〜もう一度友達になってくれないかな〜
翌朝、ノックの音で目覚めた獅恩とマコト。雅之が入ってきて獅恩に訊ねた。
「おはよう。具合はどうだい?」
「おはよう……うん。大丈夫」
「朝ごはん食べたら念の為検査して、問題なかったら退院しようか」
看護師が二人分の朝食を運んできた。
「あっしの分まですみません。いただきます」
食事をしようと箸を持った瞬間、マコトは獅恩に言った。
「食べ終えたら、田中さんの借金の件で警視庁へ行ってきますね。一人で帰れますか?」
「うん、敷地内だから大丈夫」
「すみません。よろしくお願いします」
マコトが出て行った後、スマホを見ようとしたところへ、再び扉をノックする音が響き、勢いよく扉が開いた。
「おはよう獅恩!!」
「高木さんどうしたの?」
「入院したって聴いてきたんだ。体は大丈夫か?」
「うん。そういえば舘川さん大怪我してたんだけど大丈夫かな……」
「さっき見てきたけどすっかり元気。すぐにでも仕事に戻るって言ってるくらいだ」
「そうなんだ。すごいな」
「様子見に行く?」
「うん」
彼の病室を訪ねると、そこはもぬけの殻だった。荷物もきれいになかった。
「アイツ!!今日は安静って言われてんのに勝手に退院しやがった!!」
「仕事に行っちゃったの?」
「多分な」
深いため息を吐いている。その様子を見た獅恩が訊ねた。
「舘川さんと仲良しなんだね」
「アイツとは警察学校時代の先輩後輩だからな。卒業してからもよく面倒見てやっていたんだ」
「舘川さんに抜かれちゃったんだね」
「まあな。俺より仕事できるから。俺は別に気にしてない。交番勤務も楽しいし。それよりも今日も入院か?」
「検査して問題なかったら帰れるって」
「そうなんだ。じゃあ終わるまで待ってるよ。一緒に帰ろうぜ」
「うん!!」
※※
検査に問題がなかった為、退院できることになった。
「良かったな退院できて」
「うん。高木さん今日仕事?」
「午後からな」
「そうなんだ。じゃあゆっくりできるね」
「これからジムへ行くんだけど、獅恩はどこか出かけたりする?」
「うーん、出かける予定あったかな」
スマホを開くと一件メッセージがきていた。内容を確認すると玲央からだった。
「えっ!?」
目を丸くして画面を見ている。すると、真斗が「どうした?」と訊いた。
「友達だった子から連絡きた」
「なんだよ、友達だったって」
「絶交されたんだ昨日……あっしの正体がバレてさ」
お前なんか……友達じゃない!!
「あの言葉は正直堪えたな……。あんなこと言ったのに会いたいって一体どういうことなんだろ……」
首を傾げている獅恩。そこへ真斗が推測する。
「仲直りしたいんじゃないか?」
「本当?だったら嬉しいな。あっし、玲央とギスギスしたくないからさ。会いに行こうかな」
「出かけるなら送っていくけど」
「ありがとう。今連絡して時間決める」
十一時に会う約束を取り付けて二人は一旦帰宅した。それから時間になって玲央の家に行くことになった。
※※
昨日の今日だから緊張する……。獅恩の心臓はバクバクだった。インターホンを鳴らすと、玲司の声が聞こえてきて、玄関の扉が開いた。
「こんにちは。百鬼くん」
「こ、こんにちは。玲央くんいますか?」
「ああ、いるよ。部屋にいる。今呼んでくるから。中に入ってテキトーに座ってて」
リビングに座って待っていると、玲央がやって来た。少し恥ずかしそうな表情で。獅恩は立ち上がって頭を下げた。
「家がヤクザだってこと黙っててごめん。でも、萩組みたいな悪いことは一切していない。あっしと親父はヤクザたちから嫌われていて、なんなら命を狙われてる。刑事たちは常にあっしらを守ってくれているほど、強力な味方なんだ。その証拠に家の近くにウチ専用の交番もあるよ」
なんとか誤解を解こうと必死な様子が伝わってくる。玲央は真面目な表情で言った。
