古のファクト 指輪の書 ——漠然とした前世の記憶を持って産まれたリラは、前世の記憶と不思議な指輪の力で押して参る!——
水道屋屋さんのお兄ちゃん
第1話 プロローグ
ロンフェロー公国、王都ミズリーより西に270km、私はとある屋敷を見通せる大木の上で身を潜めている。
あそこの屋敷主人は私を怒らせた……。絶対に許さん! やるなら、そう、徹底的にだ!
『アルファ隊、2人は見つかった? オルト隊、騎士団の行軍状況は、マルシー隊、逃走ルートは任せた、パーミル隊、1匹も逃すなよ』
私は各隊に念話で状況を確認する。
—よし! 準備は整った!
あとは、ド派手に決めてやる—
『各隊作戦開始! ぬかるなよ、はちょー!』
大木から発射された小さな影、それは門前で何かに阻まれる。
「ちっ、魔力障壁か!」
魔力障壁に、激しい音と共に衝突する小さな頭。
「小賢しいわー! 唸れ! 私のぉ、デコニックパワー!! そら! ぶ・ち・ま・け・ろ・やーー!」
凄まじい勢いで少女のデコに集まるエネルギー、遂には……。
ガガーン!
魔力障壁を突き破りド派手に破壊された屋敷を囲う外壁の一角。
砂煙が引くと……。そこに1人の少女が姿を表す。
漆黒のボブヘアにそこから飛び出た尖った耳、全身黒をベースした、真っ赤な差し色が入った特徴的な装束、それらを覆う漆黒のコート。
世にも奇妙なポーズ決め、憎たらしいまでのドヤ顔を見せる少女の瞳は赤く光る。
「悪を許さぬ闇夜に咲く一輪のバラ……」
恥ずかしいまでの決めポーズに、頑張って考えたであろう、これまた恥ずかいセリフの途中、少女は破壊された外壁の諸々によって虫の息である複数の傭兵たちに気がつく。
……あれ?
とある日の昼下がり、闇夜は顔を出してもいなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
むかし、億年より遥か昔、神がとある世界に眷属を遣わした。
言葉を操り、知識の伝承を行える種族、人族……。
人族たちは争いながらも手を取り合い、親から子へ、子から孫へ、経験や知識を伝承し、長い時の流れと共に文明を広めて行く。
村を作り、街を作り、国を作り……。
しかし、そんな世界に厄災、黒き柱が貫く。
突如として現れた黒き柱。
それは世界を貫き、悪意や欲望、嫉妬や憎しみ、ありとあらゆる負のエネルギーを振り撒いた。
負のエネルギーは海を蝕み、大地を蝕み、森を、生き物たちを、そして神の眷属たちも蝕み、遂には神をも蝕み、いつしか形となる。
邪神……。それは強大な負のエネルギー、負の力を持つ負の王。
海や大地は荒れ、生き物たちは凶暴化し、人族たちは欲望のままに争い、世界の至る所で瘴気が湧いた。
悲劇は更に加速する。
混沌の世となった世界……。負のエネルギーや瘴気は増大し、負の王はそれらを元に悪を生み出す。
魔物……。負の眷属とも呼ばれた魔物たちは、瞬く間に溢れ、追い討ちをかけるかの如く世界を蹂躙して行く。
至る所で悲鳴が聞こえ、至る所で火の手が上がり、至る所で命が消え……。さらに、瘴気に当てられた死者たちはアンデッド化し、それは蹂躙に加わった。
まさに地獄……。
「しかし、そんな混沌の世界に一筋の光、白き柱が絶望を切り裂き降臨されます。
柱の名は、女神アージュランテ様……。
女神様は降臨なさると12の天使様方を召喚され、私たちに負の眷属に
天職や才、闘技や魔法などがそうですね。
全ての人に才を与えてくださり、力ある者には天職を授けてくださり、私たちのご先祖様たちは女神様、天使様方と共に負の王に戦いを挑みます。
長きに渡る
統率者を失った魔物たちは弱体し、世界の瘴気も一部を除き徐々に浄化されました。
以上までが教史の一章『聖戦』の内容になります。
中等部では二章の『
当然、中等部入試試験にはこの教史『聖戦』からの問題が出るでしょう、受験校を希望している者は特にしっかり復習しておく様に!」
「「「「はい!」」」」
とある学校の教室、
光沢のある紫色の長いサラサラの髪、それよりも濃い紫色の瞳を持つ彼女は、容姿端麗で、怪しいまでの妖艶さを持つ美女である。
その美しさは、子供たちですら魅了するオーラを持つ。
人気のない教史の授業に関わらず、彼女の授業は人気があり、レダの授業はいつも活気に満ち溢れていた。
質問に次ぐ質問、子供たちはレダの返答を必死でノートに取り、褒められると満遍の笑みを浮かべる。
そんな授業も終盤に差し掛かる。
「はい! 最後に、未だ残る瘴気からは魔物が産み出され続けています。
完全に平和な世とは言えませんが、聖教の聖騎士団、各国の騎士団や衛兵隊、魔物討伐を
「「「「はい!」」」」
「今日をもって初等部の授業は終了となりますが、国立ロンド学術校、初等学園卒業生として誇りある行動をとってくれる事を望みます」
キーン、コーン、カーン、コーン……。
「では、終わります!」
「起立! 気をつけ! 礼!」
授業を終えた教室から各々が塊を作り、
ここはロンフェロー公国、国立ロンド学術校。
広い敷地には学校、学園、学院3つが併設され、学校は初等部と中等部、学園と学院はそれに加えて高等部、計8校の校舎が立ち並ぶ世界最大の学術校である。
前国王アレクスレイの悲願であった教育を主軸とした方針が実を結び、15年ほど前に開校した。
ロンフェロー公国では初等部3年、中等部3年を義務教育とし、学校は自国民であれば無料で通え、学園は有料ではあるが学校よりも高度な授業に加え他国の者でも入学することが出来る。
学院は貴族や上級国民などが主に通い、最高レベルの授業に最新の施設、更には学科の幅も広い。
3年間で3600万G《ガルド》、場所を選ばなければ都会に家が建つ程の学費が必要で、他国良家からの留学も受け入れている。
「ジル! おせぇーぞ!」
「わりぃ、学長に捕まっちゃって」
少し癖っ毛の赤みがかった金色の髪に、パステルブルーの綺麗な瞳を持つ、少年ジルは、校門で待つ数人の少年少女へと駆け寄り、共に帰路へと歩みを進める。
「そう言えばジル君、そろそろお兄ちゃんだね」
「あぁ、2ヶ月後にはね、楽しみなんだけど……、その頃には俺、アストレア王国なんだよね……」
「そっか、お前ウェズリット騎士学院に行くんだっけ」
「え? そうなの?」
「あぁ、剣術留学ってヤツだよ」
「すげー! ウェズリットって言ったら名門じゃん!」
「私だって中等部からは名門のミズリー女学院なんだから!」
「はいはい、さすがお嬢様〜」
「も〜!」
「じゃあ、俺はこっちだから」
「あぁ、じゃあなジル、次は卒業式でな!」
少年少女と別れたジルは自宅へと駆ける。
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