十三歳の出産
『私だって十三で産んだんだもの』
その言葉を耳にして、
「私もね、あなたと同じように誰かもよく分からない相手の子供を産んだの。私の場合は、レイプだったけど……」
「レ、レイプ…!?」
思いがけない告白に、体を起こそうとしたけれど、思うように起こせなくて「無理しないで」と幸恵にたしなめられてしまった。
改めて横になった好羽の体をさすりながら、幸恵は言った。
「部活で遅くなった帰りにね。堤防の上を一人で歩いてたら、ワゴン車が近付いてきて、そこに引きずりこまれて……
まあ、それから先はご想像の通りよ。解放はされたけど、私はそのことを誰にも相談できなかった。両親にも。そんなこと相談したって、あの人達はオロオロするだけだって分かってたし。当時は『親を心配させたくない』って思ってたりもしたけど、それって結局、信用できてなかったってだけなのよね。
それで、妊娠したことにも気付いたけどそれもやっぱり相談できなくて、でもお腹が大きくなってきたらさすがにバレてしまって。
両親は案の定、『どうして黙ってたの!?』とか『相手は誰なんだ!?』って騒ぐばっかりで具体的には何もしてくれなかった。もちろん相談しなかった私も悪いんだけど、相談したところでただ騒ぐだけなのが分かってたら、相談なんてしたくなくなるよね。実際、その後、両親は父と母とでお互いに『どっちの躾が悪い』ってことでケンカするばかりで、私のことなんかそっちのけだった。
だから私も家出したの。そこを、あなたが連絡を取ったところに拾われた。あなたと同じように保護されて、子供を産んだ。
でも、私をレイプした連中の赤ちゃんなんて、愛せなかった……
そんな訳で、その子は引き取られて施設で保護されて、今は養親の下で大学に通って医師を目指してるそうよ。
不思議よね。レイプ犯の子供がそんな立派な人になれるのよ?
それで私も知ったの。どんな人間に育つかなんて、結局は環境次第なんだなって。
まあ、最近はいろいろ不祥事もニュースになってるから医師を目指してるってだけじゃ立派かどうか分からないけど、だけど<彼>は、本当に立派なのよ。養親のことも大切にしてて、血の繋がらない兄弟とも上手くやれてて、自分が<捨て子>だったことを知っても、折れず曲がらず歪まず真っ直ぐに育ってくれてる……
だからね、私、両親に相談しなかったことを後悔はしてない。だって相談してたら間違いなくあの子は殺されたもの……
人生って、本当に皮肉よね……」
そう語った幸恵の両目からは、とめどもなく涙が溢れていたのだった。
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