097;七月七日.22(シーン・クロード)

◆]Notice from VersusREAL Management.[◆

◆]Thank you for using [VersusREAL].

  Due to a serious problem in the game, we have forced players to log out for emergency maintenance.

  It is essential to give notice in advance. However, it was an urgent measure to prevent adverse effects on the health of everyone in the game console. Please give us your patience.

  We will inform you of the maintenance end time as soon as known.

  Thank you for your continued enjoyment of [VersusREAL].[◆



――ヴァスリ運営よりお知らせ

  いつも【ヴァーサスリアル】をご利用いただき、誠にありがとうございます。

  ゲーム内にて重大な不具合が発生しましたため、この度は緊急メンテナンスのために強制ログアウト、という形を取らせていただきました。

  本来であれば事前に通達をするのが筋ではありますが、筐体の中にいる皆さまの健康状態に悪影響を及ぼす事象に繋がりかねないためこのような措置を取らせていただいたこと、何卒ご容赦いただきますようお願いいたします。

  メンテナンス終了時刻につきましては判明次第、追ってご報告させていただきます。

  引き続き、【ヴァーサスリアル】をお楽しみいただきますよう、宜しくお願い申し上げます――ってところか。


 ガッデムGoddamn!!


 流石にあの場面でこの措置は――ありえない。ジュライを俺たちから引き離したかった愚策としか思えない。

 運営は本当に、何を秘匿してやがるんだ? いや、真実なら露見した。ヴァーサスリアルのプレイヤーの中には、それが真実だ。


 だが謎は謎のまま――そもそもどうして死人がゲームなんかしている? そして俺の兄は何故行方を晦ました? 何故筐体の中から姿を消した? さっぱり解らない……


 ログアウトしたゲーム画面を閉じて、俺はGREETの画面を開いた。


 ――ニコはいるな。四人ともいる。


 それを確認した俺はすぐさまルームを立ち上げてナンバーを送信する。

 模様替えをして落ち着いた宮殿の一室のようになった自室で待っていると、そのうちにニコが現れた。


「Hi」

「Hi、じゃねぇよ」


 HAHAHAと笑う屈託のない少年のようなニコ――いや、ユーリ・ニコラエヴィチ。

 見た目だけで言えば、あのジュライを光の戦士に仕立てた感じだ。中性的な顔立ちに華奢目な体格。身長こそユーリの方が高いが……


「ユーリ、結局間に合わなかったじゃないか」


 嫌味を告げるとユーリは苦笑した。


「痛いところを突かれたね……でもあと五分、いや三分もあれば駆け付けられたんだ」

「それを間に合わなかった、って言うんだよ」

「ごめんごめん」

「で、だ――――お前はこのメンテナンス、どう見る?」


 ユーリの眼差しから穏やかさが消える。そして重々しく口を開いた。


「シーン。ヴァーサスリアルのは知ってるかい?」

「噂? 何だ?」

「曰く――


 ぞくりとした。俺のその様子を見てユーリは溜息を吐き、虚空に目を泳がせる。


「……君、一体何を知っているのさ」

「俺だって別に知りたくて知ったわけじゃ無ぇよ」

「つまりそれは、その噂は本当だ、ってことだよね?」


 逡巡。だが兄の事情を共有させてもらっている立場だ、必要に応じて援けてもらっている立場だ。だから嘘は吐けない――俺は弱く頷いた。


「お前らに助けてもらったスーマンっていただろ? あいつがそうだ」


 目を丸くするユーリ。


「仲間に連絡を取る前にログアウトしただろ? その時にあいつが入院している病院の電子カルテを漁ったら見つけたよ」

「そんなことしてたんだ……犯罪じゃないか」

「取得はしていない、閲覧しただけだ」


 呆れた笑顔で溜息を吐くユーリ。まぁ俺も、反論はしているが自分がしていることがどういうことかは当然解っている。


「それで、緊急メンテナンスについて、だったね……僕個人の見解で言えば、その噂も絡んでいるんじゃないかな、ってところさ」

「と言うと?」

「だってそのスーマンのプレイヤーはゲーム中に死亡したんだろ? なら他のプレイヤーにも影響が及ぶ可能性がある。それを検証するための、っていうのが一番判り易い理由かな」

