第103話 脱出
・食道を逆流して口から出る
・このまま下って排泄物と一緒に脱出
・内臓と腹をブチ破ってエイリアン誕生......あれ?
プレデターだったっけ?
まぁいいや、俺に与えられた選択肢はこの三つ。
登るのはヌルヌルすぎて無理、かといって下りるのは生理的に嫌。死んでも嫌。
ならばもう選べる選択肢は一つしかない。
このまま腹を突き破って出る。臓物をぶち撒けて醜く死ねばいいクソが。
「......どうせなら苦しめたいし、徒手格闘の訓練も兼ねて素手で行こう」
手元には鈍器しか武器は無いしどうせ殴るしか出来ないならばなるべく長く苦しめるように素手でチマチマやって行こうと決めた俺は篭手を付け、右手に寸鉄を握り胃の壁と対峙する。寄生虫に当たった事が無いからわからないけど、アレは地獄のような苦しみだと聞いた事がある。生理も重い人は腹の中をハンマーや釘バットで殴られ続けるような感じで動けなくなるらしいし、今からやるのはモンスターにも効果があるだろう。
腹の中で好き勝手やるから勝手に苦しめ。ちゃんと食べる物には気を付けないといけないって学べてよかったな。
先ずはオーソドックスに寸鉄を握り込み、正拳突きを繰り出す。
貫通力や威力が上がるらしいが、バカでっかいゴムを殴った感触で如何せん寸鉄の効果がわかりにくい。打撃を加えた箇所は若干凹んでいる。
続いて一度寸鉄を外し先程の正拳突きと同威力になるように一撃を繰り出す。
拳に伝わる感触は、寸鉄有りの時に比べて倍以上軽い。なるほど、と思う。有りと無しでは全然違った。上手く説明出来ないが......拳が殴るための道具から凶器に変わっていた感じがする。
「......ふふ」
こんな良い物だったのならもっといっぱい使っていれば良かった......それに、これはただ殴る為だけの道具じゃない。使ったことがないから合ってるかわからないけどクナイのようにも、それ以外にも色々と使える機能があるだろう。
「ババアの店で売ってたらもう一個買いたいな。両手にコレを装備すれば金砕棒が使えない狭い場所やちっこくてすばしっこい相手でも十分戦える」
手元には可能性の塊のような暗器。それを心行くまで試せと言わんばかりに用意されている無限サンドバック......ありがとう、有効活用させてもらうよ。
――それからの俺は、知識にある打突を繰り返し、繰り返し何度も繰り出した。
肉壁がヘタれば横にズレ、また繰り返す。
途中で一度大きな地響き? まるで俺を飲み込んだモンスターが倒れたかのような衝撃があったが気にせず殴り続けた。それから暫くして肉壁が蠢かなくなったが気にしない。今の俺は修行僧だ。
一発一発に意味を持たせて撃ち抜く。無駄な一発は撃たない。
身体が軋むのは余分な力や動きがあるから。
筋肉が痛むのは力を上手く使えていないから。
『レベルが5上がりました』
煩い、黙れ。集中が途切れるだろうが!!
そうして一つ一つの無駄を丁寧に取り除いていく。
一発撃つのに十分以上掛けるなんて事もあるが時間は沢山ある。睡眠や食事、休息に割く時間の分は頭を使う時間。
納得行く形でやれるようになるまでやり続ければいい。そうすればセンスの無い俺でもいつか思い描いた通りの一撃が出来るようになるはずだ。
なんか食道から不気味なモノが降ってきた。
視界の端でウネウネしている。邪魔するなら殺すぞ。
襲ってくる気配は無いから無視しているが、すっげぇ目障りだ。......殺すか? いや、殺そうか。
集中が切れたので殺意を向けて......おっと、触手が引いてい......
「ウッソだろお前っ!!??」
触手が無くなればあら不思議、信じて送り出したはずの肉食ナイフくんであった。何があった......
触手が生えるナイフ......うん、捨てようかな。どんな心境の変化があったのか、はたまた進化したのか、もしかしたら新しいスキル入手したのかは全くわからないけど......
「違うだろ、そうじゃないんだよお前......」
予想の斜め上なんてレベルじゃない変貌を遂げたナイフにどんな感情をぶつければいいのかわからない。何より触手が生えた事によって自律行動ができるようになった刃物を、よりにもよって刃物の扱いが苦手な俺にどう扱えというのだ。
「......野に放つべきだろうか」
無意識にこんな言葉が出てしまうのは仕方ない事だろう。ただでさえ持て余し気味だったのにさ。
......と言うか、聞こえてたんか!? 意識あんのか!? 怖いから触手生やして足に縋り付いてくんなや!! 捨てないでみたいな行動しないでくれ!!
