第2話 電撃が走る
—1—
その日の放課後。
有言実行が座右の銘でもある私は、1人で視聴覚室の前までやってきた。ヤバい。どうしよう。緊張する。
3階は2年生の教室があるフロアだからいくら放課後とはいえ1年生の私は場違い感が強い。
すれ違う先輩からの視線も痛い。
それもそうだろう。1年生の女子が10分以上も視聴覚室の前を行ったり来たりしていればそりゃあ目立ってしょうがない。
でも、いざこの場に来てみたら恥ずかしさと緊張とがぐちゃぐちゃに混ざり合って教室に入るタイミングを完全に逃してしまった。
勇気を出して「騙し合いクラブに行ってくる」と言っていたお昼の私、カムバック。
「よしっ」
うじうじするな。やればできる子、
恐る恐るドアに手をかけてゆっくりとスライドさせる。
「し、失礼します」
教室には椅子に座って読書をする郡山先輩の姿があった。
昨日とは随分と雰囲気が違う。
「こんにちは、もしかして入部希望かな?」
郡山先輩は机に本を置き、視線をこちらに向けてきた。
「は、はい! この間の部活動紹介が印象に残ってて」
ドアを閉めて、視聴覚室に足を踏み入れる。
あれ? 気のせいかな、なんか良い匂いがする。
「数多い部活動の中から興味を持ってもらうとなったらあれくらいは必要かなと思ったんだ。何せこっちは廃部がかかってたからね」
「廃部ですか?」
確かにクラブ紹介では、郡山先輩しかステージに姿を見せなかった。
もしかして部員は郡山先輩だけなのかな?
「うん。先輩が卒業しちゃって残ってる部員は俺だけなんだ」
郡山先輩が少し寂しそうな表情を見せた。卒業した先輩たちがいた頃のクラブ活動を思い出したのだろう。
「実は騙し合いクラブは元々は文芸部だったんだ。時ノ音学園は5人から正式な部活動として認められる。また、何らかの理由で5人以下になってしまった部活はクラブ活動に格下げされてしまうんだ。この入部届け提出期間に新入部員が入ってこなかったら騙し合いクラブは廃部になるところだったんだよ」
郡山先輩が机の上に入部届けとボールペンを出した。
私は名前を記入するべくボールペンを握る。
「ちょっと待って。ただ騙し合いをするのもいいけど、それじゃいつか飽きが来るとは思わないかい?」
「そ、そうですね」
郡山先輩は顎に手を当てて何やらぶつぶつと呟きだした。
郡山先輩の言うように平凡な日常に騙し合いというスパイスを加えることで刺激的な日々になることは間違いない。
しかし、刺激的な日々が繰り返されていけばそれが当たり前となり、人は更なる刺激を求めたくなる。
ただ騙し合うというだけでは必ずマンネリ化してしまう。
「そうだ! こういうのはどうだろう。俺が卒業するまでの間、相手をより騙すことができた方が何でも1つだけ願い事を聞いてもらえる」
郡山先輩に叶えて欲しい願い事か。
うーん、別に叶えて欲しいこととかパッと思いつかないな。
ただ私は退屈な日々から脱したいだけ。
毎日のように騙し合い、驚かせ合いをしていたらそれこそ退屈なんてしないだろう。
さっきまでマンネリ化するかなとか考えていたけど、騙し合いにマンネリ化とかあるのかな?
一口に騙し合いと言っても小さいことから大きいことまでバリエーション豊かだし、何段階かに分けて騙すのも面白いだろう。
あれっ、先輩を騙すのが面白そうって考えてる私って一体。
願い事は郡山先輩が卒業するまでに考えておけばいいか。勝負する前から勝つ気でいるけど、やるからには勝たなくちゃね。
「わかりました。絶対勝ってみせます!」
入部届けに自分の名前を書こうとした瞬間、視聴覚室に私の悲鳴が響いた。
宙を舞うボールペン。
私はビリビリと痺れている右手を擦る。ボールペンの芯を出そうとしたら電気が流れたのだ。
「ひ、酷いです先輩」
「ふふっ、そんなに口を尖らせるな後輩。まずは俺の1勝だな」
郡山先輩が少年のような笑顔を見せた。
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