終業式 ニ

〈担任 玉川仁志先生の話 続き〉


 町田さんは本当に明るい人でした。いつも笑顔で、明るくて、誰に対しても優しい人でしたね。私たち教員の間からも人気があり、実は昨年の生徒会選挙で「町田さんは出ないのかな」そんな話題が持ちきりになることがありました。

 皆さん生徒の間でも、男女問わず、人気のある人でしたね。女の子なんか毎日、誰かしら町田さんのところにいて、休み時間なんかは町田さんが見えなくなるぐらいの女の子が集まってましたね。いつも謙虚で明るいので、嫌いな人はいなかったんじゃないかな。

 成績も優秀な子でした。本人からあまり聞いたことがなかったでしょうが、町田さんの成績は、学年トップでした。ほぼ全ての教科で五を獲得していましたし、県内で一番賢いあの高校も余裕で合格出来る、だから、かなり頭の良い子でした。正直、先生の僕でも嫉妬してしまうぐらいの成績とテストの点でしたしね。

 町田さんと会えるのが当たり前、町田さんと一緒に笑ったり、怒ったり、泣いたり出来るのが当たり前……。みんなそう思っていたはずです。僕もその一人でした。

 ……あの日、町田さんはいつもように部室の掃除を済ませた後、自転車に乗り、自宅へと向かっていました。帰路はいつも利用していたという道です。その時は、雨上がりだったので、地面にはたくさんの水溜りがありました。

 町田さんは自転車を漕いでいました。自宅まで約200メートルの所まで来た時、自転車のタイヤがスリップしました。その影響で自転車は、横転。町田さんは転倒してしました。そこに運が悪く……、その表現は不適切かもしれませんね。通りがかった車があって、それが転倒した町田さんに気付くのに遅れ……。

 すぐに病院に運ばれましたが、結果は虚しくみんなの知ってるように、町田ゆうかさんは短い生涯で旅立ってしまいました。

 みなさんは、「大切な仲間を亡くす」という体験は生まれて初めてのことだったでしょう。仲間を亡くすことは非常に辛く、悲しく、涙が出ます。葵さん、深月さん、大丈夫ですか。す、少し落ち着きましょう。二人の気持ちは分かります。僕も気持ちを緩ませれば、涙を流してしまう状況で喋っています。

 辛いことは乗り越えなければいけません。しかし、みなさんはまだ十五歳。大人に近付いているとはいえ、そんなことは簡単ではないはずです。葵さん、深月さん、二人は幼稚園の頃から町田さんと一緒でしたね。幼馴染を亡くすのはとても辛いことですね。

 みなさんに出来ることはなんなのか。それは町田さんのことを忘れないことです。町田さんのことは絶対に忘れないでください。僕も忘れません。

 チャイムが鳴ってしまいました。みんな、夏休みは本当に気をつけて過ごしてください。


 それでは挨拶します。–––––さようなら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る