第52話ㅤ溶対炎

 ドプンッ‎......


 そんな音と共に身体に伸し掛かってくる重みと全身を襲う痛み。


 油断していた。完全に油断しきっていた。


 えげつない量の単純作業の繰り返しは流石に精神的にクる。気を緩めなければやってらんないわけで‎......これは仕方ない。全てはクソみたいな特性と知性を持っていたイヴィルスライムが悪い。


 ‎......皮膚が溶かされている。皮膚が溶かされていれば当然服や下着も溶かされている。勿体ないけど油断した代償として甘んじて受け入れよう。

 人生で初めて消化されていく気分はすごく不快。できればもう二度と味わいたくないが、ダンジョンなんかの中にいれば今後も何度か味わう事になりそう。


 水圧みたいなモノなのかスライムが圧を掛けているのか‎......謎の力で身体は動かせない。息も出来ない。コレは早く何とかしないとやば......



 ......あれ? 息も出来ないはずなのに全然苦しくならない。なんでだろう?


 まぁいいか、助かったから。血液は酸素を運ぶとか取り込んでるとか聞いた事あるし、きっとその作用が働いてくれたんでしょう。


 やれる事がない......身体が動かせない......ならば、この状況を打開する為に自分がやれる事は一つしかない。燃えよう。

 幸いブーツ以外は溶かされてしまったかれこっちの被害を心配する必要もないし丁度いい。


 さぁお前が自分を溶かし尽くすのが先か、お前が蒸発するのが先か......勝負しようじゃないか。


 これまで服や荷物が燃えてしまうから使い所が無かった技、名付けるならシンプルに人体発火。その名の通りに火だるまになるだけの自爆技だけれども自分とはとても相性がいい。こういう風に囚われて身動きが取れなくなっていたり、全裸になるまで剥かれてしまった時、火だるまになって相手に抱きついたり......服にさえ気を使わなければ結構使い所のありそうな技になるだろう。


 燃えるのか心配だったけど、そこは法則なんて関係なしの魔法の炎。液体っぽい中でもしっかりと発火してくれた。


『ギュイィィィィィィィィッ!!!』


 取り込んだ異物を消化or圧し殺したいイヴィルスライムと、自分を取り込んだ相手を蒸発させて殺したい自分の我慢比べ。しばらく燃やしているとようやくヤツが苦しんでいると思われる耳障りな声が聞こえてきた。


 消化液っぽいモノ&自分の出している炎で目がヤられてしまい見ることが出来ないので、どれくらい効果があるのかがわからないのが辛い。


 MPの残量はどれくらいだろう‎......イヴィルスライムを焼き殺せるまで保つかなぁ......


 あ、そういえば水を掛けても消えない火があるとかないとか......確かナパーム弾とかそういうのから出る火とか......出せたりしないかな?


 油や化学物質を燃やしてるとか......なんかトロトロした炎とか出てもいいんだよ?


 ......って言ってもやっぱり仕組みを理解してたりしないと無理か‎な......消えずに燃え続ける火が出せるようになったりしたら、MPの節約になったり、戦闘での応用がしやすいのに。


『ギギィィィィイ』


 自分が燃える痛みや溶かされる痛み、押し潰されそうな痛み、呼吸が出来ない不快感。

 もう痛みには慣れてしまった。切り飛ばされようが、潰されようが、溶けようが、燃えようが、貫かれようが......何をされても痛みでは怯まない自信が出来てしまった。自分はまだ人なんだろうか。


『ギィィァァァァアッッ』


 まぁそんな事は些細な事......か。他者の血を取り込み、血のストックがあり続ける限り死なない身体を持つ者なんて、人の社会では化け物のカテゴリーに入るだろう。

 忌み嫌われた化け物は化け物らしく、黙ってダンジョンを突き進むべきだ。文明的な物が無いのが寂しいけど、人社会にいた頃よりも充実した生活が送れている気がするし。


『キィャァァァァァァァァ......』


 考え事に没頭していたら、いつの間にかイヴィルスライムの鳴き声らしきモノが弱々しくなっている。

 この調子で続けていれば終わる‎......そう確信し、イヴィルスライムに限界が来るまで、若しくは自分の事を吐き出すまで待てばいい。




 ◆◆◆




 ――なぜこの人間は体内に取り込んでも死なないのだろうか......


