〜元ヤクザの警察官〜
百鬼くんにメッセージを送った。すぐに返信がきて、明日の午後に会うことになった。よし、次は夕飯作りだわ。今日はお兄ちゃんの好物のハヤシライスを作るんだ。ご飯の用意が整うと、Rineで写真を撮って送る。今日はバイトないから早く帰ってくる日だ。しばらくして、玄関の扉が開く音が聞こえてきた。
「ただいま真理子」
「お帰り!!ご飯の用意するね」
温め直してテーブルにジュースと一緒に並べた。お兄ちゃんはケーキ箱を置いた。
「これは?」
「シフト見に店寄ったらさ、店長がケーキくれた。デザートに食べようか」
中を見ると苺のショートケーキだ。私の大好きなケーキ、食べるのが楽しみ過ぎる。
「あ、そうそう。今週の生活費」
お金の入った封筒を渡される。中身は20万くらい入っている。
「お兄ちゃん、何でこんなにたくさん?」
「最近、夜中も働いてんだ。今の仕事だけだと足りないからさ」
私は心配だった。お兄ちゃんが私との生活守る為に危ない仕事していたらどうしようって……。
「何の仕事してるの?」
「その話はいいだろ?それより、真理子の作るハヤシライスは本当美味いな!!」
仕事の話になると、はぐらかされてしまう。何で教えてくれないの……。私がまだ子供だから言えないんだ……。そっちがその気なら、私にだって考えがあるんだから。
※※
ー警視庁ー
「マコト、ちょっと来い」
仕事中、石川さんに呼び出されて会議室へと向かった。そこには敦と顔に傷のある堅いのよい男が瀬戸さんの傍らにいた。
「新しくチームに入ったメンバーを紹介する」
男は俺に睨みをきかせる。この人……雰囲気がカタギじゃないような気がする。威圧感が半端ない。彼は胸元に手を伸ばし、何か武器でも出てくるんじゃないかと警戒する。すると、出てきたのは名刺だった。
「初めまして、新しくチームに入った
「加藤マコトです……」
ビックリした……いきなり殺されるかと思った。この人絶対何かあるだろう!!
「マコト、このメンバーである事件を担当してもらう。それは今流行りの闇バイトだ」
スライドを使って石川さんが説明を始めた。
「闇バイト事件を引き起こしているのが藤組だ。表向きは高収入や即日払いを謳い、SNSや掲示板で求人情報をばら撒く。投稿には「誰でもできる簡単な仕事」「短時間で高額報酬」などの甘い言葉が並び、貧しい家庭の若者や、借金を抱える者が次々と応募してくる。仕事の内容は一見すると普通のアルバイトと変わらない。高齢者を相手にした電話の「調査業務」、商品の「配送」、倉庫での軽作業—しかし、その実態は振り込め詐欺のかけ子、違法薬物の運び屋、密輸品の仕分けだった。応募者たちは、初めは軽い仕事から始めさせられるが、徐々に違法行為へと足を踏み入れていく。指示役は藤組の幹部や若頭が務め、仕事内容はメッセージアプリを通じて行われ、藤組の名が表に出ることはないよう徹底していた。指示は細かく、ミスがあれば厳しく叱責される。報酬の支払いも手数料や罰金で差し引かれ、思ったほどの金額は手に入らない。それでも、一度足を踏み入れた者が簡単に辞められることはない。辞めたいと言えば、「お前の素性は全部わかっている」と脅され、家族や住所を盾にされては逃げ道は閉ざされるしかない。こうした闇バイトは藤組にとって非常に都合が良かった。若者たちは自分たちが違法行為に手を染めているとも気づかないまま、コマとして使われる。藤組は表に出ることなく利益を吸い上げる仕組みを完成させていたのだ」
「藤組はどんなヤクザなんですか?」
「無秩序な恐怖支配で知られている。指示役の幹部は、平気でバイトの若者を殴るなど、常に力で相手をねじ伏せる。さらに頭脳派が多く、組長の藤村大輝は冷酷な策士で、相手の弱点を見抜いて的確に追い詰めるタイプ。暴力はあくまで最後の手段で、言葉や策略で相手を屈服させるのがやり口だ。尻尾をつかもうとすれば逃げられてしまうから、厄介な連中ではある」
スライドが終わり、部屋が明るくなる。
「以上で説明は終わりだ。とにかく、一刻も早く闇バイトを終わらせないといけない。そこで八代の力が必要となる」
八代さんは被っている帽子のつばをぐいっと指で押し上げる。そういえばこの人一体何者なんだろう。ただの刑事が専属チームに選ばれるなんてことは異例中の異例だ。大体は組対から優秀な人材が引き抜かれることが多い。
「八代は元ヤクザだ。それ故、裏社会について詳しい。ちなみに今回の情報は八代がもってきたんだ」
それを聴いた俺と敦は驚いた。ヤクザが警察官だなんて、一体何があったんだ。訊きたいことはあるが、今は仕事に集中しないと。
「犯罪に手を染める若者を私たちの手で止めなければいけない。その為にも皆さんの力が必要です。よろしくお願いします」
続く。
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