憎悪
壮絶な
彼女はそう思った。
それが表情に出てたのか、幸恵は言った。
「なんだか、自分なんかただの自業自得で恥ずかしいって感じの顔ね」
見事に図星を突かれて、今度はギョッとした表情になってしまった。すると幸恵はふっと優しく微笑んだ。
「そんなこと、気にしなくていいのよ。あなたは確かに愚かなことをしたのかもしれないけど、本来なら大人はそれをたしなめなきゃいけないのよ。なのに、あなたの愚かさに付け入って自分の欲望を果たそうとするなんて、そんなの、レイプ犯となにも違わない。だから、未成年の子を相手に買春するのはより厳しく対処されるの。
未熟で人生経験も少ない子供が判断を誤るのなんて当たり前よ。誰だってやらかしちゃったことの一つや二つはあるでしょう? あなたの場合はたまたまその結果がちょっと重大だっただけ。大人があなたを買わなければ、こんなことにはならなかった。あなたよりも人生経験を積んでる筈の大人がね。
自分の責任を理解してない大人なんて、ただの害悪よ……!」
そう言った幸恵の目には、ほの暗い感情が渦巻いているようにも見えた。それは、憎悪だった。自動車を運転できるくらいの大人だった筈のレイプ犯達に対する明らかな憎悪だった。自分の欲望の為に他人を蹂躙する大人への、激しい憎悪がそこには込められていた。
だが、それはすぐに影を潜めた。再び好羽の目を見た彼女には、いつもの笑顔が戻っていた。幸恵は、自らに降りかかった悪夢と折り合いを付けられるようになっていたからだ。そして彼女を苦しめたレイプ犯は、その後、余罪も含めて追及されて、全員、刑務所に収監されている。彼女の事件から五年後のことだった。常習性を重視されて、二十年から二十五年の実刑を受けて現在も服役中だ。何度か仮出所が検討されたが、反省が足りず再犯の恐れありとしてことごとく却下されている。
それでもなお、幸恵の中には彼らへの憎悪が揺らいでいる。そしてそれは、生涯消えることはないだろう。犯罪被害というのは、そういうものだ。時間が経てば必ず薄れるというものではない。
だからこそ幸恵は、『自分は他人を蔑ろにして傷付けて苦しめて蹂躙するような大人にはなりたくない』と思った。そして必死に勉強し、医師となった。
メイドのような恰好をしてはいたが、彼女はれっきとした産婦人科の医師であった。
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