235;蝕霊獣、討伐すべし.19(シーン・クロード)

Holy sxxtクソがっ! やっぱり説明も何もあったもんじゃねぇじゃねぇか!!」


 伸びて俺達を飲み込んだ極彩色の渦から抜け出たと思ったら――俺は蜥蜴男イグアナマンの姿で鎧に身を包み、愛器〈ノーザンクロス〉を手に携えていた。ってことは今の俺はってことだ。


「どういう状況ですか? っていうか、いつの間に固有兵装ユニークウェポンを?」


 七夕チィシィだって同じだ。

 髪の毛は深味のある落ち着いた栗色から翡翠色に変わっているし、身に着けているのは〈織女しょくじょ星衣ほしぎぬ〉、つまりは彼女はもうだってことだ。


「うわっぷ! 何だここ!? って、あんたら!?」


 少し離れた場所に着地したのは――――あの逆立てた前髪ポンパドール部分鎧パーシャルメイルに戦鎚は、ユーリカだ。


「どうなってる!? 何で、ログイン出来ない筈じゃ!?」

「何だっていいわよぉ~ん、お預け喰らって、ヤキモキしてたんだからぁん♪」


 やはり俺達とは少し異なる位置にはミカとダルクすらいる。

 それだけじゃない。


「……どうして? ここは……いつの間に、ハンプティ・ダンプティに?」


 確か小狐塚邸で門前払時に見かけた――鎧の背に刻まれた紋章からミカ達と同じ【正義の鉄鎚マレウス】のメンバーだってことは判る。


「阿仁屋――いや、。どういう事態かは解らないけど、どういう状況かは分かるよな?」


 ルメリオ。


 まだ空中でパリパリと紫電を纏う渦からは続々とヴァスリプレイヤー達が投入されている。軽く百人はいるのか?

 だがそんな状況を固唾を呑んでじっと待っている場合じゃないことは嫌でも判る。明らかに敵意を剥き出しに睨み付けてくる赤い魔物の群れと、それらと対峙する軍勢――その中に、ジュライの姿もあった。


「レクシィさん!?」


 隣でセヴンも驚嘆を上げた。見遣れば、スーマンのお姫様がスーマンの得物を手に構えていやがる。

 あの野郎――――だが兎に角、今はこの赤い魔物たちをどうにかするのが先らしい。


「セヴン! ユーリカ! 詳しい話は後だ、今はこの真っ赤な奴らをぶちのめして生還する!」

「は、はいっ!」

「お、おうっ!」


 面食らってはいるが即座に切り替えてくれるあたり、やっぱりうちの面子メンツは頼もしいや――――その中に、お前は未だいるんだろうな、スーマン!


「味方戦力、増強を確認。パーティ単位で敵を各個殲滅を推奨」

「……ニコ!?」


 光り輝く翼を拡げた銀髪の剣士が、上空から覇気の無い指示を出した。

 逆光でうまく見れないけれど、あの出で立ちはどう考えてもニコだ。だがあいつ、家の事情でろくすっぽログインすら出来ていなかった筈だ。


 まぁ、いい。

 そんなのは些末事だ。


「行くぜぇっ!!」


 怒号をひとつ。あちらこちらでも同様の雄叫びが次々に上がる。

 既に交戦を始めていた奴らは満身創痍もいい所だ。だから今は、ピンピンの俺達が踏ん張る番だろう。だから出し惜しみもしない。全力で最初から――《原型解放レネゲイドフォーム》!


「《クロスグレイヴ――エレメンタルスピア》!!」


 飛沫上げる身体が切った十字の軌跡の中心を、次いで繰り出される衝撃波と共に最も手近にいた魔物を突き刺した。

 単身絶命の一撃ひとりフェイタル――このゲームでこれを狙ってやれるのは俺くらいなもんだ。

 乱戦に入ってしまえば同士討ちフレンドリィファイアも起きかねない。だから範囲攻撃はここしかない。

 そして盛大に湧き上がった飛沫と衝撃に吹き飛んで出来た空間スペースに、《スティングファング》で追撃よろしく突っ込んだ俺は、専売特許と言ってやりたい自慢の立体機動を駆使した連続攻撃を叩き込む。

