第25話 side:レイモンド15
眠りが浅いせいで、日中もぼんやりすることが増えてきて仕事にも支障がでてきた。
イライラして単純なミスを繰り返すようになり、見かねた上役が少し休みを取ったらどうかと提案してきた。
「復帰してからほぼ休みなく働いてくれていただろう。奥方もまだ良くならないみたいだし、少し仕事をセーブして奥方についていてあげてはどうか?」
最近はあまりハンナのことを言われなくなっていたので、久しぶりに話題に出されてドキリとした。
……そういえば、忙しさにかまけてハンナのことは放って置きっぱなしだった……。
雪解けの時期になったことだし、一度様子を見に行かねばならないかもしれない。そう考えると胃のあたりがズンと重くなった。
「はい……そうですね……」
曖昧に笑いながら返事を返し、早々にその場から立ち去った。
屋敷に帰ると苦々しい顔の家令が出迎えてくれた。何事かと思えば、イザベラが他の使用人と揉めて、勝手に解雇を言い渡したらしい。だが使用人頭がこの家の人間ではない彼女にそんな権利はないと言ったために、イザベラが怒り狂い暴れたので応接間の物がいくつも壊れ大変なことになったと教えてくれた。
「イザベラがそんなことを?確かに彼女の発言は良くないが、使用人になにか問題があったんじゃないか?」
「お互いの主張が食い違っているので真偽のほどは分かりませんが、それにしてもイザベラさんの発言は見過ごせません。彼女はあくまで子どもを産む契約愛人で、この家の女主人はハンナ様です。彼女がまるで妻の座についたかのような振る舞いをするのは許しがたい行為です」
家のことは家令がちゃんと取り仕切っているので、イザベラに対してあからさまな嫌がらせをする者がいればちゃんと注意をするだろうが、イザベラ自身が妊娠中で神経過敏になっているから、ちょっとしたことでも怒り出してしまうのだろう。
だが使用人をクビにするといったイザベラの発言は完全に越権行為だ。
「クビの件はイザベラに注意しておく。クビは無しだ。それでいいだろう。この話は終わりだ」
「……こんなことは言いたくないのですが、早急に彼女には別の住まいに移っていただくべきです。本宅を愛人に好き勝手されているとハンナ様がどれほど傷つくか、旦那様はお考えになったことはないのですか?」
「……ハンナが愛人を認める書類を送ってきたんだ。傷つくなど……」
「ハンナ様からはそれ以降、なんの音沙汰もありません。旦那様はどうして奥様が心配にならないのですか?私は心配です……旦那様がお迎えに行かれないのでしたら、代理で私がお迎えに参ります」
「わ、分かった分かった。明日にでも上にかけあって休暇を取ろう。できるだけ早い日程で調整するから、お前もすぐに出発できるよう準備してくれ。一緒に来るつもりなんだろう?」
そこまで言うとようやく家令は引き下がって、もちろん自分も一緒に別荘に向かうということで話が付いた。
自室に戻ると気が緩みドッと疲れが押し寄せてくる。
早く湯を浴びて休みたい……と思っていると、ドアをノックもせずイザベラが飛び込んできた。
「レイモンド様!聞いてください!私、自分が使用人の皆さんに嫌われるのは仕方ないと分かっていたんで、嫌がらせされてもずっと何も言わず我慢してきたんです!ここはハンナ様の味方ばかりだから、愛人の私が何を言っても悪者にされるだけだって!でも……もう限界だったんです!彼女たちがウチに居る限り、私は安心して赤ちゃんを産めません!」
いきなり怒涛の如くしゃべり始めたイザベラに気圧されて、返事もまともにできずにいたが、そんなことはおかまいなく彼女は日ごろの不満を俺に喋り続けた。
「ちょっと落ち着いてくれ……。嫌がらせなどしていないと家令から報告があがっているし、君にこの家の者の雇用に口を出す権利はないんだ。まあ確かにここはハンナを慕うものが多いから居づらいのは分かる。だから別宅を用意すると最初に提案したのに…………」
キンキンとした声で責め立てられ、ついうんざりした口調で言い返してしまった。するとイザベラの瞳にはみるみる涙が盛り上がってあふれ出した。
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