第6章 龍葬祭のはじまり! 龍の狩りと龍を狩る者たち

第51話 それぞれの役割

 龍葬祭りゅうそうさい実行委員会の初日の会合はそれぞれに簡単な役割を割り振って解散となった。


 例えば、支部長は例年通りに秋に備えて街の警戒態勢を確認すること。

 これは主に冒険者以外の市民やギルドの職員に対するものだ。


 反対に、冒険者への根回しは支部長補佐のトラストさんが行うことが決まった。

 これまでであってもアクシスの冒険者が一丸となって龍災に臨むことは当然ではあったが、今回は龍を狩るための戦力と物資が必要だ。

 トラストさんは俺がまだ立ち入ったことのない鉱山や大森林の前哨基地で最前線に立っている為、ベテランの支持を得やすいだろうとのこと。


 バンズさんは職人や商人への根回しが担当となるが……それとは別に、俺の拠点の近くの丘とアクシスの街の城門付近の2カ所に櫓を建築することを依頼されていた。

「頑丈さは必要ない。なるべく高く、少しでも高く作れ」とは支部長の言葉だった。


 さて、それでは俺に割り振られた役割は何かと言えば――。


「あー、みんなに紹介します。今日からしばらく我が家で暮らすことになったクーニアさんです。一応、お客さんということになるのでよろしくお願いします」


 リビングに勢揃いした仲間たちにクーニアのことを紹介する。


 ――俺の役割はクーニアの保護である。

 クーニアは普段は旧開拓地周辺をふらふらと動き回っていたらしく、協力体制を取る上でそれでは連絡を取るのに不便だ。


 それに、クーニアは人間のことをよく知らないので街に滞在して貰うのは何か問題が起こりかねない。

 ということで、空き部屋があり、アクシスの街から程よく離れた距離にあるこの拠点に滞在してもらうことになった。


『クーニアよ。特技は歌とダンス。よろしくね』


 これは事前に決めていた自己紹介のセリフだ。

 クーニアに任せると「ワタシはバンシー」などと言いかねないので一旦、バンシーと明かすのは保留にして貰った。


「アイシャです。お客様でしたらクーニア様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」


「ルビィもおうた好き! おどるのも好き! だからおねえちゃんも好き!」


 アイシャが一礼し、ルビィは口を大きく広げて笑う。

 ノルは無言で頷くのは人見知りが出たかな。


「プラチナキャティアのミミ。セレストに命を助けられた恩を返すためにここで働いているにゃ。でもここは好き勝手してても怒られにゃいから自由にしてていいにゃ! クーニアもゆっくりしてくのにゃ! あ、でもセレストの寝込みを襲うのはダメにゃ!」


『寝込みを襲う……?』


「はいはい、ミミは余計なことを言わない。というか怒らないからって最近は好き勝手し過ぎだからな。アイシャ、お客さんではあるけど、クーニアは別にどこかの貴族という訳じゃないから畏まらなくても大丈夫だよ。俺の友人として接してくれ」


 クーニアが理解に苦しむような顔をしているのでミミの言葉を遮る。


「……ふむ。私はエルフのフィー。胸の封印紋がざわつくので今はこれだけにしておこう」


 フィーは少し間を置いて、大きく開いた胸元の封印紋を撫でながらそう言うに留める。

 別にミミのように余計なことを言わないように俺が何かをしたわけではないので、恐らくフィーはクーニアの正体について何かしら感づいていて黙秘を選んでくれたのだろう。


『ニンゲンに、猫のジュウジンに、エルフ。不思議なお友達がたくさんいるのね』


「ああ。とても大切な友達で、みんなもう家族のようなものさ。クーニアにもここでの生活が楽しい思い出になるようにみんなで歓迎しよう!」


 確かにクーニアの言うとおり、我が家のメンバーは廃嫡された元貴族に農奴、獣人にエルフ、さらにはバンシーと不思議なメンバーが集まっている。


「それじゃあ今晩は歓迎会をしないといけませんね! 私は仕事のあとは料理の仕込みをしたいので……客室の準備はミミさんに任せても良いかしら?」


「ミミだって布団くらい用意できるのにゃ!」


「……アイシャ、心配だから俺もミミを手伝うよ」


「そうね。それじゃあノルにもお願いしようかしら」


「どういうことにゃー!」


 俺の号令にアイシャが指揮をとってみんなに仕事を割り振っていく。

 俺が一から十まで言わずとも、みんなが自然とこうして協力して働いてくれるのがなんだか嬉しく思う。


『それじゃあワタシはどうしたらいいの?』


「クーニアおねえちゃんはルビィとお歌をうたおうよ!」


『そう。わかったわ』


「それなら私も混ぜて貰おうかな。クーニアの歌には興味があるし、私もこう見えて歌は得意なんだ」


 クーニアの呟きを聞き逃さなかったルビィがすかさず駆け寄り、クーニアの手をひいて家の外に駆けだす。

 フィーはこちらを一瞥したあと、ルビィの後を追って外へ出る。


 フィーとミミ、もちろん他のみんなにもクーニアのことはちゃんと打ち明けるつもりだ。


「だけどまずは、クーニアの正体が何かよりも、クーニアがどういう人なのかをみんなに知って欲しいんだ」


 既に誰も居なくなったリビングでぽつりと思いが口をつく。


 クーニアのことは急がず多少の日を掛けて見守っていけばいい。

 それよりも俺にはもう一つ、実行委員として割り振られた役割の中で最も大切なものがある。


 絶対防御アブソリュート・シールドによる街の守護。

 龍災の規模は毎年違うものの、現れる龍の数は多く、運の悪い年にはとんでもない大型の翼龍が飛来すると聞いた。


 いずれ訪れる龍災を打ち払い、龍葬祭を成功させる為に、俺はもっと強くならなければいけない。

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