第79話 今回のチャンピオンは……

 そしてプレイヤーは順調に減っていって、残りは四人だけになった。何を隠そう、残りのプレイヤーは生徒会クランの三人と我らが藤野ちゃん、ただ一人である。


『ちょ、ちょっと!! 神谷君!! このままずっと隠れてる訳にもいかないよ!! 早く指示を出して!!』


 藤野ちゃんは焦ったように俺に助けを求めてくる。次第に迫って来る安置の壁をマップで見ていれば、そうなるのも当然なのかもしれないな。


「うん、分かった。それじゃあ隠れるのを止めて、噴水のある方に行こうか」


 そしたら藤野ちゃんは、期待通りのリアクションをしてくれて。


『えっ、ええっ!? そんな見渡しの良い場所に行ったら、敵に撃たれちゃうよ! ハチの巣になっちゃうよ!!』


「かもね。でも奴らは勝ちを確信して油断している。それに今、この試合は生配信中で大量の生徒が同時視聴しているんだ。だから……」


『だから……?』


「奴らは絶対に格好つける」


『……え?』


「きっと奴らは会話に付き合ってくれる……要するに『最後に言い残したことはあるか?』的な展開になるはずだ!」


 この圧倒的有利な状況、そして大量の同時視聴者。この場面、生徒会クランは自分達の強さをアピールするチャンスの場として活用するに違いないだろう。


 まぁもしも久之池がこの場に居たら、俺はまた違った指示を出しただろうが……あの身体能力だけで選んだような生徒会のメンバーを見れば、きっと予想通りの動きをしてくれるだろうな。


『そっ、そんな不確定要素のある作戦なの?』


 だけど藤野ちゃんはあまり納得してくれなかったみたいだ。まぁ藤野ちゃんからすれば敵の姿なんか見えていないし、俺の意図も全ては伝わっていないだろうからな……それならば。


「じゃあ持ってる武器を全部置いて、手を上げたまま行こう。流石にそれだったら、奴らは無視できないだろうからさ」


『……えっ? でも神谷君、それって……』


「ごめんね、藤野ちゃん。俺だって流石に、それはさせたくないんだけど……確実に敵を油断させるなら、それしか方法はないんだ」


 そしたら藤野ちゃんは一呼吸置いて。


『……それは勝つのに必要なことなんだよね?』


「うん、もちろん。俺の言う通りにすれば絶対に勝てるよ!」


 それを聞いた藤野ちゃんは、途端に安心したような声に変わって。


『分かった。神谷君を信じるよ!』


 そう言って、隠れていた茂みから飛び出したんだ。当然、音が鳴ったので生徒会の連中も藤野ちゃんに気が付いたらしい。


 それで藤野ちゃんは噴水の方に走っている最中に、俺の指示通りに水鉄砲を全て落としてみせたんだ。


 生徒会は困惑を見せつつも、藤野ちゃんの方を追って、三人で藤野ちゃんを取り囲んだ。それと同時にドローンが接近したため、映像からでも会話が聞こえるようになったみたいだ。


「……こいつが神谷の仲間で間違いないんだな?」


「そうみたいですね。そして彼女のこの行動は……降参と見て良さそうです」


「つーか何で水着なんだ……?」


「……」


 藤野ちゃんは三人の言葉に何も言い返さず、噴水をバックに奴らを真剣な眼差しで見つめている。こんな藤野ちゃんの顔は、俺も初めて見た。


「ガハハ、あれだろ? 変態神谷の趣味だろ? クラメンにこんな格好を強要するなんて、よっぽどの変態じゃなきゃできないぜ?」


「ですね。そんな神谷もいつの間にかキルされてて……所詮、我々の敵ではなかったようです。変態で無能な神谷の仲間になったのが、運の尽きですね」


「ああ、会長もそんな警戒する必要なかったンだよ。あんな雑魚の為にあんなにポイント使って……」


「……お喋りが過ぎますよ。これは中継されているんですから」


「あ、そうなのか?」


 生徒会の連中は、会話を続けている。何だか俺のことをボロクソに言ってるみたいなんだけど……ともかく敵を油断させるのには成功したみたいだ。


 ……べ、別に泣いてなんかないんだからね。ホントなんだからね。


「まぁ……少々つまらない最後になったが、これで終わりだ、カワイ子ちゃん。……最後に言いたいことはあるか?」


 そして男の一人が藤野ちゃんに銃を向けて言う……遂に来たな。


「藤野ちゃん。相手の意表を突くんだ」


 俺はそうとだけ言って、後は画面に集中した。奴らの隙を絶対に逃さないように。


「……」


「何だ。何もないならこれでしまい──」


「………………訂正してよ」


「あ?」


「神谷君は……神谷君は無能でも、雑魚でもないんだからあああっ!!!!!」


「……っ!?」


 藤野ちゃんの大声に、敵は怯みを見せた。こんな好機、俺が逃す訳がない。


「よし、今だっ!!! しゃがんで!!!藤野ちゃん!!!!」


 そして俺が言い終わるのとほぼ同時に、噴水の仕掛けが作動し出して……目が痛くなる程の光、爆音の音楽と一緒に、噴水から大量の水が四方八方に勢いよく噴射されていったのだった。


「うがああっ!!!??」


「ああんだよこれぇ!!??」


「ば……馬鹿なあああっ!!!」


 突然の噴水からの噴射に当然、生徒会の連中は避けることも出来ず。頭にあるポイは全て打ち抜かれた。


 それで藤野ちゃんも、この噴水からの噴射で濡れてポイが破れたようだが……しゃがんでいた為にポイが破れたのは、この中で一番最後であった。


 つまり……俺達の勝ちだ。


『ゲーム終了。今回のチャンピオンは、チーム神谷です』


 全員の端末から、ゲーム終了を告げる機械音声が鳴る。そこで藤野ちゃんも自分の勝利に気が付いたらしく、藤野ちゃんは起き上がって……撮影用のドローンに向かって、とびっきりの笑顔でこう言うのだった。


「かっ……勝ったよ!! あははっ! ねぇ、神谷君っ! 私勝てたよっ!!」

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