第26話 side:レイモンド16
「わ、私が悪いんですか?ひどい……私が頼れるのはレイモンド様しかいないから……おそばを離れたくなかっただけなのに……」
「悪いなんて……すまん、責めるつもりじゃなかったんだ。わかった、その使用人には、嫌がらせを続けるならクビだと通告する」
それからまだグズグズと泣くイザベラを慰め続け、ようやく解放されたのは帰宅してから二時間後だった。
心底疲れた俺は、今後このようなことがないよう、家令を通してではなく直接使用人たちに、解雇されたくなければ嫌がらせなどの行為を止めるよう伝えた。すると、数名の女中が『では辞めさせていただきます』と言い出し、結局二名の女中の辞職がその場で決まった。
使用人たちとの話し合いが終わると、さっそく家令が苦言を呈してきた。
「さきほどの女中たちはハンナ様が婦人会を通じて雇い入れた者です。ハンナ様の確認を取らずに解雇するわけにはいきません。契約がどうなっているのか、ハンナ様でなければ分かりません」
「ハンナの確認がいるのか?面倒な……」
「……ですから、私がハンナ様の元へ直接確認に参ります。便りがないことも心配ですし、生活の様子も気になりますので」
明日にでも向かうと家令が言い出したので、これは俺がいずれ様子を見に行くと言いつつ先延ばししていることへの当てつけだと分かったので、仕方なく『休みの許可を必ず取ってくるから待て』と言い、ハンナの元へ家令と共に行く約束をした。
いずれ行かねばならないと思いつつ先延ばしにし続けていた罪悪感もあり、翌日にすぐ上役に相談すると、二つ返事で了承してくれた。
急な休みで申し訳ないと同僚にも謝罪したのだが、上役から仕事をセーブしろと言われていたのを皆知っていたので、快く仕事を引き受けてくれた。
家に戻るとすでに家令が馬車や荷物の準備を全て整えていて、きっと俺が行けなくても出発するつもりだったのだろうと予想がついて、信頼されていないなと感じる。
家令とは道中ずっとギクシャクしていて、どうにも居心地が悪い。
俺が戦争でずっと家を空けていたので、ハンナとのほうが近しい存在だったのだろうが、ここまであからさまにハンナにばかり肩入れされると、二人の間になにかあったのではと邪推してしまう。
別荘までの道はほとんど雪が溶けていて通行に問題はなかったので、半日ほどで到着した。
そしてすぐ、様子がおかしいことに気付いた。
まず別荘までつづく小道が枯れ葉や石などが散乱して、長い間掃き清められた様子がなく薄汚れていた。
あの老婆の使用人がちゃんと仕事をしていたのか訝しく思いながらドアを開けると、ムワッと異様なにおいが鼻を突いた。
「うっ……なんだこのにおい……」
酷いにおいに俺はひるんでいたが、家令は血相を変えて部屋の中へ走って行った。
そうだ、ハンナが住んでいるのにこんな悪臭がするなどあり得ない。
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