第20話 熱い剣と物語

「てりゃあっ……たあっ!」


 型も技術もない。

 ただ剣を俺に目掛けて縦に横に叩きつけてくるノルの剣をその度に鞘でいなす。


 まだ体が成長しきっていない俺は今のノルのようにがむしゃらに剣を払えばすぐにバテてしまうので、躱し、受け流し、相手の技を崩して隙を作るのが俺の自己流剣術だ。


「動きが全部丸見えだ。剣を強く振ろうとし過ぎて重心が剣に持っていかれてしまっているぞ。足元を蹴られたら地面に転がって串刺しにされてしまうよ」


 ノルの剣を半身で躱して、間合いを詰める。

 足の甲を踏み付ける素振りだけして、実際には少しずらした地面を強く踏み付ける。


「今のを貰っていたら死んでいたね」


「ぐっ……」


 俺がわざと足への攻撃を外したのをノルも理解したのか、悔しそうに歯噛みをする。


 俺に敵う訳はないとは思っていたが、ノルは迷いなく全力で剣を大振りしてくる。

 人間相手に真剣をこうも思い切って振るえるというのは少し意外だった。


「ノルの覚悟は十分に分かったよ。今日はノルの振るう剣を見てみたかったんだ。明日からは基礎的な訓練を始めよう」


「……全然、当たる気がしませんでした」


 そりゃあ貴族の生まれの俺とアクシスで犯罪奴隷として暮らしてきたノルでは、剣に触れてきた時間が違うから仕方がない。


「初めてなのに剣を怖がらずに振れただけでも十分、ノルは勇気があるよ。知っているかい? 誰かを守るために勇気を持って剣を振るう人のことを、物語では勇者と呼ぶんだ」


「その、オレは……本とか物語は、わからなくて……」


 ノルは喜ぶべきなのかわからないといった様子で困った顔をしていた。


 しかし……ふむ。

 ノルもルビィも物語を知らないのか。

 読ませてあげたいけれど、実家にはたくさん本があるけれど、旅立つときには魔法書の写ししか持って来なかった。


「仕事を頑張ってくれたらノルとルビィにも本を読ませてあげるよ。剣を振るう力や技術だけ覚えるだけじゃなくて、本を読むことでその力の使い方を考えられるようになる。だからこれからも頑張れるかい?」


「……!! 頑張りますっ! オレ、仕事も剣も頑張ります!」


「ルビィにも本を読ませてくれるの!? やったぁ!」


 俺とノルの話が聞こえていたのか、ルビィが駆け寄ってきたのでノルの持っていた剣を回収して鞘に納める。

 まったく、抜き身の剣を持っているっていうのにルビィは警戒心が足りないなあ。


「すみませんご主人様。私がしっかり手を繋いでいなかったので……」


「構わないよ。ただルビィにもしっかり本を読ませて勉強させないといけないことが分かったから、その時にはアイシャさんも手伝ってくれる?」


 慌ててルビィを追いかけてきたアイシャさんが平謝りするのを制止する。


「勿論です! 物語なんて長く読んでいなかったので、とても楽しみです!」


 申し訳なさそうにしていたアイシャさんの表情がぱあっと明るくなって安心だ。


「それじゃあ三人とも! 今日も頑張って働いてね! この拠点をもっと大きく立派にしてゆっくり読書ができるおうちを作らないとね!」


「はーい! ルビィ頑張る!」


「オレも!」


「ええ。頑張りましょう!」


 三者三様に笑顔と返事をして今日の仕事に取り掛かる。

 城壁の内側は家と畑を作る予定なので、採取は城壁外だ。

 俺も頑張って三人を守らないとね。

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