TSっ娘ちゃんと親友くん

海里 燦

TSっ娘と親友のある日の放課後

「胸を触らせてくれ」


 ある日、親友の鹿野 伊月の部屋に入るなり、伊月から脈絡なくそう言われたオレは、かばんからスマホを取り出して電話をかけるフリをする。


「あのー? 朝陽さん、どちらにお電話をかけているのでしょうか?」


 伊月の質問をスルーしながら続ける。


「もしもし警察ですか? 男子高校生の家に連れ込まれて卑猥な行為をされそうになっているのですが」

「ごめんなさい、それだけは勘弁してください」 


 分かったならよし。

 当然冗談だと伊月に伝えてスマホを耳元から離す。


「あのさ、たとえオレが元男とはいえ、仮にも外見は現役女子高生の姿をしてる相手に対してそういう事を言わない方がいいぞ?」

「俺と朝陽の仲じゃなかったら言わねえよ」


 そう言いながら伊月が自分の椅子に座ったので、オレもこの部屋での定位置である伊月のベッドにどかっと座ろ……うとして思いとどまり、手でスカートを伸ばしながら丁寧に腰を下ろした。

 シワができてるのを母さんに知られるとうるさく言われるからね。


 そう、オレこと七海 朝陽は半年くらい前まで健全に男子高校生をしていたのだが、いきなり倒れて一週間くらい寝込み、次に意識を取り戻した時には女子高生へジョブチェンジを果たしていた。

 その後、当然最初はなんやかんやあったけど、伊月の助けもあって今でも元の学校でいじめられることもなく平穏に毎日をすごせていて、あまり表面には出さないが伊月にはとても感謝しているのだ。

 何回かそれとなくお礼としてのプレゼントを贈ろうとしたのに「これくらい当然だろう?」と言って受け取ろうとしないのだ。

 ……まぁ、お礼だけではなく、その他の気持ちも入っているので、何としても受け取ってほしいんだけど。


「で、なんでいきなり胸を触りたいだなんて言ったの?」

「それはだな……」


 と喋り出した内容を纏めると、伊月が仲良くしてる男子グループ内で触ったことがあるだのないだのという話題になったのが始まりで、伊月以外は彼女がいたり、それに近い関係のお相手がいて、まぁそういう事らしい。

 なんか他人行儀になってるけど、その男子グループはオレが男だった時はオレも入ってたし、今でも普通に仲はいい。

 さらに言えば、伊月は恋愛事には役に立たないので知らないと思うが、そいつらの仲を取り持ったのも実はオレである。

 集団に受け入れられた元男子の現女子というのはうまく利用されてキューピッドや架け橋になったりするのである。


 でだ、恋愛事に役に立たない伊月ではあるが、男子高校生というだけその辺りはしっかり興味があったようで例の発言が出たと。

 あのさ、順番がおかしいでしょうに。だから顔は悪くないのにいつまで経っても彼女が出来ないんだよ。

 ……それがオレにとっては助かっていたりもするし、周りももう分かっているから伊月を狙ってる女子もいないっぽいけど。


「経緯は分かったけど、いくらオレでも触らせる訳ないし、こんな大した事ないの触っても面白くないでしょ?」

「言ってみないとわからないだろ? そ、それに、あ、朝陽の……朝陽くらいのが俺の好みなんだよ」


 自分で大した事ないって言って悲しくなったけど、そっか、オレくらいのが好きなのか……って、あれ?


