第2部 本当の力の意味を求めて。北方山岳地帯・空の玉座
第8章 休息の初冬。雪ときどき少女
第71話 拠点改装
10月の訪れとともにアクシスのお祭り騒ぎも終わり。
俺たちはしばらくは狩りや仕事は休みにしてのんびりと過ごしていた。
とはいっても、拠点を囲う城壁の内側は荒れ放題なので後片付けをして廃棄物をまとめたり、薬草園や農園の種苗を倉庫に逃がしたりとそれなりにすることはあったのだが。
壊れたテントや小屋の廃材は敷地の隅に纏めているのでそのうち燃やして処分するとして……。
「せっかく立派な家もあるんだし庭も綺麗にしたいよなぁ」
秋に備えて慌てて用意したこの拠点は、家は立派だが、地面は剥き出しだしで雑草が好き放題に生えている。
雨が降れば土は
「さっきから随分難しい顔をしているわね」
「クーニア。外に居たんじゃなかったの?」
「ルビィが遊び疲れて寝ちゃったのよ」
リビングの机で考え事をしていると、いつの間にか外で遊んでいたクーニアが戻ってきており、こちらを眺めていた。
クーニアの言う通り、ルビィもいつの間にか戻ってきてソファの上で気持ちよさそうに眠っている。
「実は、せっかくだからバンズさんに工事を頼む前に庭を手入れしようかと思っていてね。クーニアはどんな風な庭がいい?」
「ワタシは別に……ああ、でもこの家には寄りかかる木が無いから木が生えていた方がいいかもしれないわ。そうすれば歌をうたうときにゆっくりできるもの」
「植樹かぁ……考えてみる」
「そう。よろしくね」
そういって眠っているルビィの方へと戻って行くクーニアを見送りながら再び頭を悩ませる。
クーニアもルビィも歌ったり踊ったり走り回ったりするのが好きだからなぁ。
でも木を生やすのはさすがに魔法ではどうにもならないので、どこかの商会にでも問い合わせてみるか?
どっちにしても時間が掛かりそうだからそれは保留かな。
「ご主人様。お茶を淹れましたのでどうぞ。あまり根を詰めすぎないでくださいね」
「ありがとうアイシャ。ちなみにアイシャは何か希望はない?」
キッチンからお茶を運んできてくれたアイシャに尋ねてみる。
「そうですね……私はせっかく薬草園を任せていただいていますし、そちらさえ元に戻れば……」
「……そっか。それじゃあなるべくアイシャが働き易いようにしっかりとした建物にして貰うようにバンズさんに頼んでおくよ」
「ありがとうございます」
アイシャは奴隷から解放されてからもこうして変わらず一緒に暮らしている。
薬草園も続けていくことに意欲的で、なんだかアイシャの返答がくすぐったくて気恥ずかしい。
その後も入れ替わり立ち代わりリビングに訪れるみんなに、どんな庭がいいかを尋ねてみる。
ノルは稽古ができる場所は残して欲しいとだけ。
ミミは昼寝ができればなんでもいいと答え、フィーは誰にも見つからないように触手を試し撃ちする場所を作るのはどうだろうかと提案したので相槌だけを打っておく。
誰にも見つからないようにする理由もないし、そもそも確かに触手みたいな形状変化をさせているが触手呼ばわりされるのは何故だか引く。
脳内でおかしなことをしているフィーの姿を追い払うために、家の外に出ることにする。
我が家の南側には家と倉庫、厩舎が並び、北側の半分が薬草園の敷地、残りは空き地で訓練に使ったりしている程度である。
「とりあえずは城門から家までの道を舗装していくか」
玄関のそばに置いてあった箒を引っ繰り返して土の魔法陣を描きながら城門まで進む。
雑草の根が絡まって途中なんども古代文字がよれるのを必死に直しながら進み、箒の柄に魔力を流して発動。
故郷のファビュラス侯爵領の街の綺麗に敷かれたレンガで舗装された道路をイメージ。
実際のレンガのように炉で焼いている訳ではないのであくまで見た目を似せたストーンウォールの応用でしかないけれど。
まずは自分で何往復かしてみて、躓く心配や固すぎて馬の蹄を痛めないかを確認して調整を加える。
「うん。これで問題ないね」
ちょうど良い古代文字の配列と陣の形が完成したので、今度はその道を北西側にも伸ばして薬草園と繋ぐ。
そうすると南が下に長く、丁字路のようになるのだが、せっかくなので十字路になるように道を伸ばす。
薬草園の東側は農園用の倉庫兼、訓練スペースにしよう。
「そうなると、植樹するのとこどもたちの遊ぶスペースは家の横だな」
拠点の南西側が家と厩舎と倉庫。
南東側が憩いの場だ。
「うんうん。なんとなくイメージができてきた。後は雪が降る前にバンズさんに相談だね」
龍葬祭の報酬を保留にしているため、俺はギルドに大きな借しがある。
今回の改装費もギルドが持ってくれるので一切心配ないのでせっかくだから頑丈で立派な建物を作って貰おうと思う。
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