天に至るべき虫のこと

授業中ふと見てしまうものがある


日焼けた奴らの中でひときわ目立つ白い肌

まさしく大和撫子のような彼女は

もちろんクラスの中心にいた


嫌なところはたくさんある。

頭は良く、運動もできる。

キラキラしている友達がいて、

常に笑顔を振りまき、誰とでも分け隔てなく接して、

悪い噂も聞かない。

親からの厳しい要望にも応え続けている。

そして最も嫌な所は、人を信じてやまないことだった。


なんと嫌な奴だ。


学校帰りにゲームセンターで嫌な奴を見かけた

まだ部活動をやっている時間だから、ここにいるのはおかしい

嫌な奴の周りには、いつも学校でつるんでいるメンツとは違っていた。

なんというか、ガラが悪い。

事情は分からないが、本人は楽しそうに見えた。

別の日に嫌な奴を見た


ガラの悪い奴らと一緒にショッピングセンターを練り歩いていた。

嫌な奴の特徴であった白い肌は少し日焼けていて、表情はぎこちない。

帰りがけに、連中を遠目で見ているのがバレて、絡まれた。

嫌な奴は俺に対しても、みんなと同じように接していたが、

なんだか汚いものに触るような、または臭いものを嗅いだような、

顔をしていた。気の毒だと思った。


また別の日に嫌な奴をみた。


街中でいつものようにいつもの連中と歩いているのを見かけたが、

心底ばつが悪そうにしていた。

肌は飴色に日焼けしている。

連中は嫌な奴と楽しそうに話しているこそすれ、

嫌な奴の顔色をまるで見ていなかった。

彼らは中身ではなくがわで話していた。

そこに意思はなかった。

生きられない。


それからしばらく経った。


嫌な奴は教室で、以前と同じように、キラキラしている友達に囲まれている。

部活にも顔を出して、テストの成果も順調そのものらしい。

あんなに曇っていた顔色が、雲一つない澄み切った快晴に包まれていた。


彼女は帰るべきところへ帰り、

幸せであろう人生を歩んでいた。


その透き通るような白い肌を見て思った。




かわいそうに、








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