八代仁と藤組
〜ゴールデンウィーク間近〜
雨の降りしきる夜、薄暗い通りの一角に若者が集められている。そこへ男が1人、彼らのもとへやってきた。男は彼らに冷たい眼差しを向ける。
「お前ら、今日の仕事だ。今からスマホを渡す。そこに書かれてることを、キチンとこなせば報酬20万だ」
歓声が上がる中、「ただし」と割って入る。
「失敗すればどうなるか……も、そこに書かれている。くれぐれも気をつけてくれよ」
男たちはスマホを見ながら息を呑んだ。
「やるしかない……俺には金が必要なんだ」
※※
5月になり、もう少しでゴールデンウィークがやってくる。クラスのみんなはその話ばかり。うちは親父が仕事だから、当然マコトだってそうだ。1日くらい遊びに連れて行ってほしいよ……。
「獅恩んちはゴールデンウィークどこか行くの?」
「ううん、多分無理。みんな仕事だからさ。だから、家でアニメ見るかゲームしようかな。玲央んちは?」
「父さんがさ、一泊二日で温泉旅行しようかって言ってくれたんだ」
「いいなぁ。楽しんできてね」
「お土産買ってくるよ」
マコトから連絡きて、一緒に靴箱に向かうと、そこに大きなため息を吐いているクラスメイトがいた。
「渡邉さん。どうしたの?」
彼女は渡邉真理子さん。頭が良くて学級委員をしている。
「な、なんでもないの。ちょっと疲れちゃって……」
「体育あったもんね。女子は何やったの?」
「バスケだよ」
「そうなんだ、あっしらは……」
つい、油断して『あっし』って言ってしまった。スルーしてくれるだろうか……。彼女はクスッと笑って「珍しい一人称だね」と。心の中で「ヤバい」と叫ぶ。しかも玲央から小声で「バレちゃうよ」って言われる始末……。本当に気をつけないとな。彼女は「また明日ね」と言って学校から出た。
玲央ともバイバイして車へ向かうと、マコトが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「ただいま!!」
助手席の扉を開けてくれて乗り込んだ。
「マコト、ダメ元で訊くけどさ……ゴールデンウィークってやっぱり仕事?」
「チームのみんなとローテーションで休み組まれているので、一回しかありませんが……。何か予定があるんですか?」
「ううん。もしマコトさえ良かったら、どこか出かけたいなって」
やっぱりダメかな……。なんて考えていると、意外な返事が。
「いいですよ、どこ行きたいか決めておいてください」
「いいの?」
「もちろん。連休なのにずっと家にいるのも退屈でしょう」
「ありがとう!!」
やった、これで退屈しないで済む。家に着くまでネットサーフィンしながら行楽地を調べまくった。
※※
「ただいま」
リビングに行くと親父の姿がなかった。出かけてるのか珍しい。カレンダーを見ると『通院日』と書かれていた。そっか今日病院か。きっと診察が終わったら、院内のカフェに寄ってるに違いない。あそこの名物のハーブティーはめちゃくちゃ美味いんだ。
着替えて宿題をしているとき、親父が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり。健診どうだった?」
「うん、異常なし。最近運動始めてから、体調良いんだ」
「そうなんだ、でも暑くなってきたから気をつけてね」
「ありがとな」
親父がテレビをつけると、ちょうど夕方のニュースがやっていた。
『次のニュースです。昨今、若者を狙った違法なアルバイトが社会問題となっています。一見、簡単で高収入を得られる仕事に見せかけて、暴力団や犯罪組織の活動に加担させる悪質なものです。警察によると、SNSや匿名掲示板を利用して募集されることが多く、特に学生や若年層が巻き込まれるケースが後を絶ちません。実際に関与してしまった若者が逮捕される事例も増えています。「甘い言葉に惑わされず、怪しい求人には近づかないよう注意してほしい」と呼びかけています』
「最近多いよね。このニュース……」
「そうだな。金に困っている連中がこういうのに手を出していると聞く。獅恩も甘い言葉には気をつけるんだぞ」
「分かった」
「ただいま戻りました」
2人が警視庁から戻ってきた。仕事から戻ると幹部連中は親父に報告にやってくる。
「おかえり。そろそろメシの時間だから、食ってから報告してくれるか?」
「かしこまりました。それでは荷物置かせていただきますね」
「腹減ったのう、早うメシ食いに行こうや」
「今日はね、ほっけ焼き定食だよ」
「ほう、わしの好物じゃけぇ。楽しみじゃのう」
あっしらが献立で盛り上がっていると、私服姿のマコトもやってきた。
「獅恩様、獅斗様、夕飯食べに行きましょう」
「うん!!」
「マコト、メシ終わったら仕事の話をする。その腹づもりでいろ」
「はい……」
2人がここに引っ越してきてから、マコトはなんだか元気がないように感じる。一体どうしたんだろう。
「ねえ、マコト!!ゴールデンウィークなんだけど、行きたい所見つけたよ」
あっしに話しかけられて表情が和らいだ。
「どこに決めたんですか?」
「鎌倉行きたい。スイーツ食べ歩きしたいんだ♪」
「いいですね。江ノ電とか乗りたいし、電車で行きましょうか」
「電車なんて長らく乗ってないから楽しみ!!乗り方勉強しとくね」
「俺が教えますから大丈夫ですよ」
「お土産期待していいか?」
親父が話に入ってきた。親父とはスイーツの趣味が合うから美味しいもの買ってきてあげよ。
「もちろん!!親父の好きそうなもの選んでくる」
玲央に出かける予定ができたこと言わなきゃな。今からゴールデンウィークが楽しみだ。
続く。
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