「お前、オレが男の時にそういう話になった時は巨乳の方が好きだって言ってなかったっけ?」

「え? いや、そ、そんな事言ってねえし! 朝陽の記憶違いじゃないのか?」


 誤魔化そうとしてるって事は図星か、やっぱり大きい方がいいんじゃないか。


「わかったわかった、オレも男だったから伊月の言いたい事は分かるよ、大きさに関わらず胸を触りたいのは男なら誰でもそうだよな」

「違うって! いや、違くないけど、そうじゃないんだって!」

「ちょっと何が言いたいのかわからないです」


 男なら触りたいだろうに、オレも触りたかったよ、うん。

 別の形で好きな時に触れるようにはなったけど。


「……すまん、あまり説明したくないので流してくれないか?」

「わかった、どうせ大した事ないんでしょ? いいっていいって」


 ひょっとしたら触らせてくれそうなやつが身近にいるから誘ってみたくらいの事でしょ、きっと。


「……で、話を戻すと、要は伊月がやった事ない事を自慢されて悔しかったってだけでしょ?」


 ごほんと咳払いをして、少し気まずくなったように感じる空気を破るようにオレは言う。


「それだけではないけど、間違ってもないな」

「素直じゃないなぁ」

「うっせ」


 素直じゃないのはオレも同じだけど。女子は秘密があるとより魅力的って女子が言ってたから許されるという事で。


「ともかく、そういう事なら話は簡単だ。あいつらがやってなさそうな事をやればいい」

「なるほど。つまり、せ」

「そっから先言ったら、今度こそマジで通報するからね?」


 ジト目で見ながら指摘するが、冗談だって、と伊月が軽く返す。

 冗談でも今のは越えたらいけないラインがあるのを分かってほしい……とため息をついていると、伊月が続けて言う。


「で、具体的に何かアイディアとかあるわけ?」

「それがまだ思い付いてないんだよね」


 スキンシップで胸を触られるのと同じくらいレベル、って結構難しい……って、オレが伊月にやってあげるような流れになってないか?

 まぁ、別にいいか、女になって以来、いろいろ助けてもらったお礼という事で。

 うーん、される側じゃなくてする側の方がいいよね、何かされそうになったらこっちから止められるし。


「そうだな、腕に抱きついてみるとかどうよ」

「それは別のやつがやってもらったと聞いたな」

「ダメかぁ」


 ふぅ、と息を吐いて体を後ろに倒してぽすん、とベッドに寝転がると、ふと伊月と一緒にベッドに寝転って添い寝という案が浮かんで来た。

 いや、冷静になれオレ。添い寝とか一歩間違えればそのままあんな事やこんな事に一直線だろうに。

 うーん、他に使えそうな物ないかと辺りを見回すと視界に入ってくるのは目覚まし時計、掛け布団、枕……そうか、枕か!


「なぁ、膝枕はどう? 柔らかさを味わうって点では似てるだろ?」


 ベッドから起き上がり、伊月に提案する。


「膝枕をされたって話を聞いた事はないし、俺はやってもらう立場だから問題ないが……朝陽はいいのか?」

「オレにとってもちょうどいい機会だし、気にしないでいいよ。あ、でも、うつ伏せになるのは禁止な!」

「膝枕をするのがちょうどいい機会ってどういう……」


 いっけね、口が滑った。


「……伊月に貸しを作っておくとか?」

「なんで疑問系なんだよ」

「ぅ~~~!!! いいから、女子がいいって言ってる時はつべこべ言わずに素直に甘えるのが男ってもんでしょ!」

「おかしいな、視覚情報だけで言えば女子から男を説かれてるんだけど」


 元男だしおかしくないですー、と言いながら寝転がって少し乱れたスカートを直す。

 そういえば、起き上がる時にちょっと勢い付けたけどスカートの中見えてなかったよね? などと考えていたら思考が表情に出ていたのか伊月から声をかけられる。


「どうした、少し顔が赤いぞ? もしかして膝枕するの恥ずかしいのか?」


 膝枕のことで恥ずかしがってたわけじゃないけど、改めて言われると膝枕も相当に恥ずかしい行為だと認識させられる。

 顔を上げて伊月の方を見る。なんだ、伊月も顔が少し赤くなっているじゃん。


「お前の方こそ顔が赤いけど、実は恥ずかしいんじゃないか? お互い様だよ、お互い様」

「確かに恥ずかしいが、そんなに恥ずかしいと思ってるなら止めたって俺は文句は言わんぞ?」 

「男に二言はない」


 今は女だけど。


「男になったり女になったり安定しないな」

「男の気持ちがわかる系女子として有名なので」

「本当にわかってるのかよ……」


 なんか呆れられたような気がする。気のせいだ気のせい。

 

