硝子越しに笑う決して触れられない“運命”

巡暇ヒカル

第1話 プロローグ 『運命とは』

 毎朝、駅の改札を急足で通り抜ける人々は「運命という言葉の意味は」と問われたら、なんと答えるのだろうか。きっと的を射る回答ができなくとも、ほとんどの人がポジティブなイメージを持つはずだ。それは間違いなく運命がつく言葉として〝運命の人〟という言葉を真っ先に思い浮かべるからだと、一般的な観点から推測する。

 誰かと誰かが結ばれる縁起の良い言葉だと認識されているであろう〝運命の人〟という言葉であるが、果たして本当にそうなのだろうか。唐突ではあるが、俺はそうは思わない。

〝運命〟という言葉が用いられる時は〝積み重ねた偶然や過程、それらすべてを無視し、あたかも元から定められていた必然にしようとする〟ときだと、俺は考える。つまり何が言いたいかと言うと〝運命〟という二文字の言葉は、飽くまで発言者にとって都合の良い言葉でしかないということだ。故に〝運命の人〟なんて言葉も、夫婦となった者同士が〝お互いの偶然だった出会いを、昔から決まっていた必然の出会い〟だと思い込もうとするが為に用いられる上っ面な言葉に過ぎない。人と人の出会いなんて、いくつもの偶然が積み重なった結果でしかないはずなのに、それを必然だと捉えようとするだなんて、傲慢極まる行為なのだ。

 そんな都合良く使われる言葉だからこそ、〝運命〟という言葉に最上級の嫌悪感を抱く。

 たった漢字二文字のせいで俺は大切な幼馴染を失い、幼馴染は自分の人生を失った。

 いや、それだけではない。あの時無責任な発言をした俺のせいでも、同様にあるはずなんだ。

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