「成程な……だがスーマンのプレイヤーが死んだのは五日前だ。そのタイムラグはどう説明する?」

「えっ、そんな前なの? それなら……うーん、発覚までに時間を要したとか? ありがちだけど無くは無いじゃない?」

「そうだろうけどなぁ……だがシステムの妨害は起きていた」


 そうだ。スーマンが自身の病気を俺に伝えてくれた時――その時には警告アラートがどっさりポップアップしていた。それを叩き割りながら話を聞いていたんだが……


「ちなみに、ジュライってキャラクターのプレイヤーも、もしかして一緒?」

「……だな」


 答えを聞き項垂れるユーリ。


「あと判っているのは――その死んだプレイヤー達Dead-Playersが操るキャラクターを根絶やしにしようとしている奴らがいる、ってことか」

「穏やかじゃないね……でもゲーム内でキャラクターが死ぬことは無いじゃないか」

「ああ。だからそいつらは“プレイヤーロスト”って言ってたな」


 プレイヤーロストPlayer-Lost……システムの警告アラートにも出てきた言葉ワードだ。つまりあいつらは、運営の犬、っていう可能性もある。


「レベル50になって選択できる《原型変異RenegadeShift》の状態になっている時に、PCプレイヤーキャラクターに殺されると死んだプレイヤー達Dead-Playersが操るキャラクターは消滅するらしい」


 ユーリが肩を竦める。


「で、お兄さんは? 見つかりそう?」

「ああ――その、が俺の兄の名を知っていた。何処かで繋がっている可能性がある」


 ぴゅぅい、と口笛。陽気な奴だ。


「ただそうなると、俺の兄もに関わっていることになる。俺の取る立場とは逆だ」

「シーンの取る立場って?」

「……別に俺は、死人がゲームに興じていたって構わない。それがどういう原理なのかについては興味はあるが、その是非に関してはどうだっていい。ゲームは楽しむもんだ、そうだろ?」

「そうだね。とても同意するよ」

「ただ、何かの思惑が渦巻いていて、単純に楽しめない状況が続いているのには腹が立っている。俺の兄が携わったこのゲームは、最高に楽しい筈だ。それを邪魔するってんなら運営だろうがシステムだろうが誰だってぶっ飛ばす。そんでもって、俺はこのゲームを心の底から楽しむ。それが俺の取る立場だ」


 俺の熱弁にユーリはほわりと微笑む。うんうんと頷いて、受け入れてくれる。


「にしても、君は不思議な言い方をするね」

「What? 何がだ?」

「君の言い草だと、まるで運営とシステムが別々に分かれているって思っちゃうよ」

「――――ユーリ、Thanks.」


 突然立ち上がった俺に、ユーリは慌て出す。

 そうか――そう考えれば、それも確かに

 システムはシステムとして、ゲーム内に常駐している。だから死んだプレイヤー達Dead-Playersにもいち早く気付き――しかし運営は人の手だ。だから発覚が遅れる、後手に回る。


 システムと運営は、別物――それぞれがそれぞれでヴァーサスリアルの世界を監視し、管理している。運営はシステムを通じてそれを担うが、システムもシステムで独自にそうして来たんじゃないのか?

 裁判を出来るほど発達した人工知能AIだ。それが正解なんじゃないのか?


「ユーリ、。状況は追って連絡する」

「ああ、それなら良かったよ。じゃあまた、GREETかヴァーサスリアルで」

「そういや、仕事の方は大丈夫なのか? ここんところヴァーサスリアルに詰めっぱなしだろ?」

「ああ。一応、合間合間で細々とやってるよ。まだ情報は解禁できないけど、動いているプロジェクトもあるし」

「そうか。僥倖だな」

「ああ。だから僕たちのことは気にしないで。援けるとは言っても、可能な限り、だから」


 その可能な限りを最大限に寄越してくれるのがこいつらだ。本当に、繋がっていて良かったって思うよ。いつか借りを返さなきゃなぁ……額にするとヤバそうだけど。


「シーンこそ。夏の大会、出ないの? まだ申込期間内だけど」

「いや、出られないな」

「え? 出ない、じゃなくて?」

「ああ、。そうか、言ってなかったよな。俺、明日引っ越すんだよ」

「へぇ……何処に?」

日本Japan






「は?」

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