◆◆◆◆◆
「......はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
修行僧パートは終わった。
ショッキングな出来事によって強制的に終わらせられたというか......今起きた事はこのダンジョンに来てから一番恐怖を感じた出来事だった気がする。
「......はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
溜め息が止まらない。今後落ちるであろうレアドロップを数回逃すくらい幸せが逃げている気がするくらい吐いている。
ヌルヌルと触手を動かして何かを伝えようとするナイフを無視してシャツでギッチギチに縛って封印し、荷物の底へ押し込んだ後にその場に座り込む。
「もう、外に出よう......」
何かドッと疲れた。気分転換がしたい。
こんな気持ちになったのも気持ち悪い体内に長時間居た所為だろう。......今はそういう事にしておきたい。
ストレス発散も兼ねてスカッとする脱出をしよう。一撃でぶち破ろう、そうしよう。
さっき殴ってた感じだと本気でやれば数発で穴が開けられそうな手応えだった......ならば丁度キリのいい数字になっているSPを使って物攻をあげてバーンと外に出てやる。
他のもこの際だから全部使って上げてしまおう。おっ、拳術がレベル10になってる。努力が身を結んだ結果だから素直に嬉しい。
という訳で若干上がったテンションのまま物攻に50、敏捷に30、魔攻に20振り、貯めたSPを丁度使い切りスッキリした所でお外に出よう。
「――ふぅぅぅ......ッッオラァァッ!!」
呼吸で気持ちを整え、構え、振り抜く。
ステータスを振った事で強化された拳の一撃が胃の壁に当たる。踏み込み、身体の回転、拳の角度、インパクト、その他全てが今匠に出来る最高のクオリティだった。
「......ん?」
拳が出す音とは思えない音が胃の中に反響するが、それだけだった。胃の肉を螺旋状に巻き込むようにめり込んだ拳は上手く打ち込めた証だろう。
だけどそれだけ。これは失敗しちゃっt――
パァンッ
悔しさに打ちひしがれそうになった所で外部から風船が破裂したような音が響く。望んでいた結果じゃなかったけど、望んでいた以上の技を得た事を喜ぼう。
「フッッ!! オオォッ......ッラァ!!」
寸鉄の尖った箇所で拳の形にめり込んた胃の壁を突き穴を開け、そこに両手の指をねじ込み全力で開く。
ブチブチブチと繊維が切れる音が気持ちいい。目に飛び込む明るさと新鮮な空気に気持ちが洗われる。
大急ぎで荷物を抱えて外へ飛び出した。
◆◇原初ノ迷宮第六十五層◇◆
「嘘やん」
多分大蛇なモンスター下の方が天井から生えているように見える。要するにアレか、俺を飲み込んだヤツは天井を突き破って待ち構えていた、もしくは落とし穴的なトラップに頭を突っ込んで待ち構えていたかのどちらかって事なんだろう。
「とりあえず血を吸っとこう」
はぁ......なんかもう色々ありすぎて疲れた。
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吉持ㅤ匠
半悪魔
職業:血狂い
Lv:65→70
HP:100%
MP:100%
物攻:200→250
物防:1
魔攻:110→130
魔防:1
敏捷:170→200
幸運:10
残SP:90→100→0
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残1,000.0L
不死血鳥
部分魔化
魔法操作
血流操作
簡易鑑定
空間認識
殺戮
状態異常耐性Lv8
壊拳術Lv1
鈍器(統)Lv7
上級棒術Lv3
小剣術Lv7
投擲Lv8
歩法Lv8
強打
強呪耐性
病気耐性Lv4
熱傷耐性Lv4
解体・解剖
回避Lv10
溶解耐性Lv6
洗濯Lv2
■■■■■■
装備:
魔鉄の金砕棒
悪魔骨のヌンチャク
肉食ナイフ
貫通寸鉄
火山鼠革ローブ
再生獣革のブーツ
貫突虫のガントレット
聖銀の手甲
鋼鉄虫のグリーブ
魔鉱のブレスレット
剛腕鬼の金棒
圧縮鋼の短槍
迷宮鋼の棘針×2
魔法袋・小
ババアの加護ㅤ残高13680
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こっそりと更新!
あっちが大スランプ中なのでせめてこっちを、と思っております。あっちだけの読者の方には本当に申し訳ないですが......
春なのに鷲の死骸がゴロゴロしていて悲しい羊がお送りしました。
追記:やるやる言っていた章分けしました。が、タイトル思い付かないんで雑にやりましたごめんなさい。誰かいい感じのタイトル候補を提供してくれたりしないかなー。かなー|ὢ・ )チラッ
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