ここはオークション会場か?
「十億!十億出そう!」
「いいや俺は十一億五千万だ!」
「ならば俺は十二億だ!」
さながらオークション会場のような熱気漂う廃墟。一人熱気に取り残された殺し屋は、何故こうなった……、と頭を抱えた。
スーツにサングラスを身に着けた男が葉巻を吸いながら『戦利品』をニタニタと下品な顔で眺めている。
「こんなに簡単に金が手に入るとはな。世の中馬鹿ばっかりだ!」
大笑いする男の声が廃墟にこだまする。
「なるほどな」
笑い声に異質が混じる。
「だ、誰だ?!」
男は振り返る。そこには、男に銃口を向けた男が立っていた。
「名乗る義理はないが……答えてやろう。俺は殺し屋だ。ターゲットは目の前にいるお前だ」
「なんだと?!」
男は目を剥き、すぐに土下座した。
「すいませんでした!!!」
「……は?」
その変わり身の早さに、呆気にとられる殺し屋の前で、男は土下座したまま頭だけを上げた。
「命だけはどうか!命だけはどうか!!」
「……ほう。みっともなく命乞いか。プライドはないのか貴様は」
「貴方様の前でプライドなどございません!」
「まあいい。俺はお前を殺して金をもらうだけだ」
「金、ですか。金ならば!私が払います!いくらで仕事を請け負いましたか?!」
男の勢いに押されつつも、殺し屋は負けじと声を張る。
「守秘義務がある!言えるわけがないだろう」
「ならば五千万ですか?」
「いや、だから……」
「一億ですか?!」
「だから……」
「ならば二億ですか?!」
「いや……」
「ちょっと待て!お前が二億払うならば俺は三億払うぞ!」
廃墟の影から一人の男が飛び出してきた。彼は殺し屋の依頼主だった。そして依頼のために用意した金は一億五千万。依頼金よりも高い額に焦ったのだろうか。いやそれよりも何故ここにいるのか問いたい。殺し屋は心の中で疑問符を浮かべる。依頼主を見た男は驚いた顔で声を上げた。
「依頼主はお前か雄二郎!昔可愛がってやっただろ!そして俺は三億五千万払う!!」
「可愛がってやっただあ?ふざけるな!散々こき使いやがって!俺は四億だ!!」
「弟を可愛がらない兄はいないだろ!俺は五億だ!!」
どんどん依頼金が上がってゆく。だが、この光景は単なる兄弟喧嘩に思えてならない。依頼金が二十億を超えたところで、殺し屋は廃墟を後にした。兄弟仲良くしろよ。そう思いながら。
Fin.
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