第28話 合流と狩り

 ギルドからの帰り道、馬車の中はとても賑わっていた。


「うわぁ! 猫ちゃんのしっぽかわいいよーふわふわぁ! こっちのお姉ちゃんのおててすべすべー」


「ルビィ。怒られても知らないぞ」


「あらあら。お二人とも、ごめんなさいね」


 多少修理をしたとはいえ、元々荷馬車だった狭い荷台に5人も乗り込んでいる。

 好奇心旺盛なルビィが外套を脱いだミミとフィーに興味を示して悪戯してはノルとアイシャさんに窘められる。


「うにゃあ……セレスト、この小娘をどうにかするにゃあー」


「くっ! この私が、人間のこどもに身体を好き放題触られているだなんて……屈辱っ! あ、そこはダメ! 敏感なところ!」


 ミミは姉妹が居るだけあってか嫌がるような口ぶりの割にはルビィに耳や尻尾を触らせれても怒らないし、フィーに到ってはよく分からない。


 知らない種族との対面でどうなることかと思ったけれど、幸いにもうちの仲間たちはあまり外の世界のことを知らないので案外すんなりと受け入れられた。


 アイシャさん辺りは多少思うところはあるかもしれないが、その辺りはレイナが事前に話をしてくれているとのことだ。


 そんなこんなで若馬にちょっと無理をさせながら拠点を目指していつもの道を真っすぐ拠点を目指して馬車を走らせる。



 ◇



「じゃあアイシャさんたちはいつも通り採取と植生の調査を頼むよ」


「わかりました。行きましょう。ノル、ルビィ」


 アイシャさんたちには拠点の城壁外で薬草の採取と、今後薬草園を営むために城壁内で実験的に育て始めた薬草や野菜の世話を頼む。

 今日は色々あって迎えが遅くなったのでノルとの訓練はお休みだ。


「それじゃあミミとフィー。二人にもやって貰いたいことがあるんだけどいいかい?」


「ミミは植物のことはあんまり詳しくないにゃ」


「どうして私が貴様の言うことなんか……聞かせて頂きます!」


 協力的ではあるけれど、自信なさげに頬を描くミミと隷属魔法のせいでなんだか面倒なことになっているフィー。


「ミミとフィーには採取じゃなくて魔物狩りを手伝って欲しいのさ。フィーも嫌だとは思うけど、フィーの身柄は俺が預かることになっているんだ。こっちの都合とは言え、自分の食べてく分を稼ぐと思って頼むよ」


 主な収入源が薬草採取と俺が一人の時にしている小動物の狩り程度なので、我が家はアクシスの街でも相当稼ぎが悪いのだ。

 二人分の生活費が増えるのだし、そろそろ魔物を狩りたいところ。


 アイシャたちともそれなりの付き合いになって俺の魔法のことも大分理解して貰えてきているので、多少離れて行動しても大丈夫だろう。


「フィーはエスティアの守護ってことは弓兵だったんでしょ? それなら弓は使えるよね。ミミは……戦闘はできなくても獲物を運ぶのを手伝ってくれればいいんだけど」


「心配しなくてもミミたちプラチナキャティアは武芸に通じているにゃ。ただ、ミミは今何も武器を持っていないからにゃにか武器があるなら貸して欲しいのにゃ」


 フィーは元から弓を持っていたけれど、ミミは裸で川を流れてきたもんな。


「剣は使える? 使えるならこの剣を貸そう」


「短剣の方が得意にゃけど……問題ないにゃ」


「ちょっと、私は貴様らを手伝うなんて……言ってますよ!」


 腰に佩いていた剣をミミに渡す。

 フィーは……手伝うと言ってるならいいな、うん。


 ぐぬぬ……と悔しそうな顔をしているフィーには申し訳ないけど、気にしていたら埒が明かないので慣れていくように頑張ろう。


「それじゃあ、早速二人の腕前を見させて貰うとしようか」


 ミミとフィーを先導して北を目指す。

 途中、アイシャさんに絶対防御アブソリュート・シールドは俺が離れても問題ないことを改めて伝える。


 そして森を歩くことしばらく。


「さて、この辺りが俺の魔法の境界だ。今は拠点にアイシャさんが居るから俺はこの場所から動けない。二人には大物の必要はないから確実に狩れる獲物を一匹狩ってきて欲しい」


「セレストは戦わないのかにゃ?」


「ふんっ。何故一匹なのだ。こんな東端の小物なんて私の弓の一射にも耐えられまい」


「シールドの起点が俺だからね。移動するとシールドの範囲も広がって魔物が近寄ってこれなくなっちゃうんだよ。アイシャさんたちが居ないときなら最低限にできるんだけどね。本格的な狩りは三人だけになってからやるからね。今は一匹でいいのさ」


 今回の狩りの目的は魔物を倒して、それを拠点まで持ち帰ること。

 それができるようになれば魔物を狩った素材で今までの何倍も稼げるようになるからね。


「セレストの魔法は便利にゃんだか不便にゃんだかよくわからないのにゃ」


「そんな話はどうでもいい。狩れば良いのだろう、狩れば。ふんっ」


 ミミの言うこともフィーの言うこともごもっとも。


「んじゃ、二人で仲良く協力してよろしく」


「エルフの力なんか借りなくてもミミが一人でやってやるにゃ!」


「プラチナキャティアなんかにエルフが負けてなるものかっ!」


 ニヤリと牙を見せて豪快に走り出すミミの後を、蝶が舞うように華麗で俊敏な動きで追いかけるフィー。


 さて、じゃあ俺は木の上にでも登って二人のことを観察させて貰おうかな。

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