 穂先が肉に食い込むと同時に《スピアヴォールト》で跳び上がり、《ダブルジャンプ》で高度の調整、《ラテラルスラスト》で落下位置の調整。

 そして《ヴァーティカルスラスト》で降下を始め、直撃の直前に《フォールスパイク》でまたもや単身絶命の一撃ひとりフェイタルを叩き出す。


「ぐぼぉあ……」


 声なのか音なのかの判別も付かない情けない響きとともに赤い魔物の一体が消失した。

 睨みを利かせて次の相手に焦点を合わせフォーカスする中で、やや離れた所で盛大な爆発音がいくつも上がるのを聞いた。

 背中にはびりびりと大気を揺るがす衝撃波――これはセヴンだろう。すでに開戦されていない、ヨーイドンの始まりだったなら開幕の一撃ファーストヒットはセヴンが一番適任だった。だがは詠唱する分だけ時間かかるからな、しょうがない。


「うらぁっ!!」


 ユーリカもまた俺を追い掛けながら横撃しようとする相手をここぞとばかりに叩きのめしてくれている。足は遅いが攻撃速度はそこまでじゃない。

 敵も形状によってはそこそこ硬い。だがそこは流石戦士ウォーリアー系統、《ブレイク系スキル》で損傷ダメージと共に弱体効果デバフをも的確に与えている。


 俺の槍とユーリカの戦鎚は共に長柄の武器で、振り回すにはある程度の空間が必要だ――俺は突き出すだけならそうでも無いんだが。

 背中を預ける、という距離感で共闘することは出来ない同士。だが今はそれが功を奏している。

 互いにかち合わない距離感を保つことで、互いに全力で得物を振り回せる安心感。ユーリカ、分かって来たじゃねぇか。


「行っくわよぉ~~~ん!!」


 うっわ、背筋にぞわりと来た。

 相変わらずダルクの奴はその抑揚とは裏腹の、凶悪な一撃で敵を討つ。バグンという衝撃音と共に、ゴギャリと何かが粉砕した音が響き渡り、拉げた赤い塊が宙を飛んでいく。


「まだまだよぉぉぉおおおおん!!」


 それを、黒く染まり上がった翼を拡げた飛翔で追撃する髭と筋肉の堕天使。っつーか、天遣イリオスの翼って黒く出来たんだっけか?


「《全弾解放フルショット》!!」


 ミカも負けじと弾丸をぶっ放している。あいつの変形銃剣、その銃形態が放つ弾丸は実弾と変わらない威力・衝撃を有していた筈だ。

 それが十何発も一気に飛んでくるんだ、えげつないことになっているのは見ないでも判る。

 っていうか、帝国アルマキナの魔動機って実は一番ヤバいんじゃないか? 俺も隷剣じゃなくてそっちの方が良かったか?


「《ファントムソード》! ぬん!」


 そういやロアもいたんだったな。っていうか、何だそのバカでかいビーム砲は……もう剣の技とかそういう範疇に無いだろうが。

 しかも【七刀ナナツガタナ】の奴らは今しがたロアが放った無茶苦茶な範囲攻撃を織り込み済みな動き見せてやがるし――――流石はトップクラン、口角上がっちまうな!


「《ヴァルキリーエッジ》!」

「レクシィさん、危ないっ!」


 お姫様レクシィは白い光を纏った剣戟で無双してるし、かと思えばジュライの奴が的確に大技の隙を狙う敵を見事に斬り伏せてるし。いや、お前ら、さっきまで戦闘要員じゃなかったよな?


「はは……祭りレイドって感じだな!!」


 相棒スーマンの影が脳裏にちらついて仕方が無いが、この高揚感はやめられない、止められない。

 どうせあの様子じゃもういないんだろ? ――――弔い合戦ってことになるのか? なら、心行くまで、それこそ納得できるまで暴れさせてもらうまでだ!


「……誰がやってくれたのか知らねぇけどなぁ、だったらオタクらが代わりにぶん殴られろよ!!」


 柄でかち上げたと同時に蒼い軌跡を描く。伸びた首筋を斬り裂く横薙ぎの一閃で十字を刻み、それを盛大に解き放つ。


「《クロスグレイヴ》!!」

「ガアアアアアア――――」


 そうして十体目を消し飛ばした。だが敵の勢いは一向に衰えない。その数は着実に減り始めているのに。

 ニコの野郎が飛んできた奴らを斬り落としながら的確な指示を細やかに出しているおかげで、俺達の到着よりも先に戦っていた奴らも戦線に復帰し始めた。

 このまま行けば俺達が勝つだろう。

 でも、そう甘くないってことも勿論知っている。


 確か、前のレイドの時は――――


「っ!! 総員防御体勢!!」


 ニコが、叫んだ。

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