第22話 side:レイモンド12
イザベラが屋敷に移り住んできてから、早めに仕事を切り上げ帰宅するように生活習慣がかわった。
彼女は俺が家に帰ると、いつも笑顔で出迎えに出てきてくれる。そばに控える家令と古参の使用人が苦い顔をしているが、それは仕方がないことだ。
食事を終えたあと、イザベラがお茶を淹れてくれたので、二人きりになったところで、屋敷での生活はどうだと問うてみる。
彼女が言うには、どうやら日中は使用人と同じように掃除をしたりして過ごしているらしい。そんなことをしなくていいと言ったのだが、ちゃんと立場を弁えていることを皆に分かってもらいたいから、やらせてくれと困ったように言った。
使用人たちには、イザベラを迎え入れることには事情があり、ハンナも了承したことだと伝えてあるが、使用人たちは古い慣習の愛人契約が受容れられず反発しているようだった。
誤解のないように俺の口から使用人全員に説明し彼女のことを頼んだというのに、主人の言葉に従わない彼らに腹が立った。
家を空けている期間が長く、家令を含めた使用人たちはハンナを女主人として慕っていた。俺が言ってもハンナに傾倒している彼らは、俺の言葉など聞き入れるつもりがないのだろう。
「使用人に嫌がらせをされているのなら言ってくれ。聞き分けの無い者には暇を出そう」
「いいんです。当然のことですから、そんなことしないでください。奥様がお戻りになった時に、馴染みの使用人が居なくなっていたら悲しみますよ。私は子どもを産んだら出ていく身ですから、今だけですし大丈夫です」
誰もかれもがハンナハンナと彼女のことばかりで、屋敷でも仕事場でも、俺はずっと肩身の狭いように感じていた。ハンナと結婚する前から俺に使えてくれていた屋敷の使用人すら、俺のいうことを尊重しないのかと情けない気持ちになる。
多くの者に慕われ味方がたくさんいるハンナ。
寄る辺なくたったひとりで生きているイザベラ。
この屋敷で使用人が俺のいう事に従わないのなら、俺だけでも彼女の味方になってやらねばいけない。
子を産むだけの愛人契約であるのなら、本来は心を寄せ過ぎないように距離をとるべきなのだが、この状況ではそうすることもできなかった。
家にいるときはできるだけ一緒の時間を作り、休日は一日彼女と共に過ごした。
家令と使用人たちはそれに対し何も言わないが、時々眉を顰めて我々を見ているときがあるので、不満があるのは見て取れた。
このような状況では、俺がいないところでどのようなことを言われるか分かったものではない。
だからこそ余計にイザベラを気遣い、一緒にいる時間を増やせば増やすほど、俺と使用人たちとの距離は空いていった。
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