第17話 崇高な考え
今日のティファの治療を終え、楽しく雑談をしているとルークが迎えに来たとミッシェルが告げに来る。
私は、ミッシェルに連れられ王城からでると、そこにはルークと真新しい、茶色をベースにシックな色合いの、それでいて上等な物だと一眼で分かるオーラを放つ馬車がある。
「ルーク!」
「お迎えにあがりました、リラお嬢様」
「こ、この馬車は?」
「国王様からの贈り物、リラお嬢様専用の馬車でございます」
——な、なんだと! せ、専用! しかも、新車!!
私は馬車の内装や足回り、材質などなど見回っているとルークが説明を始める。
「全体にティターナ社製の魔法コーティングが施され、造作はベックウッド社製。
足回りや、その他の金属部分はドワイズ社。
他の備品なども、エレキテル社、ガンダーラ社、などの一流の職人が手がけた一級品、今年モデルの最高級車でございます」
——こ、今年モデルの最高級車だとぉ! コレ絶対高いよね?
ぜ、前世でも、いや、こう言った技術は前世よりも全然……、進んでる!
「コ、コレ、おいくら万
ルークも正確な金額を知らない様子であったが、私の想像を遥かに超える物だった。
何でもトゥカーナの屋敷が数軒は建つとか……、こんなの恐縮して乗れないよ!
私は靴のが汚れていないかを何度も確認して馬車に乗り込んだ。
帰り道の道中は恐ろしく快適だった、ガタガタとしたから突き上げる揺れはなく、心地よい揺れ……、私はいつの間にか眠りについていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ティファの治療を始めて2週間、髪や肌の色艶は見違える様に、皮膚の変色は身体に少し残るものの、顔の方はすっかり良くなっている。
そして、ティファの表情も豊かになり、城内は以前よりも明るく見える。
「リラお姉様、やっぱり全部脱がなければなりませんか……?」
「うん、魔動脈マッサージは一遍に全身やらないと効果が出ないんだよ」
ティファは私の「様はやめて」と言うお願いに、何をどう思ったのか、お姉様と呼ぶ様になった。
初めは当然、抵抗したのだが……、押し切られ、日常と化している。
ティファの年齢は6歳、幼い時より時の魔法陣の中にいた事により、それよりも若く、背も私より少し小さい、しかし年上、やはりお姉様と呼ばれるのは慣れない。
「じゃあ、始めるね」
「はい、お願いします」
私はティファを、うつ伏せに寝かせ馬乗りになる。
そして、両手を背中に当て、マナをティファの身体に馴染ませた。
「私のマナをゆっくりで良いから感じて〜、徐々に動く感覚、暖かさ、量、うん、良いよ〜、そのままゆっくり〜、おっ、大分慣れて来たね、もう、魔動脈が浮かび上がって来た。
じゃあ、指圧も混ぜていくよ、痛かったら言ってね」
ティファは見た目もそうなのだが、目に見えない部分でも、目まぐるしい回復を見せていた。
まだ私の補助は必要だが、マナを動かす事が出来る様になっていた。
私の補助無しに出来る様になれば、遂に魔術や魔法の訓練、そうなれば完治も見えてくる。
「はい、今日はこれで終わり、上手く動かせる様になって来たね」
「本当ですか! 早くトト様の魔法を使って見たいです!」
「うん、頑張ろうね」
私がティファに魔法を教える事は3人には伝えたのだが、いつの間にか3人にトトの魔法、いわゆる私の魔法を教える事になっている……。
秘密は守ってくれるって言うし、問題はないだろう……、ないよね?
