真実の時計仕掛けと光道のクリスタル
光城志喜
第1話 集合
「隊長〜! なんか向こうで騒ぎが起こっているみたいですよ?」
僕はシグマ・スカイ。最近キッドパーティーに入隊したばかりの新米隊員である。
「いちいち騒ぎが起こったぐらいで呼び出すなよ!」
こうして、隣の酒屋から出てきたひげが濃いおじさんは僕たち、キッドパーティーの隊長でありキャプテンでもあるカリア・ラスティ。四十歳である。
「いや、メンドくさがって聞き込みを怠るのも良くないと思いますよ?」
隊長に続いて一緒に出てきた美形男子はキッドパーティーの副隊長。ゼバス・アクラーである。趣味は読書と謎解きゲームらしい。
「そんなことよりも、あの嬢ちゃん達と一緒にどっか行こうぜー!」
酔っ払いながら出てきた迷惑男は航海士のイグナ・グレグラス。
「あー、さっきの人達が持っていた懐中時計っぽいやつ。見てみたかったんだけど……」
少し残念そうにイグナに引っ張られている眼鏡をかけている人は研究員のウェーブ・ドモル。
隊長しか呼んでいないはずなのに全員が出てきてしまった。後ろから押されてどんどんみんなと引き離されていく。
群がる民にキッドパーティー達も加わってさらに群集が大きくなる。
群集の向こう側で何が起きているのかを確かめるために近くの店に立ち寄り二階へ上った。
見てみるとどうやら喧嘩をしているらしく男二人が殴り合いをしていた。
特に目当ての情報を話している様子はなく、ただ罵声が飛び交っているだけであった。
下で群集にもみくちゃにされているキッドパーティー達を呼びつけるとみんな一斉にこちらに向かって叫んできているが、周りの声で全て掻き消されてしまう。
しばらくして騒ぎがおさまるとようやく人混みも少なくなっていき、無事に全員合流することができた。
隊長が自分の前に出てきて最初に言った言葉。
「呼ぶときにはちゃんと要件を言うようにしなさい」と注意を受けたが、真っ先に群集へ飛び込んでいった隊長が言う言葉にはなんの効果もなかった。
気を取り直して、隊長が指揮をする。
「では、これからの計画について話す。まず現在持っているトリエントスコープには投影するための特殊なレンズ並びに駆動部分が未だ見つかっていない状況である。これらを全て揃えることによって、宝のありかが浮かび上がるという伝説がある。この足りないパーツを探すためにこのボダグミア諸島にやってきた。現地の人に聞き込み、もしくは脅迫をして何としてでも見つけ出すように!」
「いや、隊長。 最後の脅迫はよろしくないと思いますが……」
冷静なゼバスが訂正を加える。
僕たちの持っているトリエントスコープは元々隊長の倉庫から持ち出したわからない部品から始まったらしい。でも、それがただのガラクタではなくて世界中で噂になっている宝の地図が組み込まれている不思議な機械のパーツだったらしく、他のパーツを集めて世界のどこかに隠されている宝を見つけようと発足したのがキッドパーティー。そして足りないパーツを現在探しているのだが、そもそも幻の投影というのは一体どんな形をしているのか分からなかった。
すでに僕がイグリナ聖都王国で入隊した時には既に外見が完成しており中身だけが揃っていないだけだった。隊長によると世界各国を廻ってパーツを集めたと言っているが、ウェーブが言うには自分が隊長の持っているカケラから残りのパーツを勝手に作って組み合わせたらしい。隊長の言っている事とウェーブが言っている事が矛盾しているが、どちらが現実的かと聞かれると圧倒的にウェーブの方だ。
そういうわけで、ボダグミア島で投影機の心臓部分があるという噂を手に入れたので来て調査をしているというわけである。
「っで、具体的にはどうすればいいんですか?」
イグナが隊長に向かって気楽に話しかける。
「しっかりと話を聞きなさい! まずは近くの人に情報を聞くんだよ!」
隊長がツッコミを入れると間髪入れずにイグナが若い女性の集団に走って行く。
「ねーねー、そこのおねえ~さんたち~! 聞きたいことがあるんだけど……」
すると勢い良く女性たちは逃げていき、周りにいた人達もそれをみて逃げていく。
たくさんいた商店街も閑散としてしまい、とても聞き込みができる状態ではなかった。
「あの~、聞き方というものをご存知ないのでしょうか?」
ゼバスが見かねたように答えるとイグナがキレ気味に言い返してきた。
「だったら、てめぇーがやればいいじゃねーかよ! さぞかしイケメンなお前なら上手く情報を聞き出して、その後もゆっくりイチャイチャできんだろ!」
不機嫌になったイグナを止めるのは大変である。
「知らない女性といきなり喋るのは苦手なんです。だからどんだけ顔が良くても会話が成り立たないんです!」
ゼバスもついカッとなってキツく言い返す。
「さりげなく顔がいいことを自慢しやがって! さらにムカつく奴だぜ。」
