狒狒の銀残雪~213~

@gurennsutera13100512

動乱の幕開け

分厚い防護服を着た数人がゲートの前に待機していた。




幾重にも張り巡らされた結界や鉄線、ゲートが人の流入を防いでいる。




辺りの人間は慌ただしく動き、事態が深刻だという事がうかがえ、怒号や何かを指示する声、作業音が鳴り響き騒然としている。




「許可下りたの?」




先週、11月15日に起こった実験中の事故、その爆心地に調査命令を下され、派遣されることとなった部隊


通称”アルビオレ”その隊長、ネビュラがたった今上からの現状報告を伝達しに来た部下に問う。




「はっ!!、いいえ、現在汚染状況を確認中の為、ゲートを開くことが出来ないとの事。」




かれこれ、ネビュラは小一時間は待たされている。こんな分厚い防護服をまとって、だ。体力的には問題は無いのだが、如何せん、精神的に参ってしまう。




元々、アルビオレは調査任務といった外れ仕事が回って来ることは基本的に無い。


戦力過剰であるし、様々な理由でそのように扱って良い部隊ではない。


にもかかわらず今回配役されたのは上にもどうしようもない状況で早急かつ、確実に対処したいがためだろう。




そのことが尚更影響してしまっている。


色々言い訳を考えたが、端的に言うとめんどくさい。その一言に尽きる。




「んー、じゃあ一旦解散、再集合はまた連絡する。」




「ちょっ!!、待ってくださいよ!何度も伝えた通り。待機が正式に命令されているんですよ!?


今回ばかりは耐えてください!!」




副隊長であるアデンがネビュラを制止する。




「それ、さっきも聞いた。、気に入らない事は受け付けない主義なの。分かったらさっさと解散。」




「いやいやいや!!!。今回ばかりはダメですって! 地区連軍ならまだしも、統首亞連じきじきの命令ですよ!?。もしかしなくても事態が落ち着いた後に軍法会議に掛けられますよ!!!?」




必死にネビュラを説得しようと言葉を並べる。が、アデンは心の中では既に諦めを付けている。


こうなると彼女は梃子でも動かない事をよく知っていた。




一度でもネビュラが意見を覆したのが奇跡のようなもので、かなりの衝撃を受け、もう一度と制止しようとしたが二度目はないようだ。




ネビュラは間違えない、常に状況を完璧に把握し部隊を今日まで一人も欠けることなく運用しており、


そこには確固たる信頼がある。




が、しかし戦闘面においてはそうであっても、日常的な彼女の選択は彼女の奔放な性格が全面に出ているため協調性に欠ける部分が目立つ。


その軋轢を埋めるのがいつからか、自分の仕事だと自任するようになった。




たとえお節介だとしても、意見が取り入れられることが無くても、誰かがその役割を担うべきであろう。




「問題ないよ。じゃ、ヨロシク。」




そう言ってネビュラは防護服を着たまま人込みの中に消えていった。




この人だかりだ見つけるのは不可能であろう。それにアルビオレがこの仮駐屯基地に到着してから数日しか経っていない。




この基地の配置もまだ覚えきれていない身で探しに行っても迷子が一人増えるだけだ。


仮の基地にしてはいささか大きすぎる。




「ドンマイです。副隊長!! 」




「いつものことだろ? 気にすんなよアデン。」




「がんばれー」




口々に慰めの言葉がかけられる。




恒例行事になりつつあるな。と受け止めながら部隊に指示を下す。




「お前ら、、、、。はぁ、いつもの事か、、、、。」




気を取り直して改めて命令する。




「よし、名言はされてないが部隊の指揮権をネビュラ隊長から受け継いだと解釈する。」




「異論は?」




「、、、、、、、、、、、無い様なので、続けさせてもらう。」




「見ての通り、隊長は失踪なされたが、我々はそうもいかない。命令が下されている以上、待機は絶対だ。よって大半はここで待機してもらう。」




「「はっ!!」」




「チャヤ、ダリン、スカイラ、ザカリーは私に着いてこい。」




「コロ。部隊の指揮を頼む。」




「クララとキャシーはその支援。その他は元の己の職務を全うせよ。基本的に隊長が戻ってくるまでは部隊を動かすな。」




「その他諸々は柔軟に対応すること。以上。」




「「はっ!!」」




基本的な対応を終え、目線で呼んだメンバーを誘導する。




部隊を離れ、人目のつきにくい建物と建物の間の細い路地に移動する。聞かれても問題は無い内容ではあるが、念のため耳がない場所に移動する判断だ。




恐らくではあるが、今回の件は少々厄介な部類に入るモノだ。迅速でない対応、どこの指揮系統に属するのかもわからない多数の兵、とど繰り返される命令変更の指令。




それ以上にこれまでの経験が警鐘を鳴らしている。




関わってはいけない部類の事件だと。




まず間違いなく上が揉めている。それも相当の高官だ。ここまで現場の作戦に介入できるのはそういない。




それに、まだ統首亞連内部の対立なら許容出来るが最悪のケースはこの政府直属第4隔離地域を共同管理しているメーデイ地区連軍と統首亞連の対立だった場合か。




どちらかの意思によって捨て駒にされかねない。派閥争いで摺りつぶされるなどたまったものではないし遠慮願いたい。




良い機会だこの時間を利用して”対人用”の兵器を充実させておくのも良いかもしれない。




2日前より調達は進めていたが強奪することも視野に入れておくべきであろう。




「よし、分かっていると思うが引き続きチャヤとスカイラーは調査を頼む。この事件は相当怪しい。


出来うる限りの情報を持ち帰ってくれ、勿論。いかなる手段を用いても、だ。」




「あぁ、異論はねぇが、これ以上情報が集まるとも思えねぇぜ??。」




「それでも、だ。、、、、、、、、、、、、チャヤは何かあるか?」




「無いから黙ってるんです。早くしやがれです。」




「あっあぁ。そうか、、、、、。」




「です。」




どうやら機嫌が悪いらしい。が、支障は無いだろう。その程度の人間ではない。




咳払いをして、調子を取りもどす。




「ダリン、ザカリーは私に着いてこい。威力偵察と行こうじゃないか。」




口に笑みを浮かべながら悪・だ・く・み・を伝える。




「了解!!。」




ダリンとカリザーも釣られたようにニヤリと笑い快諾する。




チャヤは肩をすくめ呆れたように笑い、スカイラー苦笑いを浮べる




障壁があるのならば切り開くのみ、俺達が通ったあとが道だ。勝利への道だと。そう確信している

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