 そっち行くぞ、と言って伊月が一人分の間隔を空けてベッドに座る。そのままこっちに倒れてきたらちょうど頭がオレの膝に乗っかりそうな位置だ。

 あぁ、本当に始めるんだ、膝枕。アイディア出したのはオレだけど。


「どうでもいいが、膝枕って言うけど、実際頭が乗ってるのって大体ふとももの辺りじゃないか?」


 ベッドに座っているオレの脚と横になる伊月の身体が垂直になるから、今のままだと伊月の頭がふとももに乗るよな。


「変な事言ってまた引き延ばそうとしてる?」

「そんなつもりはなかったけど」


 オレの疑問を軽く流しつつベッドの上に足を乗せる伊月。

 なんかすっごくドキドキしてきた。


「よし。じゃ……行くぞ?」

「……いいよ、来て」


 なんだか別の事が始まりそうな感じになっちゃったが、伊月は気にしていないようで、やっぱり膝ではなくふとももの辺りにゆっくりと頭を乗せた。


「ん……頭って結構重いんだな、想像よりもちょっとキツいかも。それに、お前の髪がスカートを貫通して少しチクチクするんだけど」

「キツいのか、このまま続けて大丈夫か?」

「大丈夫だけど、もうちょっと頭を乗せてくれた方が重さのバランス的に楽になるかも」


 了解、と言いつつ、伊月がもぞもぞと体勢を変える。

 ひぃ、動かれるといっそうと髪がチクチクする!


「あ、そこなら安定してて大丈夫そう」

「それなら良かったわ」

「じゃあ、そこから頭動かさないでね? 動かれると髪もチクチクするし」

「無茶言うなよ」

「してもらってる立場なのに文句があるんですかー? オレとしては伊月の頭を落とすつもりでこのまま立ち上がったっていいんですよー?」

「失礼しました、なるべく動かないようにします」


 うむ、分かればいいんだ、分かれば。

 そのままオレの膝枕を堪能するがいい!

 

 なんて思っていたが、1分くらい過ぎたあたりですごく恥ずかしくなってきてしまった。だって、伊月も仰向けで寝っ転がった結果、目線を横にずらしたりはしてるけど、基本的にこっちを見ている状況だし、オレも目線を下げると伊月と目が合う状況なのだ。こんなにじっと見られると、なんだかドキドキしてきてしまうじゃないか。

 もう少し胸があれば顔が見えなかったりしたのかな、なんて考えが頭に浮かぶが、無い物ねだりだから仕方ない。


「それで、どうだ、オレの膝枕は? 感想を教えたまえ」

「あぁ……えーっと、顔がよく見える」


 ……顔がよく見える?

 確かにオレからも伊月の顔がよく見える。障害物がないから。なるほどね?