「……俺こそごめん。命を張って守ってくれたのに。それと獅龍組のこと純粋に知らなくて酷いこと言ってさ……。初めてできた友達になんだか裏切られた気持ちになっちゃって……」
初めてという言葉に反応する。
「えっ?玲央は今まで友達いたと思ってたから意外……」
彼は切なそうな表情で「実は中学上がるまで友達いなかったんだ」と言った。
「あっしも今まで友達いなかったんだ。○✖️町
のカタギは、親父が他の組から命狙われてることを知っててさ。一緒にいたら巻き込まれるかもしれないから近づくなって親から言われたって言われたことあるんだ……だから家のことを知らない町なら友達できるかなって思って今の学校を選んだの。親父がね」
「獅恩のお父さん、獅恩のこと考えてくれてんだね」
「うん。獅龍組の活動を知らない人たちから謂れのない誹謗中傷を浴びせられてきたからね。それに関しては全然気にしてない。だって胸張って悪いことしてないって言えるから」
「獅恩は強いね。俺なら耐えられないよ……」
「だからさ、中学行って友達ができて本当に嬉しかったんだ。それでさ、お願いがあるんだけど……」
頬を赤らめて玲央をまっすぐ見つめて言った。
「もう一度あっしと友達になってくれないかな……。玲央と過ごした時間が本当に楽しかったからさ。どうかな?」
彼は迷わずに答えた。
「当たり前だろ。俺だって獅恩と一緒にいたい!!だから俺からもお願い。もう一度友達になってください!!」
彼の手を握って「もちろん」と笑顔で答えた。一部始終を見ていた玲司はケーキを持ってやって来た。
「仲直りできてよかったな。お茶にしようか」
ケーキを食べながら過ごしていると、着信音が鳴り響いた。みんなスマホを開いて確認したところ、玲司のスマホだった。
『もしもし田中さん。今大丈夫ですか?』
「加藤さん。大丈夫です」
電話の相手がマコトだったので、スピーカーにしてスマホをテーブルに置いた。
『例の借金ですが、獅龍組の優秀な顧問弁護士から連絡がありまして、逃亡した上司がなんと見つかりました』
「本当ですか?ちなみにどこにいたんですか?」
『韓国です。現地で締め上げたところ、借金を押し付けたこと自白しました。ギャンブルにハマり金に困っていて、つい闇金に手を出してしまったそうです。そして金が返せなくなって田中さんに押し付けたことも認めましたよ』
「そうだったんですね。じゃあもう……」
『ええ、借金から解放されました。ヤクザたちも家に来ないので安心してください』
三人が声を出して喜んでいる。獅恩は「マコトありがとう!!」と言うと、マコトは驚いて『獅恩様!?』と叫んだ。
『今どちらですか?』
「玲央の家」
『遊びにいらしていたんですね。お迎えに行きますので、帰る時間分かりましたらご連絡ください。では田中さん失礼します』
三人は抱き合って喜び、玲司はあまりの嬉しさで泣いていた。
※※
その頃、萩組では彰が怒り狂っていた。
「金を回収できなかった上に、獅龍組にやられただと?!この使えん連中共め!!」
怒号で部屋中が建物ごとビリビリと揺れている。舎弟たちは正座をさせられて、彼の迫力にビビって体を震わせている。
「この礼を獅龍組にしてやりたいが、獅斗を狙うにしてはガードが硬すぎる。どうしたもんか……」
頭を抱えていると「おじき!!」と勢いよく入ってきた青年がいた。
「貴様!!この非常時にどこにいたんだ!?今更ノコノコとやってきやがって!!」
胸ぐらを掴んで今にも殺してしまいそうな雰囲気が漂う中、彼は笑顔でスマホを見せて耳元で囁いた。それを聴いて不気味な笑顔を見せる。
「なるほどなぁ……こいつはいい。なる早で我々の城へ招待しろ」
〜田中玲央編終わり〜
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