第12話 2.5次元の美しさだね!

 カメラマンがお店に到着し、撮影用の服を選んでから皆でカメラマンの車に乗って移動した。

「イオン、無理はしないでね…?」

「梨子ちゃんが居るから大丈夫!」

 僕たちの会話を聞いていた前の座席の二人はルームミラーでチラッと見てからため息を吐いた。

「はぁ〜、若いって良いよなぁ。」


 撮影場所についた一行は、僕を残して外に出てしまった。

「イオンくんはこの服に着替えてね。着替えたら出てきて、軽くメイクするから。」

「男なのに化粧するの?」

「写真写りを良くするために必要なことなんだ。…まぁ、君の美貌ならほとんど要らないだろうけどね。」

 店員はニッと笑って車の扉を閉めた。

 用意された服に着替え車から出ると、見たこともない機械や道具が沢山置かれており、何故か人間の数も増えていた。

(何あの光る丸いやつ…。ていうかさっきより人多い!?)

 4人だけで撮影するんだと思っていた僕は急に怖くなってきた。

「あ、君が噂の逸材君だね〜!確かにイッケメン!2.5次元の美しさだね!」

「ちょっと何言ってるかわからない…。」

 消え入りそうな声でなんとか知らない女の人に返した。

「さ、メイクしていきますよ〜!…君まつ毛も白いの!?写真では服目立たせたいし、マスカラで黒くしちゃうね〜。」

 どうやらそのままの僕の顔だと服が顔に負けて目立たないらしい。なるほど、化粧はそういう方法にも使われるのか。

「はいはい、準備できたらさっさと撮り始めますよ〜!彼女さんももう少し下がっててね。」

 カメラマンが僕以外の人間をカメラの後ろに下がらせた。

「山田、レフ板もうちょい角度下げて。」

 山田と呼ばれた青年が、さっきの丸を傾けて光の調整をする。

(…眩しい。)

「はーいイケメン君、眩しいけど我慢ねー。壁に寄りかかって左手首の後、右足は壁を軽く蹴るようにして〜。」

(こう、かな…?)

「いいねー!やっぱ格好良いわ!でも表情硬いね〜。顎引いたまま彼女さんのとこ見よっか。」

(梨子ちゃん…。)

 上手くやれてるかな?僕は人間らしく振る舞えているかな?そんな思いで彼女を見た。

「イオン…。」

「おぉ〜!めちゃくちゃいい表情!やっぱ彼女が居ると色気も違うねぇ♪」

 ノッてきたのか、カメラマンも店員のようにテンションが高くなってきた。

「おし、じゃあ次はそのままの格好で彼女ちゃんを今すぐ食べたい♡って表情作れるかなぁ?」

「はぁ!?」

 僕より先に、梨子ちゃんが反応した。

「まーまー、彼女さん。演出なんで。セクハラと思わず…。」

 メイクをしてくれた女の人が梨子ちゃんを宥めている。

(梨子ちゃんを、今すぐ食べたい…。)

 今朝のキスしそうになった場面を思い出した。

(…あの時、もしキスしてたら、もしかしたら、そのまま…。)

「「「!!!」」」

ぼうっと考えているうちに撮影は終わったようで、気がついたら店員やらカメラマンやらにべた褒めされた。

「あんた天才だよ!!また次回も是非モデルやってよ!!あ、連絡先教えてくれない??」

 考え事をしていただけで特別何かした訳ではないのに、こんなに褒められるのは子猫以来だろうか…。曖昧に返事していると、梨子ちゃんが割って入ってきた。

「彼スマホ無いんで!あの、もう帰りますね!!」

 僕の手を引いてその場からそそくさと離れようとするが、店員が僕の手を掴んだのでつんのめる形で止まった。

「まぁまぁ。彼氏のあの表情独り占めしたい気持ちは分からなくもないけどさ。男の俺でもうっかり惚れそうになっちゃったし?(笑)。でもせっかく頑張った報酬を受け取らずに帰るのは勿体なくないかい?」

 そう言って厚みのある封筒を僕に手渡した。

「ほい。予想以上の収穫だったから上乗せしといたよ。君ならいつでもモデル大歓迎だから♪」

 撮影スタッフと店員に見送られながら帰る僕たちだったが、梨子ちゃんは機嫌が悪いのか、ずっと黙ったままだった。

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