第108話 処理
エキドナエンプレスを骨と皮と内臓にし終わったナイフは溜め息を吐くような素振りを見せた後、エキドナエンプレスの成れの果てから離れ―――
何かを思い出したかのように再びエキドナエンプレスの死骸に向き直り、助走を付けてエキドナエンプレスの頭蓋骨へ突き刺さった。
刀身全てを突き刺す勢いの一撃に満足したナイフは思いっきり捻りを加えて頭蓋骨と脳を損壊して離れた。
持ち主を粉砕された事への怒りを込めたナイフの完全な私怨による攻撃。知性を得た事、行動出来るようになった事でこれまでふわっとしていた感情の制御が出来ず、振り回される形となった。
ナイフ自身、今現在のスッキリした気持ちと衝動的にやった行為を疑問に思いつつ、持ち主の気配を感じる場所に意識を向ける。
理解出来ない事を考えるより、視認不可レベルになるまで持ち主がどう復活するかの観察へと移行した。持ち主がどうやって復活するかを見ておけば、今後持ち主が戦闘不能に陥った時に自分がどういった行動をすれば良いのかがわかる気がした。
◆◆◆◆◆
目に見えない細かさの肉の欠片が蠢き寄り集まって一つの肉片になる。ここまで爆散してから三十分。
本体となる肉の欠片がどれかわかり対処すれば、匠を完全に殺し切れるのか。
粉砕され散らばった肉片を全て焼き尽くす、凍結させる、溶かすなどすれば、ソレは消滅するのか、それとも細胞未満になっても、どのような条件、環境下でも時間を掛けて徐々にソレは復活していくのか、検証する者がいないので、その真相が今後明らかになるには匠を捕らえて実験をするしかないだろう。
肉片が時間と共に徐々に大きさを増していく。
肉の欠片から爪ほどの大きさ、拳ほどへとなり、最後には脳に至る。ここまで計一時間。
脳が形成されるとそこからは骨が造られ、頭部、首、肩、腕、胸部、腹部、臀部、脚と淀みなく肉が付けられていき、漸く
しかし、まだ匠は目を覚まさない。
ガワが完成したら次は中身が造られていく。人体錬成を観察していたナイフも、完品になっているのに未だ目を覚まさない
中身の生成にフェーズが移行すると心臓と肺、ナイフにもある核が最初に造られた。続いてお世辞にも、もう人とは言えなくなった匠のほぼ使われる事の無くなった他の臓器がパズルのように義務的に配置され、最後に血を流して匠が完成した。
粉微塵になってから合計二時間、なんということでしょう、肉の一欠片からニンゲンが完成したではありませんか!
ガワも中身も完成したので呼吸も血流も再開されて顔には生気が戻っていた。匠が目を覚ますのは時間の問題である―――
◆◆◆◆◆
「............あー、クッッッソ」
意識を失う寸前、頭部に襲い来るぶっとい尾を思い出し悪態を吐いた。身体を石化させられて行動キャンセルから頭部へ会心の一撃。あの程度の石化なら問題無いとタカを括っていた......正直腸が煮えくり返るくらいムカついている。自分にも、蛇にも。
しかし怒ってはいられない。あのクソ蛇は脅威を徹底的に潰し尽くすタイプだろうし、俺がこうして復活できたのはある意味奇跡だろう。
先ずやらなければいけない事は安全確認。【空間認識】を使いながら周囲の気配を読む。
―――よし、周囲は安全。だけどなぁ、クソ蛇はよく見た死に方をしていて、その傍らにナイフが剥き出しで置いてあるのは......まぁアイツが喰い殺したとしか考えられないけど。ギチギチに縛っても無駄なのかぁ......
気を取り直して自身の肉体を確認。当たり前の様に全裸。異常は無い。
あのクソ蛇は、首を落とされた俺の胴体を粉々に砕いて処理したんだろうな......俺が死んだであろう場所には微かな石片と金砕棒が残っているだけだから多分正解。
「......隠し持っていた寸鉄は、壊されたのかな? アレの可能性を追うのはこれからだっていうのに残念だ......チッ」
他の荷物は無事。ロストしたのは寸鉄と記憶に残らないような細々した物。被害は軽微だな多分。
とりあえず脅威は無いと判断して、続けてステータスのチェックを行う。
真っ先に目に付いたのはレベル。ヘビの前にやったサイ共で3上がっていたレベルから更に6上がっていた。これは......俺が直接殺さなくても、ある程度ダメージを与えていれば関係者とかが倒しても経験値が流れてくると考えていいのかな?