 おかしい

 おかしい

 おかしい

 おかしい

 おかしい


 なぜ溶けない

 なぜ呼吸せず生きている

 なぜ燃えていられる


 理解できない

 このままじゃ死ぬ


 熱い

 苦しい


 どうすればいい

 吐き出せばいいだろうか‎......


 ダメ、吐き出したら潰されるだけ


 身体を圧縮しても効果がない


 潰れない

 溶けない

 死なない


 コイツはなんなんだ


 いつの間に人間はこんなに強くなっていたのだ


 いや違う‎......不味い......人間の味じゃない......前に食べた時の味は覚えている


 人間では無い......ならばコイツは何者なのだ


 このままではこちらが殺されてしまう


 どうすればいい......どうすれば......ッッ!!




 ◆◆◆




「......うぉっ!?」


 我慢比べを始めてから体感で十分程、遂に終わりがやってきて不意に外に放り出された。


 ホッと一息つく前にヤツの事を確認してみると、体積はもう自分とほぼ変わらないくらいにまで減ったイヴィルスライムが力なくその場でヘタっている。


「ババアの店で買った服を全部溶かしてくれやがって......ブーツ以外全部無くなっちゃった......コイツ何か良さげなモノを何かドロップしてくれないかな」


 全裸にドロドロのブーツ、そして金棒のなんとも言えないスタイルで息も絶え絶えなスライムに向き合い、トドメの一撃を入れる。

 金棒を突き刺し、強めに炎を出して燃やしていく。地道に全てが燃え尽きるまで丁寧に火を通していく。



『レベルが2あがりました』


 まだ飛び散っていったスライムの残骸が残っていたが、戦闘終了を告げるアナウンスが入る。本体を仕留めれば終わりだったらしい。


「‎‎......くそっ、あの単純作業は無駄だったってことじゃないか。服も溶かされるし、無駄な行為を延々と繰り返してたし......最悪のボスだった......」


 入り口の方まで向かってカバンを回収し、予備の服に着替える。予備のこれらは普通の素材のシャツやズボンで防御力等には全く期待できない。


「......はぁ、これからはこれまで以上に装備を破損しないように気をつけないと......ドロップはっと......はぁ......コレかぁ」


 落ちていた大きめの魔石を拾い、荷物を纏めてババアの店がある奥へと向かう。ステ振りとかは後でいい。疲れたから早くやる事終わらせて寝よう。




 ──────────────────────────────



 吉持ㅤ匠

 闘人

 Lv:65→67



 HP:100%

 MP:17%


 物攻:130

 物防:1

 魔攻:70

 魔防:1

 敏捷:130

 幸運:10

 残SP:2→6


 魔法適性:炎


 スキル:

 ステータスチェック

 血液貯蓄ㅤ残205.4L

 不死血鳥

 状態異常耐性Lv8

 拳闘Lv7

 鈍器Lv9

 小剣術Lv4

 簡易鑑定

 空間把握Lv8

 投擲Lv7

 歩法Lv5

 呪耐性Lv3

 病気耐性Lv4

 解体・解剖

 回避Lv4

 溶解耐性Lv2

 ■■■■■■


 装備:

 魔鉄の金砕棒

 肉食ナイフ

 再生獣革のブーツ

 魔鉱のブレスレット

 剛腕鬼の金棒

 圧縮鋼の短槍

 丈夫なリュック

 厚手の肩掛け鞄

 黒革のナイフホルダー

 ババァの店の会員証ㅤ残高1290

 魔石多数


 ──────────────────────────────




 ──────────────────────────────


 長い事間が空いてしまい申し訳ございません。

 まったり更新ですが再開いたします。またよろしくお願いします。


 更新時間はなんか今日がスーパー猫の日らしいので、それにあやかった結果です。特に意味はありません。

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