「つまり、君は暗に胸が小さいと言ってるのか? ん? その喧嘩買うぞ?」

「ちがっ、そうじゃない! 勘違いすんな!」

「何が違うって? ええ、どうせひんにゅーですよ! ぎりぎりBカップですとも!」


 毎日豆乳を飲んでる成果がようやく最近出てきたんだよ!……って、やば、勢いでとんでもない事を言っちゃった。

 伊月もなんとも言えない表情をしている。


「……ちょっと待って今のなし、聞かなかったことにしてくれると嬉しいですのけれども」

「どうせ聞き入れないと俺の頭が落ちるんだろ?」

「実際にやって思ったけど、この状態オレが立ち上がるの無理っぽいんだよね。だからオレが横にシュッとスライドしてお前の首が急にガクッとなる方向でいきます」

「動きそうな力の入れ方とかで多分対応できるとは思うけど、できなかったら首を痛めそうだからマジで勘弁な?」


 一応の恐怖心を伊月に与えたところで、落ち着いて事情聴取を行う。


「で、さっきそうじゃないって言ってたけど、今度のそうじゃないは一体どういう事なんだ?」

「言葉通りの意味だよ。ドキドキしてるのと顔を下から見上げるのが新鮮だったのもあってそのままの感想が口から出た」

「なんだよそれ、こっちがただ自爆しただけじゃん」


 ちょうど顔がよく見えるとか胸の大きさの事とかって考えていたからか、思考がそっち方面に向かっちゃった。反省反省。


「朝陽、最近勢いに任せて発言してるように感じる時があるから気をつけろよ?」

「反省してるよ……なんていうかな、どうもたまに感情的になっちゃってよく考えないというか、思い込みしてそのまま喋っちゃうんだよね」


 オレのその言葉に複雑そうな表情をして黙り込む伊月。

 ……良くない雰囲気になっちゃったな、今のが伊月の何かのスイッチを押しちゃったのだろうか。せっかくの機会なんだからもっと膝枕の方を堪能してほしいんだけど。


「で、さ。視覚からの感想だけじゃなくて他はどう?……主に触覚とか」


 思考を切り替えて貰うべく伊月に話しかける。

 伊月がふぅ、と息を吐く。どうやら作戦は成功したようだ。


「……言わなきゃダメか?」

「そりゃあ、男子グループで変な事を言われる前に訂正できるところは訂正しておきたいよね。あとは……後学のために、みたいな?」

「後学って、他に膝枕やってあげる相手なんているのか?」


 伊月から逃げるように顔を上げて答える。


「……いるよ、やってあげたい相手。何回でもやってあげたい」


 そう言ってから顔を下ろして伊月を見ると、嘘だろ信じられない、というような表情をしていた。失敬な、誰にでも慈愛の心を持って接したい相手くらいいるでしょうに。


「なんでそんな表情してるの、まだ誰かも言ってないのに。もしかして……嫉妬してる?」

「し、嫉妬なんかしてねえし。ただ、朝陽と長年つるんでるのに知らない事もあるんだなって思っただけだよ」

「……いやいや、否定されてもさっきの表情見ちゃったら全然説得力ないって。素直になっちゃいなよ」

「ノーコメント」


 それはもう認めているようなものでしょ、と思ったけど、伊月のプライドを尊重して口には出さなかった。男の気持ちを尊重できるオレっていいやつだな。自画自賛。


 ちょっと体勢変えるぞ、と言ってからこっちの返事も聞かずに仰向けから逃げるように横向きになってベッドの外側を見る体勢になる伊月。ちょっと頭を上げてくれたので、オレのふとももはチクチクせずにすんだ。

