オンリーワンとナンバーワン

迷い猫

第1話 マッチング

 スマホのアラームが狭い部屋に鳴り響く。画面をタップして止める。そしてそのまま俺はマッチングアプリを開いた。画面に映るのは沢山の盛られた女性たち。

 俺は残っていたいいねを一番上に表示されていた女性に送る。最初は彼女が欲しいと思ってインストールしたマッチングアプリだが今はそんな気がなくなっているのが正直な気持ちだ。


「こんな画面の中に運命の人なんているかよ」


 容姿も性格も悪い俺。勿論、童貞だ。そんな俺でもこいつに頼ればいけると思っていたのに現実は甘くなかった。結局はプロフィール写真の顔が命だった。恥ずかしさを堪えて自分のガッカリの写真を貼り付けたが相手からのいいねは来なかった。


「……金返せよ」


 大した課金額でもないのに彼女ができない八つ当たりをスマホにしたが反応はない。もう、いいねも残っていない。


 大学で出会いをなんて夢も見ず、マッチングアプリに夢を見てしまった結果がこれだと笑えない。この先、俺は彼女もいなく童貞で魔法使いになってしまうのだろうか。それは嫌だ。


「あー、彼女欲しい」


 セックスしたいとかそういう単純なことだけではなく、満たされる何かが欲しかった。それが何なのかは自分でもわからないが。



 いつも通り大学に行く。そして、つまらない授業を受ける。大卒という資格が欲しいから単位に金を払う。これだけの金があればマッチングアプリ何年分だろうか。もしかしたら期間をかけたら上手くいくかも、そんな訳ないか。無駄に金を運営に吸われて終わりだろう。


「どうした快斗、彼女に振られたか?」


 そんな失礼なことを言ってきた長身の男。高谷淳たかやあつしは颯爽と教室から出ようとする。


「振られてもいないし、いたこともねえよ」


「そうだったな。じゃあな」


 まだ授業は始まったばかりだというのに退出を決め込む高谷。そんな彼は女子によくモテる。

 あれくらいの自由奔放さが必要なのだろうか。ただ俺が真似しても不真面目な非モテ男が完成するだけだと思った。



 授業も終わり、俺は帰りのバスに乗る。癖になってしまったようで俺はマッチングアプリを即座に開いた。すると、一人の女性とマッチングをしていた。


「え」


 俺の声が静かなバスの中で無駄に響いた。


 待て待て、どういうことだよ。焦りと期待ですぐさま女性の顔を確認する。そこに写っていたのは茶髪に染めた女性の姿だった。目は大きく、加工はされていないようだった。少し不安げに年齢を見ると同い年だったので安堵する。

 名前の欄には『Ami』と書かれていた。


 マジかよ。


 こうして俺はマッチングアプリで初めてマッチングをした。






 




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