第27話 元カノの悪あがきキス

「……た、たかが手繋ぎで馬鹿馬鹿しい。あーもう! こんなところで妹と言い争いしても何っんにもならない!!」


 滅茶苦茶動揺しまくってるぞ。余裕も無いしマウントも取れないなんて、元カノの末路はこんななのか。


 諦めの悪さにしても呆れてしまうぞ。


「カズキ。行こ?」

「ど、どこへ?」

「わたしたちのお家」


 このまま放置してたら麗香はついて来るんじゃ? 


「和希、どこに行くつもり?」

 

 やはりそう聞いて来るか。往生際が悪いというかなんというか……。

 俺が帰る場所なんてネカフェか、唯花の部屋の二択しか無いわけで。


「どこって、いつも寝てる部屋……」

「私も行くし」


 何でついて来ようとするんだ。

 ……参ったな。


「何でそうなるんだよ」


 ここまでしぶといとはな。こうなれば、唯花……。

 そう思って唯花にアイコンタクトしたが、俺よりも唯花の動きの方が素早かった。


「――もういい加減諦めてもらいたいんですけど? あなたがどんなに言っても、もうカズキはあなたに振り向くことはあり得ませんから!」


 おおお……キレたか。しつこすぎるしそうなるよな。

 妹がここまで本気で怒ったら、さすがに分かってくれよと言いたい。

 

「私に振り向かないってことは、唯花には振り向くってこと? 付き合ってもいないくせに偉そうに!!」


「……ああーもう面倒くさい。この際だから言うけど、カズキはわたしと付き合ってるし、付き合ってくれるって言われたから一緒に住んでるので! 今さら帰って来たって、カズキはもうわたしに夢中だしもう遅いです!!」


 あれっ? 付き合ってたっけ? 青春には付き合うと言ったけど、いわゆる彼氏彼女という関係にはなってないような……。


 何か色々端折られたような。唯花に夢中……夢中というか唯花に集中しないと痛い目に遭うし、間違ってはいない。


「和希君……ほ、本当に妹の唯花と付き合って……るってこと?」


 ずっと疑っていたのか。どうやら唯花の冗談だと思っていたみたいだな。


「(青春には)付き合ってる。放っておけないし、俺が世話しないと心配だから」

「ヤー! カズキ!」

「おぉ」


 バチーン! と音を立てて思わずハイタッチ。


 唯花の機嫌が回復したようで何よりだ。

 あとは元カノ……麗香だけだな。


「とにかく、そういうことだから麗香は――うっ!?」


 一瞬何が起きたか分からなかった。唯花が間近にいたことで安心しきっていたところに、まさかの不意打ちキス。さすがに防御不可すぎた。


 唇の感触なんてのは感じる余裕も無かった。


「……んっ! お預けのキスしてあげたよ? これからキス以上のこともしてあげるし、唯花の悪ふざけなんかに付き合うのやめてよりを戻そうよ」


 結局のところ、自分勝手に俺を追い出したくせに別れたつもりは無かったわけか。やられたこっちの気持ちなんて何も分かってないのに、往生際が悪すぎるだろ。


 こんなことされても俺の気持ちはすでに――

 そう思っていたら、唯花から意外な言葉が飛び出した。


「カズキ、麗香のところに戻る……?」

「えっ……な、何でそんなことを言うんだ」

「だってお預けされてたキスをされて顔、赤いよ。本当はキスされるのを待ってたんじゃないの? カズキはどうしたい?」


 唯花の言葉を聞いて、麗香は早くも余裕ぶった態度を見せ始めている。さっきまでの強気で自信満々な唯花はどこへ行った。


 顔が赤くなるのは自然現象だし仕方ないだろ……。むぅぅ。

 どうしたい……って言われてもな。


「和希君。ほら、早く。マンションの部屋は無理でも、とりあえず佐倉家に帰れば良くない?」


 今までまともに佐倉家にお邪魔したことが無いのに、ここまでマウントを取れるのか。駄目だ、このままじゃ……このままじゃ唯花の方から離れて行ってしまう。


 青春に付き合う……いや、もうそれ以上のことをするしかない。

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