270;きつねきつねきつね.04(綾城ミシェル/シーン・クロード)
極彩色の光が晴れ、私はすぐ近くに潜み双眼鏡で前方を伺う立花の隣に着く。
「アイナリィは?」
声を発さず、立花は
目を凝らして見詰めれば、木々の合間から周囲を伺うアイナリィの奇抜な姿が垣間見える。
モデルのようなスレンダーな肢体を包むのは最低限の布地。しかし露出した肌にはびしりと紋様が刻まれていて、木漏れ日を照り返す長い銀髪同様に酷く目を惹く。
辺りを伺いながら彼女は、周囲に敵影無しと認めるや
しっかりと伸ばした指先から迸った輝きは、キラキラと煌めいては彼女の周囲に球状に拡がりその色彩を全て透過させて行く。
自身を隠匿する、《
最初は組み合わせられる最大数──これを術節上限、という──は最初は3から始まり、ランクが上がる毎に確か2節ずつ増えて行くんだったかな?
そして
それらを上手く組み合わせて様々な状況に対応するのが
ログによれば、アイナリィはゲーム開始直後はその
しかしMPバグに気付いてからはその多彩さは段々と失われ、兎に角火力ゴリ押しの
特に【
あのパーティには専門の
果たしてそれは、驕り溺れて見失った道なのか。
それとも、役割を全うするために切り捨てたのか。
しかしアイナリィは何故、《
正直、私達とアイナリィのいる【グラボラス森林】は初心者泣かせのフィールドだ。北の【ニアフ鉱山】が半ば侵食しているせいで
バグに物を言わせて持続時間を馬鹿みたいに延長出来るアイナリィの姿を私達──主には立花──がこうして追従出来ているのは、所々で彼女が魔術を切り替えているためだ。
しかし二度目のレイドも終わり、馬鹿ほどの経験値がまた討伐報酬として全員に配布された。それにより、アイナリィも多分に漏れずレベルアップを果たした筈だ。
それを加味したレベルなら、もう既に《
何にせよ保護が最優先事項。しかし立花は『待て』をかける。
直ぐにでも駆け寄って、抱き締めてやりたい。現実ではそう出来なかったから。
父親をあんな形で亡くして────だからこその違和感。立花の『待て』に賛同してしまうほどの。
遠目で見る、透けていく彼女の横顔は、どうしてあんなにも笑っている?
◆
──
「What, what the hell's happenin'!?!?」
何も無い空間に喚き散らした所で暗闇は何も答えてはくれない。
アイザックに無理を言って工面して貰った〈
だが極彩色の渦に飲まれた直後、俺はただ独りこの暗闇ばかりしか無い空間に取り残されてしまった。
セヴンは、レクシィは大丈夫だろうか? それとも俺だけが? ──考えても確かめる術は無い。
早く────早く、アイツの所に辿り着きたいってのに。
「────What's wrong?」
ふと鼓膜に飛び込んで来た声にビクリと震え、恐る恐る振り返る。
「……Noah,」
そこにいたのは、ノア・クロード──俺の兄だった。
だがその格好はいつかルメリオに見せられた、苔生した様な深緑の
それが、真っ暗闇の空間に少しだけ透過している。
首筋が、続いて背筋がぞわりと────冷えた汗が掛け下る悍ましさに、寒気が無い筈の毛を逆立てる。
「Huh, you seem you've been still afraid of ghosts.」
ああ、まだ怖ぇよ。おっかねぇ。ゲームの中ですら時折、ゴースト系の半透明な敵はぞくりと来る。
「お前のせいだろうが」
「ああ、そうだったね」
ノアが初めて製作したインディーズゲーム。それが、身の毛もよだつホラーゲームだった。
俺は漸くティーンエイジに差し掛かったくらいのガキで、ラグビーをやっていたこともあって怖いもの知らずだった。だがそれを見事バッキバキに折り砕いたのがノアのデビュー作。
欧米によくあるような所謂“
「でもとっくに克服したと思っていたよ」
にこやかに笑む表情、遠い虚空へと泳がせた視線────格好や透明度こそ違えど、そこにいるノアは俺がよく知り、そして親しんでいた、憧れていた兄と同一にしか思えなかった。
だがだからこそ警戒は怠らない。何せこのゲームの現状を支配しているのはノア本人だと言っても過言じゃない。いくら親しく憧れていても敵は敵、そう認識しておかなきゃ────
「──そうだね、今の君にとって僕は敵以外の何者でも無い」
「──っ!?」
心を、読んだ? いくら
「いくら兄弟でもまさか、心を読むなんてことが出来るのか、かな?」
「────っ」
確信。ノアは、俺の心が読めるらしい。
前例なら身近にいる────ニコ。いや、ユーリだ。あいつは電脳兵として戦場に入り浸った末に、嘘やブラフを察知できるようになった。
だがここまでのものか? ここまで正確に、他人の心を見透かすことが出来るものなのか?
「大丈夫。これはあくまで、僕だけに許された“権限”の一つさ。普段の僕は、君も知っての通り、他人の感情の機微に疎く、どんな輪の中にも入って行けなかった」
「……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます