第三章 可愛い親友は三人目の妹
第27話 水色のワンピース
夏休み最終週のとある平日の昼。俺は自宅近所にある一昨年まで通っていた塾の前で伊織と落ち合って、市内の運動公園を訪れていた。こうなったのは約一週間前の水峡祭の翌日のこと。熱帯夜の最中、『元一年五組の仲良しこよし』のLINEグループがうるさく鳴り出したのだ。
もちろん初めにメッセージを送信したのは浅川で、夏の締め括りとして去年同じクラスだった仲良し三人で、テニスをやりたくなったのだとか。俺自身かれこれ一年以上ラケットを握っておらず久々にボールを弾き飛ばしたかったので、浅川にしては気の利いた提案と言える。
夏の締め括りと浅川は言っていたが、いまだ暦は八月中旬。気温は三十度を裕に越える日々が続いていて、自転車を飛ばしている間にも汗が滝のように滴り落ちてきた。
既に俺と伊織は暑さに完全敗北し、自転車置き場近くの三角屋根付きのベンチで言葉を交わすことすら出来ずに座り込んでいる。スーパーで買ったスポーツ飲料をチビチビと補給しつつ待つこと十数分。周囲の気温を五度は押し上げるほどの熱気を放って、大将浅川が到着した。
風と日光を受け、水色のワンピース型ウェアが爽やかに揺れる。去年の一学期中間テストまで隣のコートで部活をしてはいたが、長袖や膝丈の練習着ばかりで今日みたいな可愛らしいウェアは見たことがなく、あまりの美少女っぷりにドキッと胸が高鳴った。女子テニスの先輩たちも綺麗な人が多かったし、「放課後毎日拝めるなら復帰しても良いいかなぁ」なんて思ってしまう。
毎度毎度言い出しっぺが最後に登場することに不満を覚えながら、軽く手を振って出迎えた。
「二人とも待ったー?」
「見ての通りだ。些細なご褒美でもないとやってられん」
外気温と水温が等しくなりそうな生ぬるいスポーツ飲料のペットボトルを額に押し当てながら、脱力感を露わにして応答する。
「ならウチの美脚を五分だけ眺めていいよー。お触り禁止だけど見るだけなら許可します」
なんだそのストリップクラブみたいなシステムは……。コの字型のベンチの中央で、ワンピースタイプのテニスウェアから伸びる脚を自慢気に見せびらかす。
「やっべえ! 元気出てきたッ。完全復活までもう少しだ浅川、五秒だけスリスリさせてくれ!」
また伊織が馬鹿なことを言い始めた。
「うわぁ……ガチで引く」と呟いて、浅川はジト目で伊織を見つめている。
「俺は結構。ここ二ヶ月くらい家では浅川くらい白くて細い脚が四本もうろついてるからな」
なんてことを口走った途端、浅川の汚いものを見る目が俺を捉える。
「椿くんも椿くんで最低だけど、皆月くんも負けてないね」
「だろ? うちには浅川よりピチピチな美少女が二人もいるんだよ」
「だろじゃないよ! てか未來ちゃんも七海ちゃんも一個下じゃん! 大して変わんないよ!」
浅川の怒りを二人がかりで抑えながら、テニスコート横の広場へと移動を開始した。
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