それに負けじとさらに言い返すとだんだん訳の分からない言い争いになってきた。
「ハイハイ、喧嘩するんなら宝見つけてからにしてくんないかな?」
さすが隊長。大事になる前に止めに入るのは流石である。そしてこれからの計画を話し始めた。
「まず、始めに全員でトリエントスコープについて聞き込みを行う。もちろん真面目にだ。 そして、手がかりが掴めた時には随時、ドパルボルで通信をするように。有力な情報な場合、全員で集合し、次の行動を指示する。それまでは各自散らばって情報収集に徹するように、では解散!」
隊長の掛け声と共にみんな散らばっていく。
通りがかった人に聞いてみたり、暇そうにしている人に話しかけてみたりできるだけ多くの人から聞き出してみたが、誰も知っている気配がなく諦めかけていた時に手元のドパルボルに通知がきた。急いでチューニングダイヤルに手を合わせ、相手の音がはっきりと聞こえてくるまで慎重に回す。すると、ノイズがだんだんと消えていき相手の声が聞こえてきた。
「…………って……だから……、こんなの見つからないよ〜(泣)」
隊長からの通信であった。しかも嘆きの声である。全くもって無駄な期待であった。
「隊長〜、緊急時以外は使わないようにしてくださいよ? あまりこれ長持ちしないのでいざという時に役にたたなくなりますよ?」
ウェーブが珍しく注意をした。それもそのはず、元々このドパルボルはウェーブが発明したものであるため、誰よりも発明品の使い方には詳しいはずだ。研究員でありながら発明家でもある彼には発明品に愛があるのだろう。
僕がドパルボルに耳をすませている間に、視界の中でうろちょろしている少年が目に入った。これが数回である場合は特に気にしないのだが、さっきから僕が真剣に通信機の音を聞いている間ずっと行ったり来たりしてこちらを見てくる。明らかにコッチを向いている。
なんの用なのかを聞いてみることにした。
「どうしたんだ? なにか困っているならできる範囲で手伝おうか?」
優しく聞いてみるとそれに気付いた少年が不安げに話した。
「あのですね……聞きたい事があって、失礼かもしれないですけど、海賊の人ですか?」
いきなり何を言い出すのかと思ってしばらく黙ってしまったがすぐに答えた。
「いや、海賊ではないよ。」
あまり余計なことは言わずに質問に答えるようにした。
「でも、さっき不思議な物で誰かと話していたじゃないですか? それに周辺の人に宝を見つけるための機械だとか何か聴き込んでいましたし……」
どうやら僕をつけて来たのは連絡をとっている間だけではないらしい。
「っで、用はそれだけ? 僕はもうそろそろ仕事に戻らないといけないから。じゃあな。」
すぐに帰ろうとすると少年が咄嗟に叫んだ。
「ちょっと待ってください! 僕もあなたのいるチームの仲間にしてください! お願いします!」
いきなり頼まれてしまった僕は言い返すのにも戸惑ってしまった。
「君の熱意はよく伝わったけど、親には許可を取ったのか?」
少年を説得してこの場から離れようと思いついたのだが、意外な返事が返ってきてしまった。
「すみません。僕には親がいないんです。そして、いつも住む場所も無くて困っているんです。でも今回あなたに会った事でやりたいことがわかったんです。一生懸命頑張るので、どうかあなたのチームに入れてくれないでしょうか? お願いします!」
彼の声が周囲に響きわたると周りいた人達は一斉にこちらの方に注目した。
ここまで思いっきりやられてしまうとどうすればいいのか迷ってしまうのが現実である。
とりあえず、みんなに聞いてみてその後に考えることにした。
ドパルボルを取り出して周波数を全員に公開するチャンネルに合わせた。
誰かが応答するまでずっと呼びかけていると最初に返事をしたのはウェーブであった。そして次々とみんなが出てくれた。
全員集まる頃には……。
「〇△%&#×@¥¥$○□!」
みんな好き勝手、話していた。
「静かにしろーー!」
僕は大きな声で怒鳴ってしまった。もちろん、周囲の人は驚いてこちらの方を向いてくる。
周りの目が気になる僕はかなり恥ずかしい思いをしてしまった。
少し咳払いしてから本題に入った。
「あのですね。 実はキッドパーティーに入隊したいっていう人がいるんですよ。 それで、みんなに賛否を聞きたいんです。」
みんなが考えている間に隊長が最初に発した言葉が
「その入りたいっている人は女せ…?」
「いや、男です。てか、少年っス」
イグナが言いそうな質問に秒で答える。
隊長が残念そうにため息をつくと副隊長のゼバスが割って入る。
「どのような方なのかを判断する必要があるため、会って確かめてみたいのですが」
こうして場所と時間を合わせてボダグミア島の中央広場に集合することにした。
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