238;真実は残酷で無くてはならない.01(姫七夕)
「お、終わっ、た? 終わ、った、んですか?」
戦場に、ぼくが何の気無しに発した問いの解をくれる方は一人としていませんでした。
当然です――もう、丸一日を超えてぼく達はずっと戦い続けていたのですから。
まず、自分の
次にその赤い魔物達を強化するか爆発させて壊滅的なダメージを波及させたり。
そして、繭の表面に複数存在する赤い水晶体からレーザー光線を照射。
たったの、これだけだったんです。
確かに赤い魔物達はぼく達の攻撃手段や連携を学習する知能を有していましたし、ごく稀に繭から放たれる魔物達への光線は対応しやすいよう形状や能力を変化させるものでした。これはとても、とてもとても厄介でした。
でも魔物達に突き刺さる赤い光線の二回に一回は自爆指令です。馬鹿のように交互に来るのでターシャさんの凄まじく強化・拡大された結界スキル《オフェンシブサークル》により敵を閉じ込め、その連鎖爆発がぼく達を傷つけることは無かったのです。
パターンが知れた後は、それはもうただただ時間との戦いでした。
最後の方なんてアレです。
繭を中心とした円陣の外縁に、簡易的な休憩所とか建てられてましたからね。一部の低レベルな方々が颯爽と戦線離脱して、周辺の木々の伐採から始めて建築進めてましたからね。
あの行為は完全に戦闘には参加していない
でも気持ちは痛い程解ります。ぼくも十数回使わせてもらいましたが、木の枝を縦に並べて藁を被せた簡素なベッドでも、そこに三十分も横になれれば気力は回復するものです。本当、好多謝、多謝大哥でした。
そんなこんなで入れ替わり立ち替わり、前衛さんも後衛さんも二班どころか最終的には四班に分かれて十分戦ったら三十分休み、みたいな感じで繰り返し繰り返し切った貼った撃った防いだを何度も何度も……。
そんな中、ロアさんとミカさんは意地を張り合っていたのか互いに睨みを利かせながら前衛と後衛とを行ったり来たりで、まるでどちらがより長く攻撃に参加できるかを張り合うみたいに入り浸り――まぁ、お二方とも近接も遠隔もイケる得物をお持ちでしたから。痺れを切らしたニコさんのマジギレが無かったらきっとぶっ倒れるまで続けていたことでしょう。
その二人に負けじと密かにレクシィさんも入り浸っていたんですけどね。ニコさんは流石です。ちゃんと気付いていたんですから。
流石と言えばダルクさんも。実にマイペースに、それでいてそこはかとなくハイペースにどんどんがんがん打撃を打ち込んでいましたっけ。
独特のオネェ口調と共に繰り広げられる怒涛の連続攻撃は、
一度近寄り過ぎたジュライが巻き添え喰らったのには吃驚しましたが、アイザックさん達の献身で事なきを得て良かったです。
そのジュライと言えば。
軍刀捌きや運足といった一挙手一投足が見違える程洗練されていて。
ぼくが恋に気付かされたあの日を超えて、とても格好良かったことを覚えています。いえ、目に焼きついてとてもじゃ無いですが忘れられそうにありません。
ひどく疲れていることもあって、これは夢に出ちゃいそうです。うきうき。
ですが動きというよりは、いえ動きもそうなのですが、そんな表面的なことじゃない、もっと深層のこと――心の有り様が、きっと変わったのでしょう。
ナノちゃんは……もう、いないんだなぁ。
ううん。
いますよね、きみの心に。
そして最後を決めたのはアリデッドさんでした。
『いい加減にしろ!』
そう吠えて放った、お得意の《クロスグレイヴ》と《エレメンタルスピア》の合わせ技――
そしてその大ダメージを与えつつ
怒号を轟かせながら《ヴァーティカルスラスト》と《スティングファング》そして《フォールスパイク》を組み合わせたやはりお得意の
穿たれた繭の頂点からは赤黒い飛沫が俄かに上がり、ですがアリデッドさんが纏う清廉な水飛沫は彼を決して汚れさせはしません。
それから繭に宿っていた妖しい輝きが鳴りを潜め、ぴくりとも動かなくなり、誰もがその瞬間、固唾を呑んで見に徹しました。
やがてアリデッドさんが繭から地面にぐらりと落下し、それでも繭は動きません。
「や、やったのか?」
「フラグ立てんなよ」
「いや、だって動かないだろ?」
「流石にもう終わってくれよ」
誰もが一様に疲弊し切っていました。そりゃあそうです。交代制が確立したとは言え、死に物狂いの交戦は丸一日を超えて繰り広げられたのです。
どれだけ小休憩に息を整えようと、先の、終わりの見えない苦行は喉をぎゅわりぎゅわりと締め上げるばかり。
敵
だからこその、願いであり、疑いなのです。
「お、終わっ、た? 終わ、った、んですか?」
ぼくもまたその嘆願を口にしました。
するとそこに――――
ぱちぱちぱちぱち
何と乾いた響き――でも、同じく乾いた空気によく通ります。
「おめでとう。心からおめでとう」
彼は、気が付けばそこにいました。
もう動かない、静まり返った繭の頂点に。
誰もが彼を見て、はっと目を疑い、でもその目を擦るような余力はありません。
「くろP、さん?」
そこにいたのは、ヴァーサスリアルの運営の超中枢要人、くろPだったのです。
でも、明らかに異質であることはぼく達の誰もが判っていました。
確かにくろPも公式生放送でヴァスリを紹介するために世界を練り歩くためのキャラクターを有しており、その姿も名前もまんまくろPなのですが……
でも、その現れ方はまるで……くろPってよりも、黒幕……
「ああ、そうか。まだこの姿だったか」
「え?」
発言の真意を汲めないまま、くろPの全身のをデジタルノイズが歪めていきます。
輪郭も、色彩も。何もかもを歪め、そしてその姿を割いて現れたのは――――
「――――ノア」
地面に背をつけて倒れているアリデッドさんが憎々しく零します。
そう――ノアさん。シーンさんのお兄さんであり、このゲームの開発者の一人、ノア・クロード。
「どうも、みなさん。くろPこと――ノア・クロードです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます