050;鋼の意思.12(姫七夕)
残る“
水属性の構築魔術をチクチクと放ってくるため同時に相手に出来るのは二体までと決め、おかげで
昼食は【湖畔のウルバンス】に戻らず、湖の畔の適当な場所でランチセットを広げて食べます。ほんの少し、ピクニック気分です。
湖を一望できる畔には“釣り”を楽しめる広い橋がかかっており、十数人の冒険者が悪戦苦闘しています。“釣り”でしか手に入らない素材やアイテムもありますから、必要になったら挑戦してみようと思います。
橋から少し離れた場所にレジャーシート代わりの布を広げ、その上にモモにぷりぷりしてもらったランチボックスを置きます。
「その動作は何とかならないのか?」
「え、Kawaiiじゃないですか!」
食べ物がおしりからぷりっと出て来るのは何となく引っ掛かるものがあるとのことです。気持ちは分かりますが、でもこの
「ぷぎっ!」
ほら、モモもそんなことを言われて「心外だ!」みたいな顔をしています。はぁ、Kawaii。
ランチは白いパンのような生地を折り畳み、その間に食材を挟んだサンドイッチのような食べ物です。ウルバンスの町の名物にもなっていて、〈グォ〉という名前で売られています。
間に何の食材を挟むかによって色々と名前は変わるみたいで、ぼくのはレタスや玉ねぎ、トマトといった定番のお野菜にハムとゆで卵をあわせた〈シャーラーグォ〉、ジュライのはロースカツを挟んだ〈ヤオブーグォ〉、そしてユーリカさんのは千切りキャベツに蒸し鶏がいっぱい詰まった〈ツェンジーグォ〉です。
予定時刻を少し
「《
幸い、〈毒花の黒蜜〉を持つ“ポイズンペタル”は移動出来ないタイプですから、
日が暮れ始めた頃には必要な八個が揃い、ぼくたちは急いで移動を開始します。
「
空を見上げてユーリカさんが呟きました。山の天気は変わりやすく、先程までの晴天が嘘のように黒く塗り潰されていきます。
「雨ですか?」
「雨だけなら良いんだけど……雷まで落ちるようだと、流石に木の
「木の
雷というのは木の
普通の“
そして案の定、雨が振り始めました。
山道の地面も所々
ピカッ、ゴロロロ――遠雷が轟きます。周囲を見渡すと、あちこちにぼんやりと浮かぶ直径2メートルくらいの大きな球体がふよふよと彷徨っています。
「あれは“
「「はい」」
交戦になると大変面倒です。天候のせいで場の
木属性である“
ぼくの《
ずしん、ずしん――前方から、巨大な存在がぬかるんだ地面を踏み均す音が響いてきます。
「クッソ、こんな状況でお目当ての敵かよ……」
ユーリカさんが背負っていた
疎らに生えた木の影から出てきたのは、無念を抱いたまま死した遺骸を吸収したことで邪悪な意思を持つに至った樹木。土から引き抜いた幾本もの根を足として移動を行い、自ら命を奪って糧とする“ブラッドエント”です!
「ちっ、配下も連れて来たみたいだ」
取り巻きのように、ブラッドエントの周囲には都合六体の“ゾンビスポア”――死体に憑りつく菌糸類で、成長したものは宿主を利用して自ら死体を作り出して繁殖する厄介な
「先手必勝行きますよ!」
スキル《早口言葉》で素早く詠唱を始めたぼくは、敵の近寄らぬうちに
「――戦禍降り注ぎ
光終えて闇の中
形あるものは崩れゆけ
形なきものも滅びゆけ――
――《
これまでに何度も
流石に《
「ジュライ、《胞子ブレス》に気を付けろよ!」
「はい、ありがとうございますっ!」
必殺とも言える強烈な一撃を叩き込んで嵐のように敵を薙ぎ払っていくユーリカさん。
対照的に、ジュライは鋭い剣閃を何度も叩き込みながら、足運びや体捌きで敵を翻弄していきます。
どちらも前衛の要職・
昨日からこの時までの旅路はとても短い時間ではありますが、そんな風に連携できる二人は濃密な時をともに過ごしたということです。勿論、ぼくだって負けていません。
「《コンセントレーション》!」
集中力を高め、被ダメージ時に詠唱が途切れないようにするスキルを使います。ぼくの視界に[集中]というステータス付与の文字列が現れ、ぼくは記憶の中の詠唱魔術を思い出しながら諳んじます。
「――霊域に眠る古の王よ
時司る魔を統べし君よ
願いはここに解き放たれた
針はその身を摩耗せよ――
――《
薄青の輝きがジュライとユーリカさん、そしてぼくに降り注ぎ、輝きはローマ数字の刻まれた文字盤と三つの時針を象ります。
針が回る速度を上昇させる
《
「《ガードブレイク》!」
「《迅雷》!」
ブラッドエントのレベルは45、ゾンビスポアのレベルは38と、どうにかならない相手ではありません。堅く、一撃の重い
「《
ぼくは今度は、敵にのみ作用する妨害魔術を行使しました。《早口言葉》もあわさって自分でも吃驚するほどの舌の回り様です。ゾンビスポアの二体に抵抗されてしまいましたが、一番強いブラッドエントの攻撃力を減少させることに成功しました。
そして五分ほど経った頃でしょうか。
ジュライの渾身の一撃がブラッドエントに突き刺さり、醜く低い断末魔の叫びを上げたブラッドエントがずしぃんとその場に倒れ伏せました。戦闘終了です!
「獲れました」
にこにこしながら――僕にしか分からないんですけど――ジュライが小瓶に詰めた〈緋色の樹液〉を掲げます。一体のブラッドエントから最大で三瓶分は獲れたと思うんですが、残念ながら今回の戦闘ではそれ一個だけのようです。
「じゃあ、
そしてぼくたちは【ツェンリアの街】へと戻りながら、目当てとする全ての素材を集めることが出来ました。しかし戻ってきたのは夜の十時を回ったところで、すぐにご飯を食べ、宿に泊まって諸々のことは翌日に持ち越します。
やることは終わりではありません。
商店で交易品として売られている残りの必要な素材を買いつつ、ぼくは【フロスベルリ】で、ジュライは【
ああ、楽しみだなぁ!
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