしまったが何も言うことを決めていなかったので手短に済ませることにした。
「
落ち着いたトーンではっきりと言って手短にすませるのが目立たないコツだ。
自己紹介が終わり、今日はそのまま帰っていいということだったので、早く帰る準備をして帰ろうと考えていたときだった。
「ケーイー、お客さんだぞ」
後ろの出口で大声で僕のことを呼んだので、クラスの視線が集中したのが分かった。健は身長が百五十ちょっとぐらいの同級生の女子と一緒にいた。
同級生の女子は同じ中学の子で、名前は確か……
なんの用事だろうかと聞きに行くと、クラスの視線が集まっていて話しにくいとのことだったので、屋上で話すことにした。
屋上に行くまでの間、藍染さんは緊張した様子で一言も話さなかった。
屋上の扉を開けると風が吹きつけて来た。少し肌寒く感じたが、屋上に出ると日が照っていたので寒く感じていた体が温められる感覚がなんとも心地よかった。
このまま設置されてるベンチに座って日に当たっていたいけど、藍染さんに呼ばれたわけだし話を聞かないわけにもいかないので藍染さんの方を見た。
藍染さんは言いにくいことなのだろう、視線を落として話を切り出せずにいたが、突然、顔を上げまっすぐ僕を見て、
「あ、あのね。急にこんなこと言うのもあれなんだけど…。私の探し物を手伝ってくれませんか?」
っと少し早口になりながら言い切った。
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