全員私!脳内ひとり会議は踊る
蒼生光希
第1話 スランプを抜けた朝
「……ねぇ、あの小説どうすんの」
全員黙る。
黙ってもしょうがない。黙るのもそれを受け止めるのも私しかいない。
ここは脳内。ひとり会議の部屋。
たくさんの私が、1つの議題について話し合おうとしていた。なかなか想像がつかない方はご自身かお気に入りのキャラをクローンのごとく増殖していただきたい。コピペでもいいです。
議題「スランプ!パソコンで書いてる7万字のファンタジーのやる気が出ないのどうするの」だ。
「最初はさぁ、パソコンでサクサク書いてたわけじゃん」
「そうだねぇ」
「2月くらいからだっけ」
「そう、そんで4月に」
「パソコンの調子が悪くなった」
「電源入らなくなったのよね」
「あの故障は謎だったよねーいつの間にか直ってたけど」
「お菓子食べたーい」
「痩せたーい」
「黙れよそこの2人」
「みんな私だけどね」
「とりあえず明日体重計のって現実を見るといいよ」
「はぁー(深いため息)」
「……話を戻そう。結局、パソコンの調子が悪くなってからケータイで書きたい欲を鎮めるために執筆を始めたんだよね」
「そうそう。ネットに投稿始めたね」
「読んでもらえるのって嬉しいよねぇ」
「でもなんせ暇つぶしで書き始めたやつだから、新人賞に出すような10万字超え予定のプロット組んでるのはパソコンで書いてた物語の方なのよ」
「せやな」
「それが行き詰まってるのよ」
「知ってるよ。なぜなら私だから」
「……(冷ややかな目)」
「ケータイで書いてる話のが反応いただけて嬉しいから、ついそっちに夢中になってるうちに非公開のパソコンの方がめんどくさくなっちゃったんだよねぇ」
「展開に行き詰まってるし」
「パソコンのがタイピング速いから書きやすいんじゃなかったの」
「キャラが動き始めたら本筋に合わせるのが難しくなってきたんだよー!好き勝手な言動始めるからプロットに
「後ろで待ってる望み通りの展開にバトンを渡さなきゃいけないのが難しいんだよぉ」
「誰だよあんなプロット組んだのー」
「「「私だ」」」
「やめてよ1人で盛り上がってからのセルフツッコミ」
「完全に痛いやつだな」
「いいじゃない私の脳内なんだから。好き勝手やろうよー」
「……それだ」
「へ?」
「今いいこと言ったぞ私。好き勝手やればいいんだ」
「具体的には?」
「そんなに嫌気がさしてるならいっそのこと書くのを止める、という手もある」
「えー」
「極端だな」
「まあそういう手もあるってことさ」
「今までの分を投稿サイトにアップしたら?」
「うーん、完全未発表を条件にしてる賞もあるからなぁ」
「そんな賞ばっかじゃないでしょ。てかなんでそういうとこだけ自信満々なのさ」
「本音は?」
「移植作業めんどいしその先でまた行き詰まるの見えてる。今だって行き詰まってるんだし」
「そもそもなんで行き詰まってるんだろうねぇ」
「だいぶ書き始めてから流行りものを勉強し始めてたのが大きいかな」
「書き出しからして地味だもんね」
「世間との差に気づいたわけだ」
「だけど今から変えると、ほかも変えなきゃいけなくなるし」
「あー文章力ほしー」
「一朝一夕で身につくもんじゃないでしょ」
「そうだけどさー」
「天才じゃないのはわかってるよ。だったら量をこなすことも大事なんじゃないの?」
「うっ」
「ちゃんと書いて、ちゃんと完結させる。それが後々流行りものを書く時に役立つんじゃないの?」
「痛いところつくな私……」
「刺されてるのも私だけどね」
「はい、じゃここでこの7万字までとある作者が書いた小説を読んでみよー」
「……おい」
「はい」
「これ自作じゃん。しかもスランプ中の」
「そうだよ。そうだけど、ちょっとだけ読んでごらんよ」
「……文章が下手だけど、好きなシーンはある…あ、ここは好きな書き方してるな」
「そりゃ、そのときは好きなもの書きたくて書いてたからね」
「……」
「夢は書籍化、それはわかってるよ。でも私は天才じゃない。たくさん読んでたくさん書いていくしかない」
「……」
「本屋に並んでるのがうらやましくなったりするよね。でもあれだって皆さん楽々書き上げてるわけじゃないと思うよ。書籍化決まるまでも頑張って書いて、きっと出版するにあたって何度も書き直したりしてるよ」
「……」
「その努力を見ないでおいて楽したい投げ出したいって、都合よすぎじゃない?」
「……そうだね」
「さてここで問題。この7万字まで書いた小説をここから自分史上最高に面白くしてみて?」
しばらく固まっていたたくさんの私は、それぞれおもむろに準備運動を始めた。
「ん、まあやってみるか。好きなシーンもあるし」
「完全にイチからやるよりはマシかぁ」
「やるか」
「とりあえず手を動かしてみよう」
「よしやるぞ私!」
「「「おー!」」」
こうして私はスランプを脱したのである。
まあ、また次のスランプがやって来るかもしれないけど。
どうせならスランプついでにエッセイとして1本書いてしまおう、と仕上げたのがこちら。
楽しんでいただけたでしょうか?
またどこかでお会いしましょう。
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