「そうだ! リラお姉様が以前から言っておられた場所ですが、私の部屋の窓から見える庭、あそこなら誰も来ないし、父上も好きに使っても良いと」
「あっ! ありがとう、じゃあ、ちょっと行って来るね、1時間後にまた毒素抜くから時間になったら上から呼んで!」
「はい! お任せください」
◆◇
リラはティファレンスの部屋から見える庭で、何故か大声を上げている。
「ティファ、マッサージは終わったのかい?」
ティファレンスの部屋にランスロットがやって来る。
「ランスお兄様、はい、終わりました」
「この調子なら来年には学院にも通えるな、ティファは賢いから1年の遅れなんてすぐ取り戻せるよ」
「その事なのですが、やはり私、1学年からリラお姉様と一緒に……」
ローレンスは、ティファレンスをファストーロにある学院の2年生へと編入をさせる為に動いている。
それは彼女の耳にも入っていた。
床に伏せていた頃の彼女は孤独だった、短い時間家族がら訪れる事はあっても、他の者たちが来る事は皆無。
そこに彼女にとっての女神とも言うべきリラが現れた。
リラは初めて本音で話せる者であり、親友であり、家族に並ぶ大事な人、そんな家族やリラから遠く離れた学院に通うのは、彼女にとって孤独の再来を意味した。
「それは難しい、リラのご両親はロンドに入学させるだろうからな……」
「で、では私も」
「いや、それはダメだ、国王の直系は男子ならアストレア王国、女子ならファストーロの学院に行くのが決まりとなっている。
ティファはバトリン学院に行く事になると思う」
「そ、そうですよね……」
ティファレンスの表情ご一気に曇る、ランスロットもそれに気が付き話を断ち切る。
「この話はまた今度にしよう、まだそれまでに完治すると決まった訳ではないしね、それはそうとリラは何処行ったんだ?」
「あ、リラお姉様なら、ほら……」
ティファレンスは窓を開けると下を指差す、そして、ランスロットが窓の下を覗くと……。
「「……」」
「ティファ……、アレは何やっているんだ……?」
「何でしょう……」
「どう見たって奇行にしか……」
「違います! リラお姉様には崇高なお考えがあるのです!」
◆◇
私は
理由はあの意味不明な『唸れ私のデコニックパワー』
以前それに向き合った時、例の如く頭に文字が浮かんだ。
それは、《額にマナを集中し、大声で唸れ私のデコニックパワーと唱える》と言う物だった。
私は自室で何度も何度も唱えて見たが一向にそれらしい反応はない。
——考えられるのは……、
私は、自室と言う事、屋敷には絶えず誰かがいる事などから、こんな恥ずかしい言葉を大声で言う事を出来ずにいた。
いや、家の中の割には頑張った、ルークやメアリーは、何事かと何度か部屋に来たほどだ、流石の私もこれ以上はと断念せざるを得なかった。
そして今日、遂にアレを練習する場を手に入れた、私は心武をしながら、早速大声を上げてみる。
最初からあんな恥ずかしい言葉を、それだけを口にする勇気はない。
適当に体を動かし大声を上げ、よいしょよいしょにアレを唱える。
「はちょー!! ありゃー!! たぁー!! 唸れ私のデコニックパワー!!」
「せいやぁー!! はちょー!! せい!! 唸れ私のデコニックパワー!!」
——こ、これは!……、なんかの罰ゲームか!!
頑張った、そして頑張った……、そのうち麻痺して来て……、アレだけを唱えていた。
額にマナを集中させ……、周囲のマナ、私自身のマナ、それらを指輪を媒体に融合し……、アレを大声で唱える。
「唸れ! 私のぉ、デコニックパワー!!」
——殺す!
リラの頭の中には文字が並んでいた……。
《注:マジカルスーツが装備されていません》
◆◇
「何やってたんだ? 側から見てたら只々、怖いだけだよ?」
「ランスお兄様に理解出来ないのは当たり前です! リラお姉様には凡人では理解出来ない崇高なお考えがあるのです、ですよね? リラお姉様!」
私はティファの部屋で、外でやっていた行為の事を聞かれている。
まあ、収穫が無かった訳ではないが、外での行為を目られていたと思うと、恥ずかしい……、しかも、崇高な考えとか……。
「ま、まぁね、崇高にちかいかもね……」
「ほら! 聞きましたかランスお兄様! それを怖いだけとか、リラお姉様に謝って下さい!」
「ま、まあ、やっぱり崇高ってほどの事では無いかも……』
「またまた、ご謙遜を! 世界最高の術士であらせられるリラお姉様が只々、奇声を上げ、変な踊りを踊られるなんて考えられません! 私は、私だけはわかっております! アレは……、必殺技の練習ですよね!」
——え? アレって必殺技なの!? まあ、それらしくもあるけど、見せられる物じゃ無かったら……。
「えっ? あっ、うん、まっ、まぁね、そ、その辺で、私はティファがわかってくれていれば……」
「リラお姉様なら出来ます! デコニックパワー! いつでも、リラお姉様の好きな時にお庭を使って頂いて構わないですから、必ず成功させて下さい!」
「あ、それ、そんなにハッキリ聞こえてたんだ……、でも、もういいかな、コツは掴めたし……」
「流石、リラお姉様です!」
目を輝かせ私を見るティファ、今日は何だか早く帰りたい気持ちでいっぱいになりました……。
「な、なんだか、ごめん……」
ランスの小さな声は辛うじて私に届いた。
そして、そんなやり取りをしている最中、南の山岳地帯で蠢き始める魔物たちの存在を、私たちはまだ知らない。
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