 うーん、顔がよく見えなくなっちゃったし。からかうのはこれくらいにしますかね。


「いやー、うちの猫様に嫉妬するなんて、お前もかわいいところあるな」

「は? 猫?」

「そう、猫。もう毎日でも膝枕してあげたいよね。」

「そういえばお前の家で飼ってたっけか」

「女になってからもうずっと何か探ってるような様子で近付いてきてくれないんだよね、ちょーショックだよ。また猫吸いしたいにゃ~」


 あざとく猫の手を作って顔の横に添えてみた。

 って、また恥ずかしい事してるわオレ。でも、それだけ猫様がかわいいし、何より伊月からは見えていないはずなので、これはセーフにしておこう。

 小声で「にゃーっておい……」と聞こえた気がするけどセーフです。


「お前の家の猫、警戒心が強いっぽいしな。何回もお前の家に行ってる俺も触った事ないし」

「そうなんだよね、またもふもふできる日が待ち遠しいな」


 外見が男の時からすごい変わったから別人だと思われてるんだろうなぁ、身長とか20cmくらい下がったし。この身体になった時は歩幅とかバランスが狂って大変だったな。

 なんてしみじみと思い返していたが、猫に話が逸れて聞きたかった事が聞けていないのを思い出した。


「それで、膝枕の触覚的な感想はどうなんだよ?」

「覚えてたか。うまく逃げられたと思ったんだけどな」

「ちゃんと言うまで膝枕続けるからな?」

「それって罰になるのか?……なるな、家族に見られたら恥ずかしくて死にそうだ」


 いや、さすがにそこまで続けるつもりはないけど。


「じゃ、素直な感想を言うけど……怒るなよ?」

「あまりにひどい内容だったら守れないかもしれない」

「よし、せめて俺の話を全部聞いてからリアクションをしてくれ」

「それなら大丈夫だと思う」


 一応気持ちを落ち着けるために深呼吸をしよう。

 すー、はー、すー、はー。よし。


「想像していたよりは硬いと思ったけど」


 すぅぅっぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁぁぁ。

 大丈夫、マイナスな事を言われてるけど深呼吸続けてるから大丈夫。

 ここで怒っちゃいけない。それに「けど」って言ってるし、ここから上げてくるに違いない。


「それでも十分柔らかい。ただ柔らかいだけじゃなくて柔らかさと硬さのバランスがちょうどいいと思う」


 ほらそうだ、落としてから上げてくるなんてなかなかやるじゃん。頑張って口を挟まなかった甲斐があったよ。


「高さも俺好みで、このまま寝られるかもしれないな」


 すごく誉めてくれるじゃん、なんかドキドキしてきたぞ。


「制服越しに感じる体温も安心感がある、膝枕ってこんなにいい物だったんだな。またやってほしいくらいだよ」

「あの、ちょ、もう許してあげるのでそれくらいで止めてほしいのですが、というかなんか体温の事とか言われるとフェチ感がすごい」

「まだ膝枕して貰いながら朝陽の顔を見た時の……」


 やめてって言ったのに続けようとしないでくれ。


「もう十分なので、少し静かにしてて……! あとそのまま横向いてて、しばらくこっち見ないで……!」

「最初に言えと言ったのは朝陽なのに」

「うっさい」


 文句は言いつつも従ってくれるらしい。

 こっちを見てほしくないのは、今は間違いなく顔が赤いから。

 最初は渋ってたのに、聞いてるのが恥ずかしくなるほどの感想が出てくるとは思わなかった。

 また深呼吸をしよう。心を落ち着ける為というのは変わらないのに、その原因はさっきと全然違う。恥ずかしいのも大きいけど、嬉しく感じているのもまた事実でもある。

 オレの膝枕で寝られるかもしれない、だって。それだけ気持ちいいって事だよね、えへ、えへへ……。


 などと浮かれながらも、目を閉じてしばらくゆっくりと呼吸を続けて、ドキドキが収まってきた頃、オレ以外の呼吸音が大きく聞こえてきた。

 疑問に思って目を開けて伊月を見ると、規則正しい寝息をたてているではないか。確かに寝られるかもしれないとは言ってたけど、あっという間に寝ちゃうとは思わなかった。


「おーい、寝ちゃったのかー?」


 小声で聞いて見る。反応はなし。

 追加で「ねーぇ? 起きてるー?」と呼び掛けながら、伊月のほっぺたを指でツンツンとつついてみるが、やはり反応がない。

 無意識に伊月の腕に手が伸びたので、そのまま優しく手を置くと、こんな状態でもわかるくらいにがっちりとしている。当然だけど、女になって全体的に小さくなって丸みを帯びてしまったオレとは大違いだ。


 背中も大きく感じる。感じるというか、実際大きいんだけど。

 女になった頃は何かあるとすぐに助けてくれて、そのたびに伊月の背中を見てた気がする。身長が小さくなって高い位置の物が取れなかった時。一部の同級生から露骨に嫌悪感を向けられていた時。

 他にもたくさんあるけど、助けてくれた時は守られる立場になったという悔しさと、守ってくれたという嬉しさで複雑な気持ちだったっけ……最初は。

 いつの間にか嬉しさの方が大きくなって、それでいつの間にか友達としての好きから、異性としての好きになっちゃった。


 今はまだお前から拒否されるかもって気持ちが強くて、踏み出せないけど、いつか覚悟ができたら、その時は――


「オレの中のわたしを受け入れてくれたら嬉しいな」


その後、オレがお花を摘みに行きたくなるまで膝枕は続くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る