第53話 ババアと悪魔とモブ

 ダンジョン生活の唯一の安らぎスポットと化している十層毎に訪れるババアの店に到着した。今回はどんなアイテムがあるのかとワクワクするし、嫌悪感を抱かれずに普通に接してくれる人? との交流は荒んだ自分の精神に優しい。


 ‎......の、だったが......


「‎.........‎‎...えっ!? 誰っ!?」


 ババアは居た。いつもの様に商品の前に座っている。ここまではいつもの光景。


 だが、今回はそこに一つ見慣れないモノがあった。


「‎......えっと......紫色の肌をしてイカつい角が二本生えている......女性? 女性......であってるよね?」


 悪魔族とか魔族とかなんだろうとは思う。寧ろそうとしか見えないボーイッシュな感じの人がババアの後ろに立っている。余りにも現実感のない物で、作り物のようにしか自分の目からは見えない。

 雰囲気では女性の物なんだろうなとは思うけど、如何せん胸部の装甲が紙。ペラッペラの胸部装甲のせいで男装の麗人とも、男の娘ともどっちとも取れてしまう。ほんの微かな膨らみなのか......それとも大胸筋か全然区別ができない。

 対人スキルが全くと言って良いほど鍛えられていない自分にとって、ここは相手側から何かアクションを起こしてくれるまで待つのが正解だろう。


『ヒッヒッヒ......マダイキテイタネ。イラッシャイ』


「......あっはい......じゃあ見せてもらうよ」


 まるで後ろの人は商品かマネキンとでも言うのだろうか。一番気になっている事には全く触れられずにいつも通りの挨拶をもらう。

 微動だにしていないから本当に作り物か何かで商品なのだろうか? 買いたいとは思えない。


「......あ、そうだ。ねぇ、ババアはこのダンジョンが何階層まであるのか知ってたりする?」


『ナンジャキュウニソンナコトキキオッテ。マァ、シッテオルヨ。ソレヨリモ......ヨウヤクウシロノコレニツイテ、キクキニナッタカトオモッタンジャガノウ......ヤレヤレ、コレダカラサイキンノワカゾウハ......』


「......ソレは何か触れちゃいけないモノかと思ったからスルーしてた。だって怖いじゃん......人か道具かもわからない悪魔のような姿形したナニカなんて」


『コンナババアニハチュウチョナクハナシカケルクセシテ......キモッタマノチイサイヤツダネ』


「生き物とわかっていればまだ......でもこの人? 全く動かないからさ......もし人じゃなかったら人形に話しかけちゃった痛いヤツにはなるじゃん」


『キヒヒッ......ハナシカケテゴランヨ。モシカシタラヘンジシテクレルカモヨ......ヒヒッ』


「............えぇぇぇ」


『ヒヒヒッ......アーアーカワイソウダネェ......セッカクコゾウノタメニヨウイシタコノコナノニ......』


 ババアの片言も相俟ってものすごく胡散臭く、わざとらしい演技になったババアにイラッとする。終いにはヨヨヨ......と、泣き真似さえ始めてしまったババアを見て観念した自分は、このナニカを徹底的にスルーする事にしようと決める。


「......ハァ」


 さて、気を取り直して十層毎のご褒美タイムだ。ゆっくりじっくり必要な物や、この先必要になりそうな選んでいこう。


 簡易鑑定を掛けながらじっくり商品を吟味していく。階層を経る毎に物品の質が少しずつ上がっているのはRPGあるあると言ったところか。

 効果が見えないし、ババアは説明してくれないので名前だけで判断するしかない......なので若干ギャンブルになってしまうが、この偏屈ババアにそこまで求めるのは無理だから素直に諦める。ここまではクソみたいな効果の物や呪われた装備品のような物は無かったから信用はしている。