多分、某RPGみたいに複数人で戦ったら均等割りになるか、貢献度とかで引かれるんだろうなぁ......これならソロの方が楽でいいっぽい。組む人なんか此処には居ないから考えるだけ無駄だけど。
......いや、触手で歩けるようになったナイフが自発的に倒したと見て......コイツに経験値流れた? それなら俺は本気でコイツの廃棄を考える。
......んー、メリーさん人形みたいになりそう。目を覚ましたら背後でウネウネしてたとか、目を覚ましたら足に絡みついてウネウネしてたとか。あ、ヤバい、これ完全に呪いの装備品じゃ......
うん、上手い廃棄場所......いや、納めるに値する場所があればそこに丁重に奉納するとしよう。流石に祀りさえすれば呪われない。うん。
そんな事を考えていたら目の端の方で触手がウネッた気がするけど気の所為だな。アレはただのナイフ。アレはただのナイフ。
――よし、気を取り直して次だ。
貯蔵してある血液は残り凡そ550ℓ。戦闘でごっそり減った分と全損の分でかなり減らした。
前に全損に近い事をやらかした時はどれくらいあったか覚えてないけど大体半分減っていた。総量で違いがあるのか一律かわからないけど、全損になる事態はならない方がいいから気をつけよう。あぁ、くそっ、完全に負けたという事実がジワジワと精神を蝕む。くっそイライラする......
「ふぅぅぅ......」
やり場の無い怒りと情けなさを溜め息と共に吐き出して冷静になる努力をしてから立ち上がり、部屋の中に遺ったモノの処理へと取り掛かる。
正直、気は進まないけど放置は出来ないからコレは俺がやるしかない。
恨むなら恨んでいい。身勝手なクソ親が無責任に産んだだけの何の罪も無いガキと卵を、俺は今から全て処理する。
残せばきっとこの中から第二、第三の俺みたいのが出来上がる。
次以降の餌たちであろう卵の影に隠れてひたすら外敵が去るのを待つガキ、生きるのに絶望しているガキ、碌に身体も動かせないだろうに反抗的な目だけは残るガキ。
そして、産声を上げる前に処分されるしかない餌として産まされた哀れな大量の卵たち。
皆、俺が殺す。
生かしておいても共食いか餓死。それか蠱毒のような場になり第二の蛇の化け物になるの三択しかないと思う。ならばいっそ、後顧の憂いは完全に排除する。
「ごめんな」
逃げる気力も無い子蛇を一体ずつ、なるべく苦しまないように金砕棒で屠っていく。
「子は親を選べないけど、もし次があれば......今世で得られる筈だった分の幸せを感じられるといいね」
無常な音が何度も何度も鳴り続けた。
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吉持ㅤ匠
半悪魔
職業:血狂い
Lv:70→79
HP:100%
MP:100%
物攻:250
物防:1
魔攻:130
魔防:1
敏捷:200
幸運:10
残SP:0→18
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残592.3L
不死血鳥
部分魔化
魔法操作
血流操作
簡易鑑定
空間認識
殺戮
状態異常耐性Lv8
壊拳術Lv4
鈍器(統)Lv7
上級棒術Lv3
小剣術Lv7
投擲Lv8
歩法Lv8
強打
強呪耐性
石化耐性Lv4
病気耐性Lv4
熱傷耐性Lv4
解体・解剖
回避Lv10
溶解耐性Lv6
洗濯Lv2
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装備:
魔鉄の金砕棒
悪魔骨のヌンチャク
肉食ナイフ
貫通寸鉄
火山鼠革ローブ
再生獣革のブーツ
貫突虫のガントレット
聖銀の手甲
鋼鉄虫のグリーブ
魔鉱のブレスレット
剛腕鬼の金棒
圧縮鋼の短槍
迷宮鋼の棘針×2
魔法袋・小
ババアの加護ㅤ残高13680
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