105;武侠の試練-導入.02(須磨静山)
「着きました!」
【ヴァンテスカの街】に降り立ったオレたちは、セヴンの案内で【砂海の人魚亭】へと向かう。
本当ならばギルドマスターにオレを紹介してギルド入会までの段取りを組んでもらうのだが、何と言っても今現在は午前1時20分。とてもじゃないがそんな時間じゃない。
それに、車中から割とそうだったがセヴンも相当に眠いらしく、かなりふらふらとしてしまっている。
このゲームでは進行中にプレイヤーが寝落ちしてしまうと自動的にログアウトしてしまい、
でもこの挙動は面白くて、寝落ちして一瞬NPCになったかと思えば次の瞬間には覚醒してPCに戻ったり、それを繰り返すのを見てると車中の移動時間を忘れてしまった。
「ごめんなさい」
「いいっていいって。オレもこの街の地理を覚えたいし……明日ログインしたら教えてくれよ。そしたらギルドで合流するって流れでいいかな?」
頷くセヴンは多少覚束ない足取りでギルドの中へと入っていく。オレはそれを見送って踵を返し一人歩き出した。
賑やかで雑多な街、とは聞いていたけれど、その喧騒も多国籍な色彩もこんな夜更けじゃ見ることは出来ない。
街灯も少なく、月と星の灯りは綺麗に映るものの、夜道は暗く危険だ――こんな風に、前後を挟まれるまで襲撃者の存在に気付かない。
いや、そんなわけは無いか。流石にどんな夜道だろうと、この世界のこの身体じゃ嫌でも気付く。
だから、この前方に四体、背後に四体、都合八体の黒い影は空間とかを超越していきなり出現した、ってことだ。
つまり――――システムからの刺客。
「――懲りないねぇ、そんなに死人が許せないか?」
すらりと、オレは腰の鞘から短剣を抜く。どろりと弛緩毒に濡れた刀身はぬらりと月の灯りを照り返している。
黒い人影――全身黒尽くめの刺客たちは動かない。だが明らかにそいつらの仮面から覗く紅い双眸の輝きは殺気に満ち溢れている。
「――!!」
それを身体を捻って躱したオレは、そうしながら濡れた短剣の切っ先で脇腹を引っ掻けるようにして裂く。
しかし追撃を入れようとしたオレを横撃するのは、二体目の戦斧。両手で振り下ろされたそれは馬鹿でかい音とともに地面の舗装を割り舞い上げた。
当然だがそんな大振りの攻撃なんてまともに喰らうほど馬鹿じゃない。跳び退いたおかげで追撃こそ入れられなかったものの、一体目の剣士は膝を地について苦悶の声を漏らしている――弛緩毒はこいつらにも効く。
「ったく、街中だってぇの!」
三体目の槍使いはアリデッドの足元にも及ばない。何せ一撃一撃の隙間が大きいからな。
だから間合いの外側ギリギリまで退いて薙ぎ払いを躱した後で、突撃系スキルの《デッドリーアサルト》を使う。両腕が双剣を突き出しながら突進するそのスキルは、二つの切っ先を槍使いの両肩に差し入れてまた無力化させる。
「おっとぉ!」
後方から飛んできた火球を躱し、投擲系スキル《バタフライエッジ》で魔術士を仕留める。
何せ毒が通じるんだ。何も殺さなくたっていい、ただ濡れた短剣をひと掠りさせるだけで相手は勝手に動かなくなってくれる。いやぁ、毒様様だな。
連携も下の下、徒党を組んでるってのに統制なんか取れていない烏合の衆。
流石に強制ログアウト前の連戦はきつかったが、改めて対峙してみるとこいつらの穴の大きさばかりが目だってしょうがない。
「お前らに苦戦してたら、ジュライにいつまで経っても勝てねぇんだよ!」
後方で横並びに遠隔攻撃を繰り出していた三体も《スラッシュダンス》の連撃で一網打尽に仕留める。
後は戦士が一体、騎士が一体の残り二体――だが、あっけなくその二体も刃の毒で無力化できた。
ちょっと時間かかるようだったら《バーサーク》からの《ルナティックエッジ》を考えていたけど拍子抜けだ。
「じゃ、また明日な」
言い捨て、オレはその場を後にする。
強制ログアウト以降はこいつらは律儀に一日に一回しか襲ってこない。しかも決まって、こんな夜更けだ。セヴンたちがログインして来るまでの三日間も大体この時間だった。
これからもこいつらを相手にしなければならないのは考えるだけで億劫だが、こんな奴らでも勝てば経験値が貰えるのは有難い――と、誂えたようにレベルアップの光がオレを包んだ。
◆]スーマン・サーセン
人間、男性 レベル56(+1)
俊敏 22
強靭 22
理知 12
感応 17(+1)
情動 13
生命力 322
魔 力 156
アニマ:
属性:火
◇アクティブスキル
《
アルマ:
◇アクティブスキル
《シャウト》
《バックスタッブ》
《デッドリーアサルト》
《バタフライエッジ》
《サイドスタッブ》
《スラッシュダンス》
《バーサーク》
《スクリーム》
《ルナティックエッジ》
《呪印魔術/E》up!
◇パッシブスキル
《機動強化Ⅰ》
《切断強化Ⅱ》
《破壊強化Ⅰ》
《魔術回避Ⅰ》
《魔術強化Ⅰ》
《タフネス》
《蛮勇の心》
《元素知覚》
装備
〈毒纏いの双剣〉
〈獣の革鎧〉[◆
おお、レベル56に上がったことで《
確かセヴンも
そして郊外から砂漠へと飛び出したオレは、夜行性の魔獣を相手に技を鍛える。
魔獣には弛緩毒の効かない相手も多い。そもそも、この毒は対人間用だ。だけどアリデッドみたく効いてもそれを解除してくる奴だっている。
いつまでも毒頼みでいれば勿論、ジュライにだって勝てないだろう。そもそもオレの剣戟はジュライには届かなかったわけだし。
また、この弛緩毒はオレが《
つまり毒が無くても十分強い、ってところを目指さなきゃいけない。
そしてレベリング以外にどうすればそこに至れるかをオレは知らなくて、そしてきっとレベリングだけじゃ駄目なんだろうってことをオレは感じている。
「はぁ、随分と遠出しちまったな……ん?」
見渡す限り岩と砂。でもその岩肌からほんの少し灯りが漏れている。
近寄って見るとそれは洞窟の入り口で、薄っすらと砂を被った岩の地面に数滴、血が垂れて道を作っている。
誰かが怪我をしてここから出て行ったのか。
それとも怪我をした誰かがここへと逃げ込んだのか。
そのどちらかであるかは判らないが、オレは意を決して中へと踏み入る。
ひんやりとした湿り気を帯びた空気。灯りの正体は洞窟の壁面を半ば覆うように敷き詰められた発光する苔だ。魔術に似た、冷たい緑色の光が薄らと洞窟の中を照らしている。
決して狭くは無い洞窟は、だけれど広くも無い。大型の魔獣ならこの中じゃ大して動き回れないだろう。なら、この血の続く奥には怪我をした誰かがいる? いや、早合点は良くないぞスーマン。予測は良いが期待は駄目だ、そうじゃなかった時の初動に遅れが出る。
「っしゃ!」
パン、と頬を張って気を引き締め直したオレは、双剣を構えて洞窟の奥へと進んだ。
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