「......あっコレ......コレも良さそう」


〈微速のベルト〉〈硬質化の手袋〉〈貫通寸鉄〉〈快適なパンツ〉〈鬼蜘蛛糸の耐刃シャツ〉


 特に目を引いたのはこの五つ。

 先程のスライム戦で溶けて燃えた剣帯とバンテージの代わりになるベルトと手袋、禍々しい尖り方をしている寸鉄、名前に惹かれたパンツ、長持ちしそうなシャツ。

 寸鉄については詳しい事はわからないけど、殴打の威力アップと刺突武器の合わさった暗器みたいな認識がある。刺突武器と言っていいのか分からないほどにエグい返しと、多分毒とかを仕込める溝みたいな物が付いてとても心を揺さぶられた。


 それと普通に替えの衣類を数点購入し、手持ちの魔石を売払って買い物は終了した。ここまで来ると結構値段が上がるらしくて手持ちのポイントがゴッソリ減ってしまった。

 特に快適なパンツが高かったけどコレは必要経費だから仕方ない...‎...


『ヒヒッ‎......マイドアリ。サテ、ボウズヨ......オヌシハサンザンムシヲシテイタガ、ボウズニコヤツヲショウカイシヨウ』


 買い物を終えたのでいつも通り寝ようと思い、布団替わりの毛布を敷いて寝床を作っていた所にババアから声がかかる。


「えっ......ソレ、本当に生き物だったの!? ババアの演技が大根すぎて揶揄ってるのかと思ったよ」


『ウルサイノウ......マァヨイ。ホレ、ジコショウカイデモシナ』


 ババアに促されたその人形が本当に動き出し、丁寧な礼をしてから話し始めた。


『初メマシテ、私ハ悪魔■■■デス。以後オ見知リ置キヲ』


 ババアよりも聞き取りやすい喋りをする悪魔さん。声が女性のものに聞こえたので、この人はきっと女性なんだろう。名前はノイズが掛かったように聞こえなかった。


「はじめまして、自分は吉持 匠です。何十分も動きも瞬きもせずに立ってたから作り物かと思ってスルーしてました。ごめんなさい」


 聞き返すのもアレなのでそのまま挨拶を返し、スルーしていた事を謝る。なんだろう......外にいた頃よりも人間らしい会話をしている気がする。


『イエ、オ気ニナサラズ。良イト言ウマデ絶対ニ動クナト彼女カラノ指示ガアリマシタノデ、貴方ハ悪クアリマセン』


 全ての元凶はババアであると判明した。まぁババアの機嫌を損ねてお店が閉店してしまうのが怖いから何も言わないけど。


『ヒヒヒッ......ナンジャ、ワラワガワルイミタイニイイオッテ』


『ミタイデハ無イト思イマスガ......』


『マァヨイ......ボウズ、イマカラコヤツトタタカッテミロ』


「............は!?」


 ババアと悪魔さんのやり取りを眺めていると、急に圧倒的に格上と思われる悪魔と戦えとババアからの宣告が下った。



 ─────────────────────────────


 吉持ㅤ匠

 闘人


 Lv:65→67


 HP:100%

 MP:49%


 物攻:130

 物防:1

 魔攻:70

 魔防:1

 敏捷:130

 幸運:10


 残SP:2→6


 魔法適性:炎


 スキル:

 ステータスチェック

 血液貯蓄ㅤ残205.4L

 不死血鳥

 状態異常耐性Lv8

 拳闘Lv7

 鈍器Lv9

 小剣術Lv4

 簡易鑑定

 空間把握Lv8

 投擲Lv7

 歩法Lv5

 呪耐性Lv3

 病気耐性Lv4

 解体・解剖

 回避Lv4

 溶解耐性Lv2

 ■■■■■■


 装備:

 魔鉄の金砕棒

 肉食ナイフ

 貫通寸鉄

 鬼蜘蛛糸の耐刃シャツ

 快適なパンツ

 再生獣革のブーツ

 魔鉱のブレスレット

 剛腕鬼の金棒

 圧縮鋼の短槍

 丈夫なリュック

 厚手の肩掛け鞄

 微速のベルト

 ババァの店の会員証ㅤ残高220


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